季節がやっと秋らしくなってきましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。

 前回の更新から5ヶ月がたってしまいましたが、私は9月18日、東欧の取材を終え、日本に帰国いたしました。取材したのはルーマニアとコソボ。ルーマニアでは、伝統の残るマラモレッシュ地方で素朴な生活を送る一家の娘アナ・マリア(12歳)と家族の生活を取材。その写真は再来年3月、偕成社の新「世界のともだち」(全36冊)のうちの一冊として出版されます。ルーマニア取材のあと、9年ぶりにコソボを訪れ、ザビット一家と会ってきました。当時のコソボは国連の暫定統治下にあり、通信や郵便事情が悪く、直接、連絡をとることができないままの状態が続いていましたが、一家が全員、無事に過ごしていることを知り、ホッとしました。写真集「コソボの少年」の主人公はシュケルゼンは20歳、二冊目の写真集「ザビット一家、家を建てる」の主人公セブダイエは18歳となり、セブダイエは10月から大学生となります。長男のシュペントは大工、次男のアルマンは雨どい取り付けの仕事をしていますが、全員が、いまもあの小さな家に住んでいること、また、三女のファティマが昨年12月から八ヶ月も入院する大病をしたこと、一時期、レストランで働いていたシュケルゼンが、「先生になりたい」という夢を果たすため大学を受けたこと、セブダイエと同じ年で、隣家の娘カドリエは結婚し赤ん坊が生まれたこと、おばあちゃんがザビット一家と暮らしていること、そして、独立を果たしたコソボの現実など話したいことは山ほどあります。

 中でも一番、うれしかったのはいまも続く経済的苦難の中でも、一家が明るく、笑い声と笑顔が絶えなかったこと、セブダイエは、「大震災のあと、何度もメールを送ったけれど、返事がないのでとても心配していた」(本の奥付にあった偕成社の営業部に送っていたらしい)と話し、シュケルゼンは「どんなお土産よりも、あなたが来てくれたことが一番のプレゼント」と言ったくれたことでしょうか。写真集の中で、9年前のままで止まったままのザビット一家がいま私の中で躍動感をもって動きだし、たくさんのことを語りかけてきます。

 ルーマニアで出会ったバシーレ一家も魅力的でした。農作業にいそしみ、パンを焼き、庭にテーブルを出し家族みんなで食事を楽しみます。携帯、コンピューターなどの近代的なものをとりいれながらも伝統を守り、つつましく生きる姿がありました。どんな場所、どんな時代にあっても、その時を思い切り楽しむこと。人の命には限りがありますが、今の生活のなかに、「”永遠”を見つけ、感じること」―それが人の幸福なのだと思いました。そんな姿に、私の心は解き放たれ、喜びに満ちてきます。

 また、いつの日か、私が出会った人々の話をすることができる機会が来ることを心から願っております。

                       2012年9月26日 長倉洋海


9年振りのザビット一家(コソボ)


10月から大学生になるセブダイエと私(コソボ)

日曜日。教会での祈りを終え、踊りを楽しむバシーレ一家(ルーマニア)

山奥で一人、マリア像を彫るガブリエル(76歳) (ルーマニア)