「今日のメッセージ 2023/3/29」
アフガニスタンで教育啓蒙活動を進めていたマティウラ・ウィサ氏が「モスクで夜の礼拝を終えて出てくるところをタリバン当局に逮捕された」とamu TVが伝えている。彼は市民教育団体Pen path(“鉛筆が拓く道”)を創設、全国で30万人の子どもたちに本を提供してきたという。
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彼が各地で教育活動をする様子は今までもツイッターで公開されており、このメッセージでも紹介してきたが、私が心打たれたシーンがある。それは彼の授業に聞き入る子どもたちの真剣な眼差しだ。「学びたい」「知りたい」という気持ちが表情から溢れていた。ぜひ、みなさんにも下の動画で一人一人の表情をじっくりと見て欲しい。
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ジャーナリストのデーパ・パレントがウィサ氏に「タリバンの脅威が増しているが、国を出て行く気はないのか」と尋ねると、「アフガニスタンを離れずに、国を築き、田舎で子どもたちを教育する」と彼は答えたという。彼は先月EUを訪れたが、帰国したという。彼が「国を発展させるのは教育です」と語っているツイートを見たこともある。「ペンが国を創る」—それが彼の強い思いだったに違いない。(ツイートを表示)
どうして彼は逮捕されたのか。タリバンが女子の高等教育を認めないからなのか。いや、彼が教育していたのは教育の機会に恵まれない小学生が主だったはずだ。タリバンはそれを禁止していないはずだが、この逮捕の背景にあるものは、低学年、高学年にかかわらず、女性に目覚めて欲しくないというタリバンの考えだと思う。女性は男性の言うことを聞き、子どもを産む道具であって欲しいということなのだろう。つい先日も「女性の教育」を求める女性活動家たち4人がデモの最中に連行されたというニュースがあったばかりだ。
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抗議していた女性たちがタリバンに追われるシーンの動画もあった。捕まれば、鞭打ち、拷問、レイプ、時には銃殺されることもあるから、女性たちは必死に走っていた。
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BBC NEWSは「毎日、学校に戻れるという希望を持って目を覚まします。タリバンは学校を開くと言い続けていますが、もう2年近くが経ちます。胸が張り裂ける思いです」と17歳の少女の気持ちを伝えている。
(BBCニュースを表示)
アフガニスタン国際ニュースは、ヘラートの少女が「机に置かれた教科書や本の写真、監獄に閉じ込められた自画像」を送ってきたことを報じ、少女の「タリバンは少女たちを恐れており、それが私たちを自宅に監禁している理由だ」という声を伝えた。
タリバンはどうして女性の中高教育を禁じるのか。それが悪だとか意味がないことだと信じているわけではない。以前にも何度かお伝えしたが、最近でもTwitterに「ウォール・ストリート・ジャーナルが『幹部たちは隣国パキスタンの学校に子女たちを送り込んでいる』と書いている」いう記事が投稿されている。いままでも、ドバイやカタールで幹部たちの子女史が高等教育を受けているということは何度も報じられているのだ。
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自分たちの娘には教育の機会を与え、どうして他の子はダメなのか。それはタリバンが「女性が真っ当な意見を言ったり行動を起こすのを恐れている」からに他ならない。女性の権利を認めない封建的な男性を自分たちの支持者にするために、そうしているのだ。つい先日だが、AFP通信が「夫の暴力で全ての歯を折られ前政権下では離婚を認められた女性が、タリバンが復活してから、復縁することを命じられた」と報じている。これもそうした男性たちを取り込むための方策だろう。
(Yahoo - AFP/JIJIニュースを表示)
そうした政策をとるタリバンの目的は、国を支配すること。そのために武力と戦闘力を高め、力で国民を押さえ込もうとしている。自分たちの欲望を叶え、タリバンという過激思想をイスラム圏全体に広げようという野心がある。それが高邁な思想ではなく、野心だからこそ、権力闘争や内部対立があるのだ。
彼らが考える教育とは、国民を従順な羊のような存在として、人々を無知のままに据え置くもの。簡単な読み書きと計算ができれば十分で、事実や本質など見えない方が良いと考えているのだろう。ウィサのように人々を覚醒させる教育者は邪魔だったから逮捕したのだ。
その強権の手足になるのは凶暴なタリバン兵士たち。暴行し、略奪し、簡単に人を殺す、そんな部下たちだ。
地方で狂犬のような兵士たちが人々を恐怖で支配している。下の映像は市場で拘束した母親と娘を車の檻に押し込め、「鍵をかけないで」と叫ぶ願いを聞き入れず、携帯を向けた人に殴りかかってくるタリバン兵士の凶悪な姿。それがタリバンの真実だ。
教育が断ち切られる状況下だからこそ、そうした現実や人の姿を伝えるメディアの重要度は増しているが、とても残念なニュースが入ってきた。長い歴史を持ち、アフガニスタンで多くの人が視聴していたBBCラジオのペルシャ語放送が昨年、打ち切られることが決まったが、日曜日が最後の放送になるという。ソ連占領下時代も人々にニュースを届け、世界の動きを教えてくれたラジオ放送で、テレビがない家庭にはなくてはならない情報源だった。それが、時代の波に洗われ、採算が合わないと姿を消していく。
どんなに進歩が喧伝されようと、置き去りにされる人々を生み出していく現代社会、世界、そしてメディアとはいったい何なのだろう。人々の思いを汲み取れない政治やメディアにどんな意味があるのだろうか。
時代が変わり、物事の真実が見えにくくなった時代でも、大切な情報や思いを伝えようとする人たちが必ずいる。その声に耳を澄まし、それを自分の生き方に反映させて行くこと。それが私たちに今できることなのかもしれない。
2023年3月29日 長倉洋海
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