(★2013年3月31日追記部分は下方へスクロールしてご覧ください)

 新しい年もあっという間に二月中旬になってしまいましたが、皆様、お元気でお過ごしでしょうか。私は12月から2月にかけて岩手県宮古市、福島県いわき市、岩手県陸中山田町と撮影を続けてきました。1年ぶりの子どもたちと再会し、はじめての子どもたちと出会いました。

 以前は瓦礫でいっぱいだったいわき市の豊間中学も片付けが始めまりました。一方で、久之浜(いわき)の住宅地は見渡す限り何もなく家の土台が延々と続いていました。少しずつですが、家を建て直して戻ってくる人も現れました。
いわき市の薄磯海岸では、残った土台や壁にスプレーでバラの花を描いていた中学一年生がいました。「おばあちゃんがバラが好きで、ここに鉢がたくさんあったんだ。77歳で、ラッキーセブンだから絶対死なないと思っていたのに」と口惜しそうでした。

 始めて訪れた岩手県山田町。山田鉄道の駅舎も燃え、レールはどこかに流されていましたが、2月3日の山田八幡宮の大節祭には大勢の子どもたちが集まりました。神主さんと巫女さんがお菓子や餅を撒くたびに、子どもたちの「福をつかみとろう」とする歓声があふれました。

   *          *       *

今年はいくつかの国を訪れたいと思います。いま頭にあるのはメキシコ、ニューギニア、イランなどです。写真展も予定されています。9月21日(土)から10月20日(日)まで釧路市美術館で、2001年以降の「マスードから山の学校へ」「シルクロード」「北の島、南の島」「だけど、くじけない」などを一堂に会した大型写真展を開催いたします。年末12月には東京で別テーマの写真展を考えております。現在、ブラジルでの写真展の企画も進んでいます。2013年はそれなりに忙しい年となりそうです。

また皆様とどこかでお会いできるのを楽しみにしております。梅の花が開き始め春の気配が感じられますが、まだ寒い日が続きます。お体に気をつけてお過ごしください。

                            2013年2月16日 長倉洋海

★2013年3月31日 追記★

司令官マスードとの首都入城は92年。その時のマスードの厳しい表情が忘れられません。当時、マスードに平和裡の権力委譲を果たそうとしたナジブラー政権のムータット副大統領の手記がネットで発表されました。当時のアフガニスタンの混乱の背景ばかりか、大国や周辺国の介入という激流の中で苦闘したマスードの姿も垣間見えてきます。

<訳者の言葉>

つい先ほど、アフガニスタン民主共和国最後の副大統領が、崩壊にいたる政権内部とソ連内部の出来事を赤裸々に書き下ろした<秘録>を翻訳しネット公開しました。

英などの外国軍が2015年までにアフガニスタンから撤退すると宣言しています。しかしアフガニスタンの現状は平和とは程遠く、二十数年前のソ連軍撤退のときとまったく同じような状況が生み出されつつあります。

そのような国際情勢下、ソ連軍が進駐していた時期のアフガニスタンをめぐる事情が最近になって明らかにされています。たとえば、昨年までに白水社は立て続けにアフガン関係の重要な書物を発刊しています。そのなかでも次の2作は重要です。

・『アフガン諜報戦争』(上)(下)
CIAとアフガン戦争の関わりをアメリカの視点から描いたもの
・『アフガン侵攻1979−1989』
アフガン侵攻の進展をソ連側の視点から描いたもの

しかし、そもそもアフガニスタン問題の主役であるはずのアフガニスタン民主共和国内部の視点からのものは全くありません。これはインテリジェンスの観点から見ても、片手落ちの奇妙なことではないでしょうか。

<秘録>を執筆された元副大統領のアブドゥル・ハミド・ムータット氏とはカーブル陥落直前に逃亡を図ったナジブラー大統領に代わり、マスードらの武装反対派に平和理に政権移譲を果たした方です。 カーブルでの歴史的な政権移譲の瞬間は日本では知る人もいませんが、まさに江戸城無血開城にそっくりです。ナジブラー大統領は水戸にトンズラした徳川慶喜、マ スードは西郷隆盛、ムータット氏は勝海舟です。ムータットさんにこの話をしたら、「僕はそんなに偉くない」と謙遜されましたが・・・。

ムータット氏は、1978年から9年間駐日大使として東京に滞在し、87年にアフガニスタンに呼び戻され、副首相、副大統領を歴任されました。野口は、1980年にムータット氏の知己を得てアフガニスタンとかかわるようになり、ソ連軍撤退の際にはアフガニスタンと日本の合作映画をつくったり、奈良のシルクロード博覧会ではアフガニスタンを代表して6カ月間ショップを運営したり、NHKのシルクロード取材のお手伝いをしたり、と没頭しました。この間に、日本とアフガニスタン、ひいては日本とイスラム社会との関わりについて考え続けました。そんなこともあって、<秘録>のあとがきに野口は「アフガニスタンと明治維新」というエッセーを書きました。

前置きがながくなりましたが、かつてのソ連軍撤退のときと寸分違わぬ状況が生み出されつつあるいま、ムータット氏の「歴史を繰り返すな!」という叫びにいまこそ真摯に耳を傾けるべき時ではないでしょうか。

ムータット氏の<秘録>を書物の形にまとめました。目次は次のとおりです。
・歴史を繰り返してはならない(アブドル・ハミド・ムータット)
・解説=本書を理解するために(野口壽一)
・<秘話> わが政府かく崩壊せり
・著者略歴
・訳者あとがき 「アフガニスタンと明治維新」

全文を下記サイトに掲載しました。 お読みいただけると幸いです。 http://www.caravan.net/muhtat/

野口壽一