アフガン情勢に関する緊急メッセージ
2021年9月14日


「緊急メッセージ12」

 昨日、twitterで情報検索中、衝撃的な動画が流れました。カブールからの投稿です。後ろ手に縛られた2人の若者が、銃を持ったタリバン兵によって乗用車のトランクに投げ込まれる映像でした。すぐ横の車のそばには、やはり手を縛られた青年が立っていましたが、彼もトランクに荒々しく放り込まれました。その様子を、近くの建物に住む女性がカーテンの隙間からスマホで撮影していたようです。撮った女性の「ああ…」という悲しげな声も入っています。
 身分証明書をチェックして「パンシール出身」とわかると連行される、と聞いていましたが、その証拠となる映像を見たのは初めてです。何度か見たことがある「ナチスのユダヤ人狩り」の映像と重なり、血の気が引きました。「パンシール出身」というだけで、荷物のようにトランクに詰め込まれどこかに運ばれるのです。真っ暗なトランクの中で「殺されるかもしれない」と怯える青年たちの胸の内を思うと、私も苦しくなりました。

 こうした市民が撮った動画を、どうして大手メディアは転用して発表しないのでしょうか。「裏付けが取れない」というのでしょうか。それは黙殺だと思います。一方で、タリバンが会見すればそれを無条件で流す・・・。パンシールでの戦闘や、無抵抗な人への殺戮や拷問、そして、このような強制連行に触れようとしないメディアは、まったくの御用機関でしかないと思います。

 タリバンがパンシールへの攻撃を始める前に、日本を代表すると言われる新聞社から「いま山の学校が置かれている状況についての話をしてほしい」と取材依頼を受けました。記事が出来上がり掲載前日の24日、「掲載はしばらく様子を見ようということになりました。いずれパンシールが注目を浴びる時点まで」と電話がありました。
「えっ、それは戦闘が始まって犠牲者が出てから使うという意味ですか?戦闘が始まる前に、そうならないように掲載すべきではないのですか?」と強く言いました。「あなたは良き会社員かもしれない。でも、ジャーナリストとして、恥ずかしくないのですか」と言っても、記者は黙ったままでした。

 今回、パンシールで起きていることへの世界の対応、そしてメディアの黙殺は、私に第二次大戦中のナチスとイギリス、フランスとの関係を思い起こさせました。ナチスドイツに対して、宥和政策をとったことでナチスの伸長を許したイギリスは、挙国一致内閣の首相がチャーチルとなって方向を転換。一方、ナチスに占領されたフランスからイギリスに避難したドゴール将軍は、そこからフランス国民に抵抗(レジスタンス)を呼びかけました。それが人々の抵抗に繋がり、のちに「侵略者に立ち向かい自由を守った」という自負と誇りをフランスに与えたのです。だからこそ、フランスは「テロ組織に最後まで抵抗を続けたマスード」を評価し、シャンゼリゼの公園に彼の名を冠した通りを作り、叙勲したのです。

 しかし、現在の世界は内向きの自国第一主義をとり、タリバンとの宥和を求める声が主流のようです。それが結果的に「アフマドとパンシールの人々」を見殺しにしているのではないでしょうか。目の前の対処に追われ、未来を見ようとしない世界の有り様は、アフガニスタンの人々ばかりでなく、私をも絶望に追い込んでいます。

しかし、簡単に諦めることはしません。
世界の心ある人々と手を取り合うこと、それだけが私にとっての「希望」です。

  2021年9月14日 長倉洋海


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カブールで、若者が車のトランクに放り込まれて連れ去れる...
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「ハザラは出て行け」ータリバンが追放。民族浄化がすでに始まっている

「悪夢だと言ってー自爆テロでなくなったユーチューバーの最後の声
(Yahooニュース - 日テレnews24)

日本に留学している若者の絶望 (山陰中央新報社)




抗議デモを取材中、タリバンに暴行されたビデオジャーナリストの2人。見えないところで様々な迫害が進んでいる。これを報じない日本のメディアにジャーナリストの魂はないんだろうか。


ようやくBBCが報じた。
タリバン、抵抗勢力の拠点で民間人を殺害 BBCが証拠入手

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