アフガン情勢に関するメッセージ
2022年12月10日


「今日のメッセージ 2022/12/10」

 いよいよ2022年もあと少し、2023年は一体、どんな年になるのだろうか。すべての国民が平和に、そして心穏やかに暮らせるアフガニスタンになってほしいと願う。
 そのアフガニスタンでは、タリバンの蛮行が続いている。国際法でも禁止されているムチ打ち刑が、公開刑としてパラワン州で行われたとUNAMA(国連アフガニスタン支援ミッション)が非難している。
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そのような状況でも、女性たちはタリバンによる連行の危険、時には暴力に晒されながらも自由と人権、正義を求める声を上げ、活動家の釈放を求めている。

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 国民の声を聞こうとしないタリバンだが、彼らが権力を握ってすでに1年4ヶ月が経つ。その権力掌握を可能にしたのは、撤退を急ぐ米国がタリバンへの権力移譲を前提に、要求に応じる形で5千人の政治犯を釈放したことが大きな要因だ。米国は現在も毎週4千万ドルの現金を届け、タリバンを支えている。アフガニスタン国際ニュースは「米国アフガン問題担当官トム・ウエストとタリバンの国防相ムラー・ヤクブが、カブールの米国大使館再開についての話し合いを持った」と情報筋の話として伝えている。世界がタリバンを認めていない中でのこうした動きはタリバンに過信を与えるものになるだろう。

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 その一方で、米国は異なる動きも見せる。「米国外務省スポークスマンが、“タリバンに対し、アフガン国内に集結し組織化を進めているテロ集団に無人機攻撃などの行動をとる”、と通告した」とアフガニスタン国際ニュースが報じている。
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 米国は、飴と鞭でタリバンという猛獣を操ろうとしているのだろうか。かつて、アフガニスタンに侵攻したソ連軍の力を削ごうと、海外からのアラブ人義勇兵をパキスタンと一緒になって訓練し、武器を与え、アフガニスタンに送り込んできた米国。その中にサウジアラビアの富豪オサマビンラディンもいたが、のちに9.11同時多発テロという形で米国に牙を剥くことになった。現在、米国はロシアや中国に対してタリバンというカードを使おうとしているが、それが過激派を力づけ、テロを世界に拡散させる可能性が高い。
 米国の覇権維持という目的と、思想拡大にテロを手段とするイスラム過激派の価値観は全く異なるものだ。イスラム過激派は、世界の国々が共に仲良く暮らすことよりも、彼らの理想社会の妨げになっている西欧諸国の価値観を不倶戴天のものとして決して認めようとはしていない。
 アフガン国民にとって決してプラスになると思えない米国の行動に、アフガニスタンの元下院議員だったモヒウディン・メディ博士は、アフガニスタンの知識人、人権活動家、政治家に対し、バイデン政権の政策に抗議し、アフガニスタン問題担当官のトム・ウエストと会わないように呼びかけている。
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 また、米国について、パキスタン軍の元将軍が、トーク番組の中でパキスタン軍が支援したタリバンの悪行を追求されたが、その後に「タリバンは米国をバカにし、お金を取り、そして養ってもらっている」と語っている、という投稿があった。(ツイートを表示)

米国はタリバンを支援し、公開処刑や人権弾圧にはほとんで触れていない。ファラー州で行われた公開処刑に関して、アフガン人からさえ「タリバンが『法と正義によって(処刑を)行う』というなら、無法な殺害を繰り返してきたタリバンこそが最初に処刑されるべきだ」という怒りの投稿があったにも関わらず、だ。

 タリバンは「正義を決めるのは自分たちであって国民ではない」と考え、その厳格なイスラム解釈を国民に強いている。しかし、それも相手によりけりのようだ。先日、アフガニスタンを訪れたパキスタンの外務副大臣を空港に出迎えた時には、顔も隠すことなくジェット機から降り立った「女性」である副大臣を笑顔で出迎えている。イスラム女性に対するタリバンのダブルスタンダードを揶揄する声がツイッターに投稿されている。

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 タリバンの誕生、そして勢力拡大と、それを裏から支えてきたパキスタン。その中心は、対インド戦略を第一義とする軍の統合情報部だが、その思惑とは裏腹に、パキスタンは国内の政情不安を高めている。パキスタン・タリバン運動(TTP)が政府に対する戦闘を本格的に再開しているが、かつて休戦への仲介をしたアフガニスタン・タリバンが仲介をしていない。これもアフ・パキ関係の変化の一つだ。
 次々に新しい名前の過激派が生まれ、パキスタンの治安を悪化させ、パキスタン国民は不安を覚えている。これが大きな反タリバン運動に結びつくかもしれない。下記のニュースでは、新しい過激派組織の名前が登場している。(ツイートを表示)

〈過激派の襲撃事件の後、現場周辺を警備するパキスタン軍。ツイッターより〉

 前回のメッセージでお伝えした、タジキスタンで開かれたアフガニスタンの未来を見据えるためのヘラート会議で、パキスタンから参加したパシュトゥーン系政党アワーミー国民党のカタック党首は「パキスタンはアフガニスタンをパキスタンの第5州とみなしているが、アフガニスタンは現在、大国の政治的・戦力的な草刈り場になっている。パキスタンの基本政策は軍部主導だが、ひとたび民主国家になれば、アフガニスタンに平和が訪れる」と述べている(ウエッブ・アフガンより)。

 タリバン寄りの姿勢をとっている米国内でも、今まで国際政治への提言をしてきたシンクタンク「ハドソン研究所」が国民抵抗戦線のアフマッド・マスードをオンライン・トークに招き、戦いを続ける真意を訊いている。その話の後、ハドソン研究所は「米国はタリバンを国家として認知せず、唯一の抵抗組織である国民抵抗戦線をどう支援するか考えるべきだ」と述べている。(ツイートを表示)

★以下のツイッターでは、アフマッドの言葉も動画で紹介されている。(ツイートを表示)



 アフガニスタンの隣国パキスタン、そして西隣の地域大国イランがいま激しく揺れている。それ次第でアフガニスタンも変わっていくだろう。だが、主体は政治ではなく、そこに生きている人々のはずだ。
 私は、『アフガニスタンの人々の願いと子どもたちの夢』という一点を軸にアフガン情勢を見つめていきたい。それが人々の思いと繋がる手段だと信じているからだ。

ツイッターで見つけた「アルファベットを唱える女の子と、拍手する子どもたち」の映像が心に沁みた。

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 学ぶ喜びが実現される場が、アフガニスタンに戻ってきますように。


       2022年12月10日 長倉洋海




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