「今日のメッセージ 2023/3/9」
トルコ・シリア国境地帯での大地震が起きてから一ヶ月が立つ。多数の犠牲者が出、世界の人たちが被災者への支援を寄せたが、その配給や支援体制の在り方で、クルド人やシリア難民への差別意識があらわになったようだ。いくつかの国内外のメディアが、被災地のクルド人が「自分たちは二級市民でしかないのか」と憤慨し、シリア難民が「どうしてトルコ人との待遇が違うのか」と悔しい思いをしていることをレポートしている。
この間に、地震とは違う形で命を失った人がいる。トルコとイタリアの間の地中海でアフガニスタン、イラン、パキスタンから亡命を希望した難民200人を乗せた船が沈没し、100人以上が犠牲になったという。女性活動家のアミリ・ワヒダがツイッターで哀悼の意を表していた。(ツイートを表示)
アフガニスタン北部の主要都市クンドゥスからカブールに向かう途中の幹線道路では、タリバンが車を停め、車内の男女比調査を行うことで大渋滞が起きている、とアフガニスタン国際ニュースが報じている。
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タリバンは全国で探索を行って人々への締め付けを強めているが、中東のドーハから明るいニュースが飛び込んできた。第5回国連後発開発途上国会議で、アフガニスタンの女子ロボットチームが活躍しているというニュースだ。どの女性も顔を布で覆うことはせず、伸びやかで晴れやかな表情を見せているのが印象的だ。
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海外で活躍するアフガン女性でパシュトーン人歌手のナグマが、人気トーク番組で『タリバンへの支持を表明し、世界がタリバンを政府として認めるべきだと語った』と、マレナ・アレナム(公衆衛生博士)がツイートしている。また「ナグマは『タリバンは安全と平和をもたらした』と支持の理由を述べた」とも伝えている。
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一方で、ナグマと同じようにパシュトー語とペルシャ語でも歌う歌手タミナ・アルサランは、ナグマが出演した同じトーク番組で、タリバン政権に対してはっきりと批判をしている。
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意見は人それぞれだと思う。が、ナグマの発言にはパシュトゥーン人の民族優先主義がのぞいているような気がする。なぜなら、彼女が話した『安全と平和』は全国民へは向けられていないからだ。ハザラやタジクは二級市民としても認められず、非国民のような過酷な弾圧を受けていることをナグマは知らないのか。いや、知っていても、自分たちが被害を受けていないからいいと思っているのだろうか。
ツイッターで見たパシュトゥーン人のムラー(イスラム僧)が話しているという内容に驚いた。「ラスルラは『パシュトゥーン人が全世界を守る』と語った。パシュトゥーン人は神に愛された民族」というのだ。その話が真実なら、とんでもない選民意識で、神の前でのすべての信徒の平等を説いたイスラム教の基本理念に反するものだ。 (ツイートを表示)
別のムラーはモスクの説教で「家が火事になっても、妻は夫の性的要求に応えるべきだ」と話した、とジャーナリストのハビブ・ハーンが投稿している。イスラムの本来の道を踏み違えたような発言が堂々とまかり通っている。 (ツイートを表示)
私が長く取材してきたアハマッド・シャー・マスードは「パシュトゥーン、タジク、ハザラという民族の違いにこだわるのではなく、民族を乗り越えて、同じアフガニスタン人”としてまとまるべき」と常に訴えてきた。しかし、この国の支配民族であったパシュトゥーン人の中には、他の民族の伸長を快く思わない人たちもいた。そうした気持ちの体現者がタリバンだ、と私は思っている。タリバンが未だに権力を失うことのない背景には、そうしたパシュトゥーン第一主義が潜んでいるのではないか。そうでなければ、たくさんの人たちが簡単に命を奪われる現実に、どうして口を閉ざしていることができるだろうか。
最近も、首都カブールでは男性が惨殺されたり、殺されて車を奪われたというニュースがあり、西のヘラートでは男性5人と女性1人が殺されたというニュースがあった。この状況を「平和で安全」と言える神経が私には理解できない。
(ツイートを表示)※ショッキングな映像が含まれていますので閲覧にはご注意ください。
他にも心が痛むニュースがあった。カブール大学では冬休みが終わり学生たちが戻ってきたが、女学生は中に入れず、校舎の外に座り込んで本を読んでいるというニュースだ。
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それに先立って、カブール大学の樹木がタリバンによって次々に切り倒されたというニュースもあった。
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マスードが学んだカブール大学のキャンパスの無残な姿。ニュースでも「カブール大学の樹木はこの街にとって特別な重要性を持っていると、カブール市民も話した」と伝えた。
しかし、マスードなら、落胆することなく、また木々を植えることだろう。ソ連軍の爆撃で故郷の木々が焼かれるたびに、彼は植林を続けた。いかに木々が人々にとって大切なものかを知っていたからだ。同じように、動物の過度の殺生も好まなかった。そんなマスードの「同じアフガン人としてまとまって困難にあたろう」という言葉はアフガン人に限らず、同じく地上に生きる人間に対しても向けられたものだ。ウクライナに侵攻し殺戮を繰り返すロシアにも、パレスチナ人との共存を拒み続けるイスラエルにも。彼らがその気持ちを少しでも汲み取ることができれば、と思わずにはいられない。
話はさかのぼるが、私がマスードと各地を移動した頃、マスードの姿を見かけた村人たちは胸に手を当て軽く会釈した。それは相手への敬意を示す仕草。遠く外国から訪れた医師やジャーナリストに対しても、人々はその仕草を見せた。心からの敬愛を示すその挨拶に触れるたびに、私の心も爽やかになり満たされた気持ちになったものだ。
あの挨拶がアフガニスタンに溢れることを願ってやまない。
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2023年3月9日 長倉洋海
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