アフガン情勢に関するメッセージ
2022年12月19日


「今日のメッセージ 2022/12/19」

 今回のメッセージでも、タリバンがアフガニスタンと人々にもたらしている悪害をお伝えしなければならない。これまでもさまざまな情報に接してきたが、それらを見ながら思うことは、タリバン、あるいは彼らの統治がもたらしているのは、「災い」でしかないのではないかということだ。
 アフガニスタンが厳しい冬を迎え、その寒さの中で体を暖めることも、満足な食事を取ることもできない現状を、「タリバンには貧困対策がない」と日刊紙「Hasht e Subh Daily」が伝えている。

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 女性の社会からの排除も凄まじい。公園やハマム(浴場)への立ち入り禁止は前にお伝えしたが、ゴール州で女性の就労許可証の取得を義務化し、独身女性にはその許可証発行を拒否。パラワン州では女性の仕立屋に閉店を命じた等を時事通信ニューデリー支局が伝えている。(時事ドットコムニュース
女性は働くことも家族を養うこともせず、ただ、ひたすら男たちにすがって家に閉じこもっていればいい、ということのようだ。が、男たちにさえ仕事が満足にないことに、どう対処しようとしているのか。タリバンがやっていることは無策を通り越して、自立を奪い、生存を脅かす行為でしかない。

 タリバンは生存や教育の権利を奪うばかりか、心の大切な支えでもある音楽にも弾圧を加えている。ヘルマンド州で楽器を演奏したという罪で拷問され、屈辱を与えられているという写真がツイッターに投稿されていた。(ツイートを表示


 タリバンの人権抑圧は止まるところを知らない。「人権」というと、それは西側の価値観ではないかと思う人がいるかもしれないが、イスラムには「人は神の前に平等であり、無実の人の命を奪うのは人類全てを殺すのに等しい」という言葉があり、どんな罪でも裁判で裁くべきという考えがある。人の命を勝手に、あるいは簡単に奪っていいはずがない。どんな宗教でも民族でも、その考えは世界共通であり、それに背けば自らに罪が降ってくる。
 アフガニスタン国際ニュースは、「国連の最新の報告書では、今年9月中旬以降、パンシールでタリバンによる69件の殺人事件があり、抵抗戦線への協力の容疑で14人の地元住民を恣意的に逮捕し、6件で人々を拷問したと述べている」と伝えている。同時にアフガニスタンの治安が悪化、犯罪が23%も増加していることも懸念しているという。
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そのような状況でも、女性たちはデモを続けている。西部の都市ヘラートでは女性たちが「教育は私たちの権利」と叫びながら中心部を行進している。身を挺して、声をあげている。

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 そして、これまでのメッセージでもお伝えしてきたが、タリバンと彼らを強力に支えてきたパキスタンとの関係が大きく揺らいでいる。国境での衝突を毎日新聞が大きく報じている。

 この衝突だけでなく、TTP(パキスタン・タリバン運動)がパキスタンの治安要員9名を捕虜として、「自分たちをアフガニスタンまで通行させないなら彼らを殺す」と脅している、というニュースも両国の関係に亀裂をもたらしている。

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 パキスタン側も態度を硬化させ、議会では、「今までのようなタリバン支援を見直すべきだ」という声が上がっている。(ツイートを表示

 タリバンは国内に21ものテロ組織を呼び込み、支援を与えているが、パキスタンに戦争を仕掛けているTTPに戦闘中止への圧力をかけようとはしていない。そこには、米国との関係も太くなりだし、前ほどパキスタンに頼らなくてもいいという考えがあるのかもしれない。アフガニスタン国際ニュースは、「米国とタリバンは、ISIS(イスラム国)を封じ込めるための合同軍事委員会を持っている」というイランの元駐アフガニスタン大使の発言を伝えている。(ツイートを表示

 タリバンは親パキスタン派と反パキスタン派で分かれ、さらにはタリバンを構成するパシュトゥーン民族もたくさんの部族に分かれ、お互いが反目し勢力争いを演じてきた歴史がある。しかし、そのように民族や出身地域にこだわっている限り、アフガニスタンでの新しい国づくりは始まらない。そして、それが成されるまで、国民は塗炭の苦しみを味わうことになる。
 数日前に、パリでアフガニスタンの平和のために新たな会議が持たれたとの情報がツイッターに投稿されていた。その詳細はまだ明らかではないが、先日のヘラート会議を皮切りに、タリバン後を見据えた動きが出てきたのは間違いない。(ツイートを表示

 国内で抵抗を続ける人、国外から各国政府や国際世論に働きかける人が連動してこそ、世界へ喚起を呼び起こすことができる。テロリストを追放し、真っ当な国作りがアフガニスタンで進めば、世界が一歩、平和に近づく。全ての争いや問題を一度に解決することはできないが、目の前にある問題の解決に力を注ぐ。それが私にとってのアフガニスタンであり、そこに生きる人々なのだ。
 1年と4ヶ月あまり、これまでタリバンが起こしてきた犯罪を伝えてきた。それを続けてきたのは、世界が裁くかどうか、神が裁くかどうかよりも、私が、許すことができないからだ。声を上げなければ、タリバンの神なき行為を私が認めることになってしまうからだ。
 だから、私は伝え続けたい。アフガニスタンの人々が声を上げることを諦め、変革への希望を捨てない限り。目を背けたくなるようなニュースでも、それをしっかりと見つめ、心に刻み込む。そのことを忘れないようにして2023年を迎えたい。アフガスタン再生に向けての一歩が始まることを願いながら。


     2022年12月19日 長倉洋海





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