「今日のメッセージ 2023/4/26」
4月21日の金曜日、イスラムのラマダン(断食月)が終わった。イスラム教徒は世界人口の4分の1、約16.5億人を数え、キリスト教に次いで世界2位の宗教人口を誇る。その人々が日の出から日没まで食べることはおろか、一滴の水さえ飲まずに一ヶ月もの断食に耐える。普段、当たり前に口にしている食べ物の有り難みを知り、祈りを深め、自分を振り返る期間とするための、イスラム教徒の聖なる義務なのだ。ラマダンが終わると皆で握手して抱擁し、「イード ムバラク」(祝宴、おめでとう)という挨拶を交わし無事と健康を祝う。アフガニスタンで幾度となく目にしてきた光景だ。人々の晴れやかな表情とにこやかな笑顔が忘れられない。私の撮ったマスードの写真がグリーティング・カードとなってツイッターで紹介されているのを、なんとも言えない気持ちで眺めた。
Hashte Subh Dailyは、「祝うべきイードの日に、『私たちアフガニスタンの女性にはイードはありません』と話す女性の姿」を伝えている。彼女は「タリバンが権力を握ってから、アフガニスタンの女性はすべての自由を失い、イードを持たなくなりました。お祝いや歌が禁じられ、人々は笑いや喜びを奪われています」と話した。
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女性活動家ワヒダ・アミリはツイッターで「タリバンを認めるための国連の会議は、決して認められない」と抗議する女性を紹介している。
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写真の右上に貼り付けられているのはタリバンの最高指導者アクンザダ師と国連の副事務総長のAmina J Mohammed(ナイジェリア出身)だ。彼女が「タリバン承認のために小さな一歩を」とハーバード大学の講演で話したことが、アフガニスタンの人々からの大きな反発を招いている。アフガニスタンの元副大統領アマヌラ・サーレは、「彼女はイスラム教徒らしいが、タリバン統治下で暮らし、彼らのシャリアを守り、壁の内側で影のように生きる準備ができているのだろうか。それができないというなら、何たるナンセンス」とツイッターで厳しく批判している。(ツイートを表示)
国連の副事務総長である彼女が、今までタリバンが起してきた様々な残虐行為を知らないのだろうか。私はツイッターに投稿されたそうした映像を見るたびに「人間はこんなことをすることのか」と辛く悲しい気持ちになる。彼女にはそのような感覚がないのだろうか。
アミナ氏にはそうした事実を知る義務があると思う。アミナ氏のようなタリバン容認の声に明確な「ノー」を突きつけているのが、欧州議会議員のハンナ・ニューマンだ。インディ・ペルシャン・アフガニスタンは、4月13日、人権状況を検討するための会議でアフガニスタンの現状について彼女が話した様子を詳しく伝えている。
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「タリバンは女性から教育、仕事、公園(での散策)などを取り上げ、最近では、女性が国連の食糧支援のために働くことも禁じました。飢餓に晒されている百万以上の国民よりも、自分たちのジェンダー・アパルトヘイトの政策のために、アフガニスタンの未来を脅かしているのです。一般学校は閉鎖され、全国でマドラサが作られ、ジハードのために戦う戦士が作り上げようとされています。私たちはこうした真実に向き合いましょう。簡単にはそれに対する答えや解決方法が見つからないことを私は知っています。しかし、注意深く見つめて行きましょう。タリバンに国際承認を与えるなどと決して考えてはいけません。最後に私は児童への教育活動をしていて逮捕・拘留されているマテゥラー・ウェサの釈放をタリバン当局に強く求めます。」(Indy PersianAfg 紙より)。
国連は、「タリバンの女性職員の労働禁止が続くなら、これ以上、食糧支援活動はできない。5月にはアフガニスタンから撤退する」とタリバンに伝えた、と英国のGuardian紙が報じている。
国連の事務局長は、副事務総長アミナ・モハメドの「タリバン認知のための小さな一歩を進めたい」という発言の反響を沈静化するかのように、「5月1日から2日にかけて、各国のアフガニスタン担当代表をドーハに招き、国際会議を開く」ことを明らかにした。「状況の前進という共通の目的のため、国際的な関与を再活性化させるものだ」と説明しているが、国民抵抗戦線(NRF)は「国連がタリバンと妥協し、世界人権宣言に記された“基本的人権と自由”という原則を貶めることは、近い将来、世界の平和と安全に重大なリスクをもたらす可能性があります。アフガニスタンのガバナンス(統治)の最終的な決定は、4千万のアフガニスタン国民に属しています。私たちは国連の平和、安全、発展における積極的、かつ公平な役割を期待しています」と声明した。
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国連本部の前でも、ニューヨークでも、オランダでも、「フリー、フリー、アフガニスタン」と叫ぶ人々が「タリバンの追放」を求めてデモ行進している様子がツイッターに多く投稿されている。
そうした中、国民抵抗戦線代表のアフマッド・マスードは、市民、有識者、政治家、活動家などとタリバンに向かい合う新たな戦略を作り上げるための会議のため、ウィーンに向かった。
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春になってやっと政治が動き出してきたが、この間、国民は悪夢のような現実の中に閉じ込められてきた。そうした人々を救うためにもタリバンを認知すべきだ、という声もあるが、私はハンナ・ニューマンの言うようにそれを認めてはいけないと思う。タリバンが掲げる「ジハード」、それは彼らに逆らう者全てを攻撃対象としたものであり、タリバンを承認すれば、彼らの偏った思想、テロと暴力に支えられた過激な考えが世界に拡大していくことになるからだ。そうなってから、「あの時、きちんと対応しておけば良かった」と思うのでは遅いのだ。「あのとき」とは、きっと、「いま」なのだろう。
ツイッターでパンシール渓谷を上空から捉えた、のどかで美しい映像を見つけて心が和んだ。心に刻まれた懐かしい風景だ。しかし、その映像に「その自由のない故郷は監獄のようだ」という言葉が添えられているのを見て、アフガニスタンの現実に引き戻された。でも、この風景はなくならない、と思い直した。渓谷の学校が壊され、村の家や木が燃やされても、マスードだったら、「なあに、また作ればいいさ。木は、また植えたらいいさ」と言うに違いない。
彼の声が、パンシールの風景に重なった。
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2023年4月26日 長倉洋海
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