あっという間に、「残暑、お見舞い申し上げます」という季節になってしまいました。皆様、お元気でお過ごしでしょうか。 私は6月、極北の地グリーンランドから戻ったあと、「子どもたちのシルクロード」(毎日新聞社。1900円)と「地を駆ける」(平凡社。4800円)、二冊の写真集の写真選びと原稿書きに追われていました。

 写真にはその場での集中力が大切ですが、撮るのは一瞬のことです。しかし、延々と机の上で原稿と向き合うという作業は写真家にはつらいことです。その苦難の時が過ぎ、印刷所への入稿が終わった時には、重かった肩の荷が下りたような解放感を味わいました。あとは校正刷りのチェックと本番の印刷を待つばかりです。埼玉にある印刷所まで連日、出向くのは大変ですが、真っ白な紙に、次々と自分の作品が印刷されていく瞬間には何度、立ち会っても感動を覚えます。

 写真家生活30周年を記念して出版する「地を駆ける」は総ページ416P。13年前に出した「地を這うように」(新潮フォトミュゼ)よりも判が大きく、同じような厚さのわりには軽やかで伸びやかな写真集になりそうです。どちらの写真集も10月6日からの日本橋・三越本店の7階ギャラリーで始まる「微笑みの降る星−ぼくが出会った子どもたち」の会場には並びます。来ることが出来ない方は、書店でもお手にとっていただけるとうれしいです。

 三越百貨店での「微笑みの降る星」は300点を超える大型写真展です。大きな写真、小さな写真、さまざまな写真をそれぞれの見せ方を考え、展示したいと思っております。会期中は連日一時と三時の二回、会場で30分ほどのギャラリートークもありますので、是非、いらしてください。心よりお待ちしております。

 11月2日からは12月19日までは、品川のキヤノンギャラリーS(品川駅から8分)でキヤノン・コレクション展「シルクロード 人間の貌」が始まります。当初は30周年の写真展を予定していたのですが、今回はシルクロードの写真だけに絞ることになりました。前回の「近況報告」と内容が異なってしまったことをお許しください。

 また、9月14日(月)から17日(木)まで、NHKラジオ第一の「ラジオ深夜便」でナイトエッセイ(午後11時半頃)で、「私が出会った子どもたち」というタイトルで、エルサルバドル、アマゾン、コソボ、アフガニスタンでの話をします。お時間が許す方は、聞いていただけると幸いです。

 30年の節目を迎え、この秋は写真展や出版とにぎやかなものとなりそうです。「フリーの写真家になって30年がたつのか」と感慨深いところもありますが、振り返ってみれば、あっと言う間だったような気もしますし、長い道のりだったような気もします。しかし、どんな時にも写真を撮り続けてきたと思います。

 地雷原や激流を越える時でも、過酷な山越えや砂漠の旅でも、カメラだけは放したことはありませんでした。「いい写真、自分の写真が撮りたい」という一念だけが、その旅の支えだったと思います。さまざまな出会いと経験を重ねる中で、「いい写真」も自分自身も変わってきたと思います。変わるからこそ、新しい写真が生まれてくるとも思います。自分がさまざまに変わって行く中で、新しい写真が生まれてくるはずです。その節目、節目での写真集の出版と写真展の開催に皆様に立ち会っていただけることは、私にとって大きな喜びであり、励みです。

 これからも、「その先にある写真」を求めて旅を続けて行きたいと思います。皆さまとお会いできるのを心より楽しみにしております。

                        2009年8月9日  長倉洋海

2009年6月 グリーンランド、カナックにて