アフガン情勢に関するメッセージ
2022年10月24日


「今日のメッセージ 2022/10/24」


 9月30日に起きたハザラ女子学生たちへの自爆テロでは死者が43人、負傷者が83人にのぼった。その生存者の1人が目、鼻、顎などに負った怪我の状態を話し、治療のための支援を請う映像がツイッターに投稿されている。目、耳、あご、体の一部を負傷しているという彼女の体だけなく、心に負った傷の深さを思うといたたまれない気持ちになる。
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 アフガニスタンの人々、中でもハザラとタジクの人々が置かれた状況は過酷だ。タリバンが国民抵抗戦線(NRF= National Resistance Front )を制圧しようと1万以上の兵を送り込んでいるパンシール州で、6人の息子を戦闘で亡くしたという母親は、彼らの写真を見せながら「息子たちは『タリバンがやってきた。自分たちは祖国を守るために戦う』と出かけて帰ってこなかった。私に残っているのは『神』だけです」と涙ながらに語る。

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 そのパンシール州では、タリバンによってスマートフォンの使用禁止命令が出された。住民が外の世界へ現状を伝えるのを阻止するためだろう。その命令は住民ばかりでなく、タリバンの兵士についても出されたようだ。パンシール州ダラ地区でのタリバン兵士による住民への暴行のような「仲間内の映像」が外部に出ないように、という判断のようだ。自分たちの残虐行為を、仲間たちに自慢げに見せるための映像撮影が彼らの真実の姿を証言することになるからだろう。

★スマホの禁止(ツイートを表示

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★ダラ地区での暴行(ツイートを表示

スマホで誰もが簡単に撮影できる時代。タリバンが行った残虐な行為は、隠し通せるものではない。パンシールの女性と子どもたちが山岳地帯に逃れて行く写真も、外の世界がそれをどう受け止め、行動するのかが問われている。



 数日前に、国連人権委員会のメンバーがパンシール州を訪れ、タリバンの知事に会った映像がツイッターに投稿されていた。パンシールの女性たちは「(人権委は)どうして地域の住民や女性たちと会って話を聞こうとしなかったのか」と怒りの声を上げている、とアフガニスタンインターナショナルニュースが伝えている。今までSNSに投稿された映像を見ていなかったのか。知事と話すだけで、現地の人権状況を把握し改善されると思っているのか。その真意が見えてこない。女性たちが憤るのももっともだと思う。女性たちはスマホで撮影した「人々の訴え」をアフガニスタン・インターナショナルに送るつもりだと話している。
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 アフガニスタン北部のバルフ州では、女性教師が集められ、「宗教試験を受けるように。それに合格しなければ解雇する」と宣告されたと言う。女性教師たちの後ろ姿からも「戸惑いと不安」の気持ちが伝わってくるようだ 。

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宗教試験については、首都などでも同じように発表された。「宗教試験に合格することは、すべての教師と学校職員にとって必須であり、試験に合格しない者は解雇される」とのことであると、アフガニスタンインターナショナルが投稿した。(ツイートを表示

 アフガン北西部のゴール州では、「家出を理由に、カップルをそれぞれに射殺し、絞首刑にした」とアフガニスタンインターナショナルが報じた。(ツイートを表示

英国の「アフガン人定住と難民」省のアドバイザーであるシャブナム・ナシミは、タリバンが女性を叩く映像を添付し、「アフガニスタンの女性たちは極端なジェンダー・アパルトヘイトに直面しています。女の子は学校に行くことを禁じられ、女性は閉じこもることを強制され、仕事や旅行を制限されています」とアフガン女性が置かれた状況を告発している。(ツイートを表示


また、アラブ首長国連邦の国連大使が「女性が学校に一年以上行けないことは、容認できない」と国連の場でスピーチしたとAmuTVが伝えている。
大使はアラブ女性だが、ベールで体を覆うことも顔を隠すこともしていない。これが現代のイスラムであり、イスラムの教えから反しているわけでもない。イスラムの解釈はさまざまで、それを許さず力で強制することは、寛容なイスラムの道からも外れていると私は思う。

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 タリバンの暴挙はいつまで続くのだろうか。この一年以上、国際世論や各国政府が認知を与えず、その行動を諌めようとしても、全く聞く耳を持っていない。
アフガニスタン専門家バーネット・ルビンが各関係者にインタビューし作成したレポートがStimson Center(米国。安全保障問題に関する研究や提言で実績を持つシンクタンク)に提出されたと、Amu TVがその内容を紹介している。タリバンと周辺国との関係や国境付近での過激派の動向など、興味深い内容が盛り込まれているので概要を簡単に書き出してみる。(ツイートを表示

・1989年(ソ連軍撤退の年)以降、タリバンのようにこの国をコントロールした組織はない。
・タリバンは「米国を打ち負かしたと言う誇りと自信」に溢れている。
・タリバンの主力は極端な保守派である。
・タリバンは北部のウズベクやタジク、ハザラ人司令官を南部カンダハール州出身のパシュトゥーン司令官に替えつつある。
・タリバンはロシア、中国、イランと幾度も協議を重ねているが、その内容の全てを忘れる。
・カタールの外交官は「外務大臣が何が起きているか知らないような国との交渉は困難だ」と述べている。
・ロシアはタジキスタンに「言葉による修辞的な支援は良いが、戦争を行えるような武器支援を行わないように」と言っている。
・中国はタジキスタンに軍のトレーニングセンターを開設(ウイグル人過激派を警戒して)。北部には過激派1400〜2000人がいる。中でもウイグル人過激派はタリバンにパスポートを与えられ、タリバンの特殊部隊を訓練している。
・ISISはシーア派だけでなく、スンニ派の施設やロシア大使館にまでテロ攻撃を広げるようになっている。
・NRFはウイーンでの会議で、「目指すのは武力でのタリバン打倒ではなく、政治交渉による包括政府を作ること」と宣言。国民の抵抗は支援するが、武装闘争の呼びかけはしない。

 まさに、米国政府が実質的な権力を持つタリバンを交渉相手にしたいという思惑に沿うような内容でもある。しかし、国民が生存や基本的な権利を奪われているということより、国家的な戦略を優先して良いということにはならないはずだ。

 「(タリバンが今のようなハザラやタジクへの)民族弾圧を続けていれば、内戦になる」とタリバン暫定政権のウズベク人閣僚(地方復興開発副大臣)が警鐘を鳴らしている、と共同通信が伝えている。
Yahoo - 共同通信ニュース
タリバンがその声に耳を傾けるのか、彼のような人物を排除するのか、今後を見守りたい。最近、日本大使館が一部業務を再開したというニュースを目にしたが、日本政府として「すべての勢力が加わった包括政権に移行するように」とタリバンにもっと圧力を加えられないのだろうか。この国の状況を悪化させないために。

 首都カブールでは深夜、爆発音と銃声が響いたといくつかのツイッターではその映像が投稿されている。誰と誰が戦っているのか。タリバンと抵抗戦線なのか、タリバンとISISなのか、タリバン内部の衝突なのか、今の段階ではわかっていないが、混沌とした政治状況なのは明らかだ(翌日になって地元テレビは「タリバンの内紛」と伝えている)。(ツイートを表示

 見通しの立たないアフガニスタン情勢。20年前にも増して圧政を行うタリバン。未来を悲観して、大勢の人々が難民として国外に逃れた。しかし、国内に留まり、現実を変えようと努力している人がいる。その人たちのことを忘れるわけにはいかない。
 最近のツイッターに、1人のヨーロッパ女性がマスードを知る人たちにインタビューしてまとめた『マスード 伝説のアフガン司令官の素顔』(米、伊、仏、日、トルコ、ポルトガルなどで刊行)の中の一文を読み上げている映像がアップされていた。

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家族のためにサウジアラビアに行って働きたいという男性を前に、マスードが「私は作家でも、医者でも、エンジニアでもありません。だから私は中身のない人間なのです。ただ、自分の国が大好きです。そして、私の神を愛しています」と話したというシーンだ。彼の言葉に、私も、朗読している女性のように涙が出そうになった。
「国を愛し、神を愛する」—。その言葉をマスードは自分に言い聞かせようとしていたのかもしれない。一切の飾りや欲を省いて、目指す道を端的に語ったこの言葉は、国内に残る多くの人々に励みと希望を与えているに違いない。


       2022年10月24日   長倉洋海




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