アフガン情勢に関するメッセージ
2023年4月19日


「今日のメッセージ 2023/4/19」

 二人の人物が亡くなった。一人はかつてアフガニスタンに侵攻したソ連軍と戦ったモスレム・ハヤット。もう一人は元国軍将校でタリバンに抵抗を続けていたアクマル・アミールだ。現スリランカ大使を務めるアシュラフ・ハイダリは、二人を「時代は異なるが、ともに国を外部からの攻撃から守り自由と独立を保つ政府を樹立しようと尽力した英雄」とし哀悼の意を表している。

〈左がモスレム・ハヤット司令官、右がアクマル・アミール司令官 ツイッターより

写真右側の自由戦線(元国軍兵士を中心に作られた反タリバン組織で国民抵抗戦線と共闘している)のアクマル・アミール司令官はつい最近、タリバンとの戦闘で亡くなったのだが、世界各地で暮らすアフガン人たちがモスクに集い、その死を悲しんでいる様子をアフガニスタン国際ニュースが伝えている。
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一方、左の写真のモスレム・ハヤットはかつてマスードとともに対ソ戦を戦い抜き、その名を馳せた司令官だ。国軍将校だったがイスラム戦士に加わり、マスードのもとで戦った。マスードが最も信頼する司令官の一人だったが、病んだ妻の治療のために祖国を離れ米国に渡り、その後、英国に移った。しかし、それ以降もロンドンから毎年のようにアフガニスタンに足を運び、祖国の復興を見守ってきた。
彼と私は1983年以来の付き合いだったが、面倒見が良くやさしい性格で、周りのみんなに慕われていた。密着取材をするぞと誓っていたマスードを見失い落胆する私を、ソ連軍から捕獲した装甲車に乗せて、近くの街までのドライブがてらに連れ出してくれたこともあった。内心、いつソ連軍の攻撃を受けるかとヒヤヒヤし通しだったが、彼の思いやりに心が温かくなった。米国に渡りタクシー運転手をしていた頃には、乗客が日本人だと「長倉洋海を知っているか」と尋ね、乗客が知っていたら料金を取らなかった、と話していた。
先月、彼と電話で話した時、肺の状態が思わしくないようで呼吸が苦しそうだった。それでも祖国アフガニスタンの未来を案じ、現状を憂いていた。娘のマリア・ハヤットは「父は死の直前まで祖国と人々のことを考えていました。私は彼の娘であったことを幸せに思っています」とツイッターに投稿した。マスードの息子アフマッドも、心からの追悼の投稿をしている。

〈半旗を掲げて哀悼の意を表した国民抵抗戦線。ツイッターより

 私も強い寂寥感に囚われている。「友を失えば、心にぽっかりと穴が空きます」—マスードの言葉が心に迫ってくる。
 享年62歳、合併症のためロンドンの病院で死去したモスレムを、マスードは「早かったな、もう来たのか」と言いながら、天国に迎え入れているに違いない。パンシール渓谷のジャンガラック村で育った二人。お互いの実家はわずか30メートルほどの距離だった。きっと今頃は故郷の楽しかった思い出話に興じていることだろう。
友よ、静かに瞑(ねむ)れ。

〈2013年4月4日、カブール新市街の映画館の前で、モスレムと私。〉


 タリバンは戦死した自由戦線のアクマル司令官を撮影し、その死顔を見せしめのためか公開した。死者への冒涜は許されないことだが、パラワン州知事は地域の人を前に「イスラム制度に反抗する人々の犯罪は異教徒であることよりも罪が重い」と語り、さらなる反タリバンの動きを警戒している、とアフガニスタン国際ニュースが報じている。(ツイートを表示

 また、タリバンは、女性たちが声を上げることも反乱と捉えているのか弾圧を繰り返している。Panjshir Provinceは、女性たちがタリバンの威嚇射撃の銃声が激しく鳴り響くなか、恐怖と闘いながら、携帯電話でその暴虐を記録しようとする勇敢な姿の映像をツイッターに投稿している。

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モスレム、アクマル、そして声を上げ続ける女性たち。共通しているのは自分の夢を決してあきらめない姿だ。

 カブールの市場で働く少女をレポーターがインタビューした映像が心に残った。この少女の名前はマリヤン。働いて稼いだお金は学校の制服と文房具を買うため貯金しているのだという。「将来の夢は?」と問われると、「医者になりたい」と答えたマリヤン。レポーターが「将来のマリヤン医師(先生)」と呼びかけると、はにかんだ。去っていく彼女を見送りながら、レポーターはいいものに出会ったというように満ち足りた表情を浮かべた。

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 マリヤンとは対照的に、マドラサ(イスラム学校)でムッラーに胸ぐらを掴まれ、引きずり回される幼い男の子の姿を見たときは、心が痛んだ。この映像を投稿したのは、自らが自爆テロに巻き込まれながら生き残ったジャーナリストであるアブドルハク・オメリ。Panjshir Provinceはそれをリツイートし、「このような暴力と扱いを受けた子どもたちがタリバンになって社会に何を行なうだろうか」と書いている。タリバンが暴力を日常的に行う背景には、こうした「暴力を受けた子ども時代」が影響しているのかもしれないと私も思った。

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 人生の悲しみや辛さを乗り越えるために、あるいは生きる歓びを表現するために人々は音楽を作り、踊り、詩を吟じ、花を生け、人と楽しく交わってきた。タリバンはそうした人生の彩りを奪い取ろうとしている。しかし、それは力で奪い取れるものではない。南タジキスタンで、新年を祝って踊り、パラワニ(レスリング)をする人々の姿をこの村出身のジャーナリスト、ニゴラ・ファズリディンがビデオで紹介している。タジキスタンでも1992年から1997年にかけて内戦があったが、人々は文化を確実に伝承してきた。人の心の中には奪い取れないものがある、ということをこの映像は教えてくれているかのようだ。

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     2023年4月19日  長倉洋海





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