アフガン情勢に関するメッセージ
2022年10月31日


「今日のメッセージ 2022/10/31」


 10/29、カブールでモスクへのテロ攻撃が起き、少なくても10人が負傷したとアフガニスタン・インターナショナルが伝えている。(ツイートを表示


タリバン当局者は「調査をする」と語っているが、今までのモスク爆発やテロ攻撃で逮捕者が出たという報道に接したことがない。タリバン暫定政権で4つの大臣ポストを握るハッカニ・グループは、軍に自爆攻撃部隊を作っているばかりか、ハザラやタジク民族への攻撃や抑圧を黙認している。その中心人物ともいえるのが内相代行のシラジュディン・ハッカニだが、彼が10月23日、カブールで一部業務を再開した在アフガニスタン大使館の岡田大使と会談し、「『業務再開を歓迎している』と述べたことをNHKが報じている。

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 シラジュディン・ハッカニは、アルカイダやパキスタン軍統合情報部(IS I)と深いつながりを持ち、米FBIから国際指名手配を受けている人物だ。世界がタリバン暫定政権を問題視し、国際承認をした国家が一つもない状況で、日本の大使が面談するというのはどういうことなのか。そこにどういう意図があるのか、私には理解不能だ。
 タリバンはハザラ族(人口の15-20%)とタジク族(同25%)への弾圧を続けている。特に、1996年以降、タリバンの全国制覇を阻んだマスードへの敵意を抱き続けており、彼の故郷パンシール渓谷住民への強制連行・虐殺は凄まじい。Amu TV は、現地の救急病院のスタッフを始めとするいくつかの情報筋から、「昨年9月以来、中には14歳の少年や16歳の少女を含む172名の民間人がタリバンに殺害された」と犠牲者の写真とともに伝えている。

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パンシールの少女はツイッターへの投稿映像の中で「ここには人権はありません。無実の人が逮捕され、殺されています。戦争捕虜は裁判もなく即刻銃殺され、若者は抵抗戦線への関与を疑われ拷問を受けています。住民から携帯を取り上げ、移動を制限し、民家を没収して、基地に使っています。私たち女生徒は学校には行けていません。国連の人は、人々に会ってこうした実情を聞いて欲しいのです」と話している。
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 日本の大使にとってタリバンの大臣と会うことも大事だろうが、アフガニスタンで何が行われているか知ることなしに、どんな援助を行ない、どんな関係を築くというのだろうか。国民に目を向けて初めて「日本の援助」が生きるのではないだろうか。

 世界の国や政治家が目を向け耳を傾けなくても、アフガニスタンの女性たちは声をあげ続けている。
閉鎖された女子学校の前に集まり、授業再開を訴える女性たち。「何度もここに来ています。どうして再開されないのか。私たちは恐れていません。私たちは学びたいのです」と訴えている。
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女性権利活動家であるコーバン・ハッサーは、400日以上も続く女性の中高学校の授業禁止に対し、「国際社会はタリバンにもっと圧力をかけてほしい」と話す。(ツイートを表示

 世界はアフガニスタンの人々の声に応えることができるのだろうか。私は、隣国パキスタン、そして米国がもっと強い圧力を加えることなしには「現状は変わらない」と思っている。 
 一昨日、ツイッターで見つけたニュースが興味深かった。アフガニスタンの前政権で和平交渉チームの責任者を務めたMasoom Stanekzai が「パキスタンが交渉を破壊した。それを前政権と米国が適正に対処しなかった」とアフガニスタン・インターナショナルニュースで話していたのだ。

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ここで非難された米国。先日、アフガニスタン担当特別代表が、カルザイ元アフガニスタン大統領との電話の後、「アフガン人の間で『真の国民的対話』が緊急に必要である」と述べていた(BBC)。

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 その対話が緊急に必要なのは誰もが分かっていることであり、「それを実現するためにどうするのか」を米国をはじめとする世界の国々が考え、実行しなければならないはずだ。彼の発言に対し、本気でアフガニスタンの問題を解決する気があるのか?と疑ってしまう。
 アフガニスタン和平の鍵をパキスタンと米国が握っていることは、1990年代から今に至るまで変わっていない。両国の権益優先の政策に、アフガニスタンはいまも翻弄されている。そのことを日本の政治家もメディアも注目し、理解して欲しいと私は願う。

 過激派の伸張、ロシアのウクライナ侵攻による中央アジアの不安定ぶり等、アフガニスタンの人々を取り巻く状況は困難さを増している。しかし、それはアフガニスタンばかりではないと、10月26日の国際ニュースに触れて思った。イラン南部の宗教施設に、銃を手にした過激派組織「イスラム国」のメンバーが乗り込み乱射。15人が死亡し、40人が負傷したという。力で国内反対派を押さえつけてきたイラン・イスラム政権に、綻びが出てきたのだろうか。(Yahoo - テレ朝ニュース

また、「米国が、南アフリカの最大都市ヨハネスブルグでテロの危険性があると、自国民に警戒を呼びかけた」というニュースもあった。同様の警告がナイジェリアにも成されているという。
Yahoo - 共同ニュース

 タリバンのもとでイスラム過激派が庇護を受け、活動を拡大させていることは今までもお伝えしてきた。世界で不安定化が進み、その隙間に、イスラム過激派が入り込んでいるのだ。ロシアのプーチンや中国の習近平、彼らが持つ過度の野心も、世界を不安定化に追い込んでいる。経済成長と自然破壊も止まるところを知らない。そうしたツケが、いま一気に吹き出しているのかもしれない。
 私が長く取材したマスードは、戦火の中でも植林を進め、自然を破壊しないように務めてきた。過度に動物を狩ることも戒めた。花を愛し、人の心に染み入る詩を好んだ。彼は、自然の中に神が宿り、それに敬意を払うことが人間の生きていく道だということを知っていた。いま、私たちも「私たちを生かしてくれるものは何なのか」を考えなければ、地球と世界の現状は変わらないだろう。
 戦争という「狂気」の中でも、「正気」を持ち続けたマスードの姿を思い出しながら、そう思う。


 山中で食事をとる抵抗戦線の兵士たち。「白いヒゲの戦士は、ソ連軍と戦い、1995年にはタリバンと戦った。現在、彼はタリバン・テロリストと戦っている」という言葉が添えられていた。
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      2022年10月31日   長倉洋海




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