「今日のメッセージ 2022/12/05」
アフガニスタンに、政治外交の分野から動きが出始めた。アフマッド・マスードが率いる国民抵抗戦線(National Resistance Front )を中心に亡命政治家、知識人、女性活動家など幅広い分野から人々が集まり、第10回ヘラート平和会議がタジキスタンの首都ドゥシャンベで開催されたのだ。会議では、タリバン政権後の包括的指導体制に関する討議が行われた、と国民抵抗戦線外交部長のアリ・ナザリーがツイッターに投稿している。
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また、インドの有力紙「ザ・ヒンドゥ」は、この会議には米国やEUの外交官も参加しており、彼らは反タリバンの指導者と会った後にインドを訪れ、今後のアフガニスタンについての政治措置などを話し合う予定だと報じている。
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もちろん、何かがすぐに変わるわけではない。11/13の当メッセージでも伝えたが、米国とパキスタンが変わらなければ、アフガン情勢は好転しない。アフマッドも「米国からの週4000万ドルの財政支援がなければタリバンは崩壊するだろう」と最近のインタビューで話している。
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前線にいる国民抵抗戦線兵士の投稿の中には「NATOはテロ集団と戦っている自分たちを見捨てた」というものもあったが、政治や外交、様々な闘争が連携して初めて国が変わって行くはずだ。
〈「自然の美しさと、誇り高き国家抵抗戦線」と書かれた投稿写真。ツイッターより〉
このところ、イランとパキスタンの反政府運動の波が高まっており、メディアがそれと関連させる形でタリバンについて報じることも増えてきている。BBCペルシャ語放送は、イランの反政府運動の高まりがひとつの町や地域ごとという単位で広まっていること、イランの自由を求める国外のデモ、そして、ハザラ人虐殺阻止を訴える人々のデモなどを連続して伝えている。
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そうした国際的な流れの中で、アフガニスタン国際ニュースが「カナダのトルドー首相が『タリバンはテロ組織』。人道支援によって財政的に支援されるべきではない』と述べた」と伝えている。ただ、この発言は、カナダの救援組織が「カナダの対テロ法が、アフガニスタンの人々への支援の妨げになっている」と述べたことに対する発言のようだ。
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私は、タリバンが真っ当な組織であれば、彼らを通しての支援は妥当かもしれないが、タリバンは政府としての一体性を保っていないし、兵士たちを統率することも、彼らの人権抑圧の行動を諌めることもできていないのが現状である今の状態では、タリバンを通さない人道支援が求められると思う。そして、タリバンを変えるための政治的な圧力を強めることなしには、アフガニスタン国民の危機が終わることはないと思っている。
まず改めるべきは、タリバンを交渉相手と認め、毎週4000万ドル、日本円で言えば54億円以上の支援を続けている米国の姿勢だ。そのためには、反タリバンの国際世論が形成されること。それでしか米国は変わらないだろう。現に、1970年代のアフガニスタンへのソ連軍侵攻以来、米国はタリバンの大多数を占めるパシュトゥーン人最優先の政治を行なってきたが、それは今も続いている。
そして、米国と同じくタリバンを支援するパキスタン。そのパキスタンとタリバンの関係にも微妙な変化が見え始めている。
パキスタンのTTP(パキスタンタリバン運動。パキスタン北西部を拠点に活動するスンニ派過激組織。「タリバン」支持勢力の連合体。)が、政府への攻撃を再開したのだ。タリバンの仲介を求めるためか、アフガニスタンの首都カブールを訪れた外務次官ハナ・ラバニだったが、タリバンのヤクーブ国防相に面談を拒否された。
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彼女の訪問に前後して、カブールのパキスタン大使館が攻撃されたとアフガニスタン国際ニュースが伝えている。
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また、パキスタン南部のバルチスタンでも反政府の動きが広まっている。「バルチスタン州でパキスタン警察の車両が自爆攻撃を受け、3人が死亡、28人が負傷した。」とVoaPashtoが伝えている。
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パキスタンはTTPと、南部でのバルチ独立運動という二つの火種の対応に追われている。それでも、パキスタン軍としてはタリバンとの関係を断つことはできないようだ。
アフガニスタン国内では、タリバンによる鞭打ちや処刑が続けられている。BBCペルシャ語放送が鞭打ちの映像をニュースで流している。
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タハール州での鞭打ちもツイッターに投稿されている。
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その上、バルフ大学の女子学生はニカブ(顔のベール)かブルカの着用なしには大学に入ることを禁じられた。投稿した英国のシャブナル・ナスミ(元アフガン難民担当アドバイザー)は、「アフガニスタンの女性たちは窒息死しており、世界が沈黙を守っているのは恥ずべきことです。」と述べている。
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国際社会から女子学生の教育を認めるよう再三に渡り求められているにも関わらず、新たにこのようなことを決めることができるタリバン。毎週米国からの巨額の支援金が入るなら、国連や国際社会からの言葉だけの非難など、何とも思わないのだろう。
また、アフガニスタン国内情勢では新しい動きもあった。長く自宅軟禁状態とされていたカルザイ元大統領が出国した、とのニュースだ。カルザイは国外に出て、国内では語れなかったタリバンの問題点やパキスタンの介入について語るだろうか。そして、マスードの友だったDr.アブドラーアブドラーは国外に出るのだろうか、それとも留まるのか。それを見守りたい。
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仮に、世界がアフガニスタンに見向きしなくても、前を向いて進んでいくアフガン人の姿が人々を励ますはずだ。前述のヘラート会議で、運営を取り仕切ったのがすべて女性だった、というニュースにも、暗雲に覆われたアフガニスタンに少し光が差したように感じた。
〈会議の運営スタッフの写真。ツイッターより〉
アフマッド・マスードは「次の政権では女性が大きな役割を担うことになる」と語っている。女性たちに限らず、お年寄り、子どもたち、民族的少数者、そして戦禍でハンディキャップを受けた人々が共に生きることができる社会を国民の多くが願っているはずだ。
〈OCHA(国連人道援助調整事務所)によると、アフガニスタンでは国民の推定15%が障害を持って暮らしているという。ツイッターより〉(ツイートを表示)
2022年12月5日 長倉洋海
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