アフガン情勢に関するメッセージ
2022年11月28日


「今日のメッセージ 2022/11/28」

 中東カタールで現在、サッカーワールドカップが開かれている。世界各地からたくさんの人が観戦と応援に訪れている一方、アフガニスタン・ロガール州のサッカー競技場では、男女12人が鞭打ちの刑に処せられたと「パンシール・プロヴィンス」が皮肉を込め、その2箇所の写真を並べてツイッターに投稿している。

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カタールでは、ワールドカップのための競技場建設で6千人もの出稼ぎ労働者たち(主にインド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、アフリカからの出身者)が事故で亡くなったといわれ、選手たちがその地での開催に疑問を投げかける抗議も示された。「どんな出来事にも光と影がある」という言葉で問題を簡単に片付けて良いのだろうか、いや、いけないはずだ、と自問自答した。

一方のアフガニスタン。ここでは「光と陰」の光が見えない。タリバンによる国民弾圧は、影よりも「暗黒」そのものといえる。

★パンシール州では、1人の女性とその娘4人がタリバンにレイプされたと地元住民が話している、とAmu TVが伝えた。(ツイートを表示

★ファラー州では元警官が襲われ殺された、と同じAmu TVが伝えている。(ツイートを表示

★ダイクンディ州からは、モエインというハザラの若者から「子どもや女性を含むハザラ人が虐殺された」と、残虐に殺された遺体の写真が投稿されている。
※閲覧にご注意ください※(ツイートを表示


直接の殺害ではなくても、深刻な危機が進んでいる。BBCワールドニュースは、国連担当者の話として「母親が食事をにすることができないため胎児が死亡したり、食べ物や薬のために臓器を売ったり、生活のために娘を売る人たちが増えている」と伝えている。

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西の大都市ヘラートでは、市民が「空腹で泣いている子供を落ち着かせるために睡眠薬を与えている」とBBCの記者に話している。写真はナン(パン)の配給に群がる人々。

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国民の食糧不足は以前から深刻な状況が伝えられているが、中でもショックだったのは、ゴミの中から食べ物を探しているという女性の写真の投稿だった。(この投稿は現在削除されています。)
投稿のコメントには「レイプされたり投獄されないように男性用の服を着て、ゴミから食べ物を探している」と書かれていた。女性の気持ちを思うと言葉が見つからない。

危機の当事者意識が全く感じられないタリバンは、カブール市内で「国民は喜んで音楽禁止を受け入れている」と横断幕を掲げ、国民がタリバンの政策を支持しているという宣伝を行っている。どんな人がそれを真に受けるのだろうか。

タリバンに、世界はどう対応しようとしているのか。国連人権委員会は、イラン政府がヘジャブ抗議運動に弾圧を加え、多数の死者が出ていることを受けて、調査団を設置すると発表した。同委員会は、イラン政府には、女性に対するあらゆる差別の撤廃と、言論や集会の自由を求めている。
しかし、アフガニスタンに対しては、何か事件が発覚するとその都度コメントを発表するが、それだけだ。もっと踏み込んで圧力を加えられないのだろうか。また、サウジアラビアやカタールをはじめとするイスラム諸国も、イスラムの道を大きく外れた暴虐を繰り返すタリバンに強硬な態度をとっていない。世界人口の4分の1はイスラム教徒であるのに、残念でならない。


いまの世界の国々の態度を見ていると、アフガニスタンは世界から見捨てられているのだろうか…と思ってしまいがちだが、アフガニスタンの人々は世界の助けを待ちながらただうなだれている訳ではない。自分で自分の道を切り開こうと奮闘している。
BBCワールドが、国民抵抗戦線のことを報じた。BBCペルシャ語放送では報じられたことがあったが、BBCワールドでは私の知る限り、初めてのことだと思う。

ツイートを表示:インタビューに答える抵抗戦線外交部長のアリ・ナザリー〉


〈雪の中、移動する抵抗戦線の兵士たち。ツイッターより〉

なぜここまで戦おうとするのか。世界は彼らの声に耳を傾けるべきだと私は思う。ひとつの問題を違う角度から捉えることができると思うからだ。物事は、善と悪という2つの光だけで物事を見て判断するのではなく、たくさんの波長の光を当てて見ることでより真実に近づけるのではないだろうか。
例えば、タリバンの多くがパシュトゥーン人だから、どうしてもパシュトゥーン人全体に悪い印象を持ちがちだ。しかし、当たり前だが、パンシュトゥーン人すべてがおかしい訳ではないし、抑圧されている側のタジクやハザラにも過ちに手を染める人もいる。少数民族のウズベキ人も迫害の対象だが、進んでタリバンに加わり、弾圧に手を貸そうとする人もいる。
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人を、人種や出身地で区分けせず、人そのものを見る。これができれば世界は平和に一歩近づく。偏見を身にまとい、世間の見方に合わせて判断を下すのが楽だし、まわりの人との摩擦も生まれない。しかし、それでも自分の目で見極め、自分が良いと信じることを一人でもやり抜いていくうちに、同じように考える仲間や同志が生まれる。そうした人たちと繋がることは、世界を少しずつでも変えていく(「ことができる」は削りました)力になると私は信じている。
そして、その時、アフガニスタンは遠い世界の話ではなく、自分と深くつながっていると感じることができるだろう。 ひとつの物事をたくさんの視点で見ようと努力することは、自分自身を見つめることになり、同時に、世界と向き合い、世界の人々を理解するきっかけになるはずだ。

  
  2022年11月28日  長倉洋海


〈ツイッターに投稿された写真。この子たちの真剣な目と表情。それが世界に届くことを願って投稿されたに違いない。〉




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