アフガン情勢に関するメッセージ
2022年10月17日


「今日のメッセージ 2022/10/17」


 お伝えを続けているイランでのヒジャブの被り方が原因とされる女性の死。その抗議は世界各地で起き、同時にアフガニスタンでの女生徒虐殺やハザラ人虐殺にも目が向けられ、連帯が広がっている。
Twitterキャンペーン「ミレニアル世代の大量虐殺を止めろ」は世界に広がり、各国で抗議運動が行われている。

★スウェーデンでの「ハザラ人虐殺への抗議運動」を報じる投稿。(ツイートを表示

フランスのパリでも声があがり、「アフガニスタンのハザラ人虐殺と女性の権利のための抗議」ではパリ副市長もスピーチを行なった。(ツイートを表示

また、パリ市長は、9月のアフガニスタンでの教育センターでの自爆テロの犠牲となった女子生徒のために、エッフェル塔に写真を投影すると発表した。(ツイートを表示


★ 隣国パキスタンでも被抑圧民族バルチ族女性たちが抗議の声をあげている。(ツイッターより )



 ハザラ人虐殺の責任の所在がタリバンにあるのは明らかだが、それを堂々と擁護する人物がいる。アフガニスタンの過激派組織イスラム党の領袖であるへクマチャールだ。1991年、イスラム暫定政権へのクーデターを試み、それが失敗するとパキスタン軍供与のロケット弾2000発を首都カブールに撃ち込んで街を廃墟にした人物だ。
その彼は、Twitterキャンペーン「ミレニアル世代の大量虐殺を止めろ」に対し、「欧米のプロパガンダ(=特定の思想・世論・意識・行動へ誘導する意図を持った行為)だ」と述べ、キャンペーンの支持者を「偏見と無知」と呼んだ、とアフガニスタン・インターナショナルが報じた。自分が無差別砲撃で自国の市民を殺傷したことへの謝罪の言葉を一度も発したことのない人物らしい発言だ。(ツイートを表示


 また、隣国パキスタンのパシュトゥーン人であるアワミ党党首モハムド・ハーンも、「世界がタリバンをテロリストのように見せかけ、その資産を奪おうとするなら、私はタリバンを支持する。私はタリバンの友人であり、外国の介入に反対する」と述べ、タリバンへの強い連帯を示している。

 へクマチャールはアフガニスタンのパシュトゥーン人で、ハーンはパキスタンのパシュトゥーン人だ。「両国にまたがるパシュトゥーン人が統合されれば、パシュトゥーン人はアフガニスタンの真の多数派になれる」と信じている人たちだ。自分たちの国にハザラやタジクは邪魔者だと考える発想が、「テロや虐殺」に繋がっている。タリバンに非はないと弁護する彼らには、爆破テロの現場で泣き叫ぶ人々の姿など目に入らないのだろう。

〈写真はツイッターから〉


 現実を直視できないのはアフガニスタンばかりではない。イランのハメネイ大統領は抗議デモを「欧米の陰謀だ」と述べ、徹底的な弾圧を命じている。そんなイランで国営放送ニュースが乗っ取られる事件があった。
BBCニュースを表示

ヒジャブ着用の抗議デモで犠牲になった女性たちの写真と、炎に包まれるハメネイ師の映像が流れたのだ。石油労働者たちのデモや一部警官の職務ボイコット・・・蟻の一穴が体制崩壊へとつながっていくのかもしれない。

〈ツイッターより〉


 タリバンの暴力支配を変えるには、世界各国の関与が必要だ。中でも大きな影響力を持っているのは米国だが、その米国がいまの状況を変えようとしているのか疑問だ。口先ではタリバンの所業を非難しているものの、本気に止めようとしているようには見えないからだ
 先日のメッセージでもお伝えしたドーハでのタリバンの極秘交渉で、米国が何を提案したのか明らかになっていないが、米国がタリバンを交渉の相手と認めていることは確かだ。(ツイートを表示

 SNSには米国がタリバンに武器を売却しているという投稿もあった。真偽のほどは定かでないが、あり得ない話ではない。タリバンは大量の米軍武器、車両、ヘリを持っているから、メンテナンスと弾薬供給が必要なので交渉に応じるだろう。米国はそれと引き換えに何を得ようとしているのか。それは、少なくても苦しむハザラやタジクの人々の救済ではないだろう。
 米国や欧州の今までのスタンスは「相手をなんとか変えさせる」というものだ。が、そのような戦略はロシアや中国には通用しなかった。いずれにしても、自国の利益だけを考えるのはなく、その地に生きる人々のことをまず考えなければ、大国の戦略は必ず破綻するだろう。 (ツイートを表示


周辺国や大国がどんな戦略を取ろうと、最後に世界を変えていくのは地域の人々の力と意思だ。かつてソ連邦の一部で、今もCIS(独立国家共同体)メンバーとしてロシアと緊密な関係を持つタジキスタンが「属国扱いはやめて欲しい。対等な扱いを」の異例のロシア批判をした。(Yahooニュースを表示

同じCISのウズベキスタンやロシアの友好国インドも、ウクライナへの戦争継続に異を唱えている。いつまでも力と脅しで国や人々を縛り付けることはできないはずだ。それはミャンマーでもクルドでも、パレスチナでも同じだろう。大国が世界を牛耳る時代は終わったのではないか。支配体制が堅牢な中国でも、習近平批判の横断幕が掲げられた。小さな声がいつか大きなうねりになっていく。私たちはそうした時代に生きている。アフガニスタンの抵抗も、世界のさまざまな声や運動と連動して、思ってもいなかった変革を生むかもしれない。 

 今の時代は、これまで放置してきたことのツケを払う時なのかもしれない。目の前の便利さや繁栄に気を取られ、大事なことに真摯に向かい合わなかった罰なのかもしれない。ソ連のアフガン侵攻とロシアのウクライナ侵攻、ナチの暴挙とタリバンの蛮行、ミャンマーやクルドでの弾圧・・・。どれもかつて繰り返されてきたことではないのか。それを「歴史は繰り返す」で終わらせることはできない。「繰り返す」のではなく、歴史を「学ばなかった」から、同じ悲劇に見舞われているのではないだろうか。私たちが歴史から真摯に学ばなければ、その間にも大勢の命が失われていく。

 数日前のツイッターで戦いで亡くなった国民抵抗戦線の兵士の写真が投稿されていた。一人は、数ヶ月前に家族との写真を投稿していた兵士だった。

〈亡くなった戦士の写真のツイッター投稿。〉


〈数ヶ月前にツイッターに投稿されていた写真。〉

胸が痛くなった。言いようのない悲しみも湧いた。この子たちの父はもういないのだ。もう帰ってこないのだ。アフガニスタンがいつか解放されたとしても、父親は戻ってこない・・・。
私はマスードの言葉をまた暗唱した。

「すべての勢力が銃を起き、話し合いをし、選挙で国民の声を聞く」—。

私は必ず、その日がやってくると信じている。それが亡くなった人たちへの手向けでもあるから。

抵抗戦線の兵士が草原で横笛を吹いている。
その音色が空に高く昇っていく。

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     2022年10月17日   長倉洋海




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