アフガン情勢に関するメッセージ
2023年1月25日


「今日のメッセージ 2023/1/25」

 女性の元アフガニスタン国会議員が1月15日、カブールの自宅で射殺された。ボディガードがいたが一緒に殺されたという。彼女の名はムルサル・ナビザダさん。パシュトゥーン人が多い東部のナンガルハル州出身で、カブール選出の下院議員だった。BBC・JAPANは「彼女の訃報にDr.アブドラはじめ、多くの人がショックを受け、悲しんでいる」ことを報じている。 (BBC記事)
Amu テレビも、議会で演説中の彼女の様子を交え彼女の死を悼んでいる。

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機会があったにも関わらず、国外に脱出せず国内に留まり、「国や政府のあるべき姿を問い続けてきた」彼女の活動を快く思わない勢力が魔の手を伸ばした。この事件の犯人はまだ明らかでないが、メディアへの弾圧や人々の強権政治を続けるタリバンの存在が、こうしたテロを許しているのは間違いない。彼女と直接の面識はなかったが、アフガニスタンの未来を切り開こうと、危険を覚悟で踏みとどまって闘い続けた彼女の冥福を祈りたい。

〈国旗とムルサル・ナビザダさん。ツイッターより〉

彼女が思いを寄せた祖国アフガニスタン。そこから衝撃的な映像が届いている。アフガニスタン国内のあらゆる場所で毎日のように行われているという女性への石投げの刑だ。地面に穴を掘り、そこに座らせた女性に拳よりも大きな石を連続で投げつけるのだ。男性たちが石を投げ続ける光景は、人間が内に抱えた残酷な側面を映し出しているかのようだが、そうしたことを推奨しているのがタリバンなのだ。
※石投げの動画が添付されています。閲覧にはご注意ください。
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アフガニスタンの人々は、こうした現状を「悪夢が早く覚めて欲しい」という思いで耐えているに違いない。
路上で靴を磨き、靴底を売っている女性は半生を教職に捧げてきたという。「夫は病気で働けず、私が10人の家族を支えている」と、辛さをサングラスで隠すようにAmuテレビに語っている。
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アフガニスタンと同じように、イスラム政権の抑圧に晒されているイラン女性とアフガン女性が手を取り合い、ワシントンでデモ行進する様子をAmuテレビが伝えている。

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詩人で女性活動家のイラン人ホダ・ハモーシュも、オスロからイラン女性とアフガン女性の抗議活動の様子をツイッターに投稿している。 (ツイートを表示

中高女子教育を許さないタリバンの監視の目をかいくぐって、篤志の先生たちによる秘密の学校も開催されている。下記の地下学校はカブールでも最も貧しい地区のものだという。

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 人々は諦めない。簡単に諦めては自分の与えられた人生を無駄にすることになる、と考えているに違いない。人が死ぬのも「神に与えられた運命」と考えるアフガニスタンの人たちにとっては、せっかく生かされているのだから、精一杯に生きることも神から与えられた宿命なのだ。
 先日、ツイッターにマスードの動画が投稿されていた。「私たちは戦争と流血を好んで行っているわけではない。平和的な解決が見つかるなら、戦争はすぐにでも終わるだろう。そのことでアフガン人は自らの運命を航海する自由を手に入れることになる」と話している。

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 マスードは道半ばで斃れたが、自分が爆死する夢を見ており、死を覚悟して家族にもそう伝えていた。それも、自分の運命を考えていたからに違いない。だからこそ、懸命に生きた。冒頭に紹介したムルサル・ナビザダもそうだったかもしれない。恐れることなく、自らの使命を果たそうとしていたのだろう。

 マスードは詩が好きだった。中でもイランの詩人ハーフェズ・シラズィーの詩を愛していた。マスードが亡くなる直前には、友人であり外交官で詩人でもあったマスード・ハリリに、何度もこの詩を詠ませた。

『人生はロウソクのように燃え尽きてしまうもの。
この人生は燃え尽きるためにある。
そして、土に還り、神のみもとへ。
それこそが価値あるもの。』

 アルカイダのテロリストはジャーナリストを騙ってマスードに近づき、インタビューが始まった瞬間、自爆テロを敢行した。ハリリはその場に通訳として同席していた。マスードはほぼ即死し、ハリリも全身に瀕死の重症を負ったが、国外で治療を受け九死に一生を得た。
そのハリリが講演で詩を吟じる姿がツイッターに投稿されていた。その美声を聞きながら、マスードが彼の詩の朗読に聞き入っていた姿を思い出した。マスードは亡くなり、ハリリは生き残っている。ハリリは、そのことの意味を考えながら今日を生きているに違いない。
ハリリばかりではない。厳寒のヒンズークシュ山中で、国民抵抗戦線の兵士達も自らの生の意味を問い直しながら夜を過ごしているだろう。

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      2023年1月25日     長倉洋海





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