アフガン情勢に関する緊急メッセージ
2021年8月19日


「緊急メッセージ5」

 まずご報告したいのは、カブールからパンシールに戻ったヤシン校長と連絡が取れ、「山の学校」の子どもたちが元気で、通常通り授業が行われているということがわかりました。もちろん女性教師7名も教鞭を取っているということでした。ホッとしました。
しかし、今のパンシールはタリバンと一触即発の状態です。アフマド・マスード(マスードの息子。32歳)がパンシールで反タリバン闘争を宣言し、第一副大統領であるサーレ(パンシール出身)が加わり、空軍のパイロットたちがタリバンから守ったヘリコプターで合流、政府軍の精鋭部隊も集結しているのです。パンシール渓谷にいつタリバンが攻撃をかけるかわからない状況です。
 今までソ連軍・政府軍の攻勢や、タリバンの攻撃をはねのけて来た険しい地形を持つパンシールに簡単には踏み込めないと思いますが、新政権樹立への邪魔となるパンシールにタリバンが攻撃をかけてくるのは間違いないと思います。それにパンシール側も抵抗を続けていくでしょう。
 その戦いに子どもたちが巻き込まれないかが一番の心配ですが、アフマドの父マスードは1984年、ソ連軍の戦略爆撃機による絨毯爆撃を事前に察知し、10万人の住民を多地方に避難させました。彼の息子であるアフマドが住民を盾にとったり、戦闘に巻き込むことのないことを心から祈ります。戦いになれば、住民に被害が及びます。自分の家が燃え、育てた家畜が死ぬのを見るのは耐えきれない悲しみだと思います。それでも1000人を超える人々がなんどもアフマドと集会を開き、意見を集約している場に立ち会いました。人々が抗することを決めたのです。これから予測される困難を引き受ける彼らの覚悟のもとにアフマドは闘争を宣言したに違いありません。
 今回、連合を組んだサーレはパンシール出身なのに、大統領選挙でガニと組んで立候補したことに地域の反発はありましたが、大統領が逃亡した今となって暫定大統領を宣言したサーレこそが政権の正統な後継者なのですから理は彼らにあります。正式な大統領はタリバンも加わった選挙で決まると主張することも可能です。
 その動きが引き金になったのかはわかりませんが、昨日、東のジャララバードでタリバンへの抗議デモが起こり、タリバンの発砲で市民三人が死亡したということです。他にも、パラリンピックに参加予定だった女性アスリートが「参加したい。私を連れ出して」という悲痛な叫びをあげました。これからも抑圧を嫌う人々から声が上がってくることが予想されます。タリバンが正式な政府と認知される前に声を上がるしかありません。タリバンが政府になれば誰も反対できないのです。
 昨日、カブールでタリバンによる記者会見が開かれ、その様子は日本のテレビでも放映されました。タリバンの報道官に地元テレビの女性キャスターがマイクを持ち、「私たちはこれからも仕事を続けることができるのですか」と質問しました。報道官は「イスラム法の許す範囲内で」と答えました。さらに「新しい政府ができ、法律が決まってから(わかるでしょう)という報道官に女性は「いま、はっきりと答えてください」と強い決意の表情で迫りました。報道官に「その質問は持ち帰ります」と答えたのでした。彼らのいうイスラム法とはイスラムができた13世紀をすべての物差しにしていると思われます。その時代には女性キャスターも、女性教師もいないのですから、そうした女性の仕事についてはタリバンの独自の判断に任されるのです。
 イスラム教の預言者にしてリーダーだったムハンマドを長く助けた妻ハディージャは聡明で、夫をさまざまに助けました。もし、彼女が今の時代に蘇るなら、決してタリバンの女性抑圧を許さなかったと私は思います。イスラムにおいて女性は太陽なのです。イスラム教徒は世界13億の人口を持ちますが、時代に合わせてイスラムの解釈を変えていくことも現代イスラム世界の趨勢であり、それからいっても、女性を抑圧するタリバンは世界のイスラム教徒からも非難されるに違いありません。
 これからもアフガニスタンのさまざまな女性や少数者の声に耳を澄ましたいと思います。写真は今年7月に撮った「山の学校」の生徒と卒業生たちです。卒業生の2人は大学受験の結果待ちの途中で、「将来の夢は法律家」、もう1人は「医師になること」と答えてくれました。彼女たちが夢に向かって羽ばたけるアフガニスタンでありますように。 

  2021年8月19日 長倉洋海

<参考記事>

・ パンシールに集結
・ デモに発砲 
・ パラリンピックに出たい
・ 日本に住むアフガニスタン女性の声

・ タリバンに対するムジャヒディンの抵抗は今始まるが、助けが必要
  (ワシントン・ポストの記事(英語)。有料)
  アフマドが西側諸国に向けて支援を呼び掛けた文章です。
  以下は部分訳です
<***
何が起きようとも、私とムジャヒディンたちはアフガニスタンの自由の最後の砦としてパンジシールを守ります。しかし、武器や弾薬、物資が不足しています。

私の呼びかけに応えて、指揮官の安易な降伏に嫌気がさしたアフガン正規軍の兵士たちやアフガン特殊部隊の元メンバーたちが、装備を携えてパンジシール渓谷へ向かっています。また、父の時代から辛抱強く集めてきた弾薬や武器もパンジシールに蓄えていますが、十分ではありません。

多くのアフガン人が西側の皆さんと価値観を共有していることを知ってください。私たちは開かれた社会を実現するために長い間闘ってきました。少女が勉強して医者になることができ、報道機関は自由に報道でき、若者がダンスや音楽を楽しみ、かつてタリバン時代には公開処刑場となっていたスタジアムでサッカーの試合を観戦したりできる社会です。
しかし、タリバン支配下では、間違いなくアフガニスタンはイスラム過激派テロの発生源となり、民主主義社会にとっての脅威となってしまうことでしょう。

自由のために西側の皆さんにできることはまだまだあります。皆さんが、私たちに残された唯一の希望なのです。***>

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