アフガン情勢に関するメッセージ
2022年9月9日


「今日のメッセージ 2022/9/9」

 今日、9月9日は故アフマッド・シャー・マスードの21回目の命日だ。マスードが亡くなった2001年の11月、タリバンが首都から敗走すると、近隣諸国に逃れていた難民たちがアフガニスタンに戻り始めた。難民たちの宿舎となっていた「山の学校」も再開し、子どもたちが勉強を始めた。それらの光景をマスードに見てもらいたいと思ったが、彼の姿はもうなかった。

 昨年来、タリバンが再び権力を握り弾圧を繰り返す中で、「もし、マスードが生きていたら」と思うことがあるが、それは詮無いことだと思うようにしている。
しかし、今日、ツイッターに投稿されたマスードの写真を見て、人々の気持ちが感じられた。このポスターには「マスードの魂が安らかでありますように」という言葉が添えられていた。



 International News Channel for Afghanistanは、カブール市内の賑やかな通りでマスードの写真を見せながら歩く女性や、写真を壁に貼る若者の姿が報じられていた。

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タリバンに見つかったらどうなるかわからないが、その危険を冒しても若者を駆り立てるものがあるのだろう。
 この若者たちはおそらく生前のマスードを見たことがないはずだ。なのに、どうして惹きつけられるのだろう。ツイッターには、私の写真集『MASSOUD』を写した写真も投稿されていた。
銃を持ったマスードの写真に、彼が私に語った「私にとっての最大の勝利は、全ての勢力が銃を置き、話しあいをして、選挙で国民の声を聞くことだ」という言葉をペルシャ語と英語、日本語で記したものだ。


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 戦いではなく、平和こそがマスードが願ったものであり、その思いは多くのアフガニスタン人と重なるものだ。だからこそ、マスードへの思慕は消えることがないのだろう。

 昨夜、英国のエリザベス女王が亡くなったが、それに先立つ2日前の水曜日、英国議会で議員やコミュニティの支持者によるマスード追悼集会が開かれた。その場でマスードの短編映画も披露されたという。


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 こうした映像に触れるたびに、マスードは20年以上の時が経っても、今も人々の心に残り続けていると強く感じる。 マスードがアラブ人の自爆テロで倒れた時、私は号泣した。2ヶ月後、やっと訪れることができた墓前でも涙が溢れた。共に戦ったイスラム戦士が私を抱きしめ、「ロウェ・アーメルサーブ・ゼンダアス」(マスードの魂は生きている)と言葉をかけてくれた。以来、21年間、マスードは私の心に在り続けている。

 私がマスードを撮った写真は3万枚を超えると思うが、中でも私が魅かれたのは「遠くを見つめる」マスードの姿だった。戦禍と苦難の中にあっても、いつも未来を見つめ、決して希望を捨てなかった。その彼を信頼して、多くの人が付き従い、最新兵器を装備した10万人のソ連軍を撤退させたのだ。

 次の、カラー写真はツイッターに投稿されていたもので、現在、戦いを続けている国民抵抗戦線の写真。
モノクロ写真は、1983年に私が撮った移動中の戦士とマスード(手前中央)だ。困難さの中で戦っていたマスードと重ねることで、抵抗戦線にいまの苦難を乗り越えて欲しいという思いが伝わってきた。


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 マスードの写真を見て心を動かし、「山の学校支援の会」の活動に加わってくれた方々、今も忘れることなく寄付を送り続けてくださる方々がいる。ブラジルで出会った先住民のリーダー、アユトン・クレナックもそのひとりだ。マスードの写真集の一枚一枚を時間をかけて見入り、最後に本を閉じると、「長倉さんとは長い付き合いになりそうだね」と言った。私は1952年、マスードとアユトンは共に1953年生まれだ。同世代というだけでなく、マスードの「闘い」を続ける姿はアユトンの琴線にも触れたようでうれしかった。

 マスードは「愛がなかったら人生は寂しいものになります」と話していた。彼の笑顔は爽やかで、透明感に満ちていた。私は「友を、人を愛すマスード」を、写真に写しこみたいとも願っていた。彼が逝って21年が経つが、彼を撮った一枚一枚に、彼の「魂と精神」が写っていると感じられることが多くなった。幕末の武士が「写真は魂を抜き取る」と信じたり、中南米の先住民インディオが今も「カメラは魂を抜く」と信じていることが、なんとなくわかるような気がする。

 マスードは、写真に映ることで何を遺そうとしたのだろうか。彼は心のどこかで、自分の思いが果たせぬまま斃れることを予期していたのではないだろうか。
そんな覚悟が写し込まれた写真から、今を生きる子どもたちが何かを受け取るだろう。それはアフガニスタンの夢。「自分たちのことは自分たちで決めたい」という夢だ。いますぐにはかなわなくても、心の中を大河のように滔々と流れ続け、いつか叶えられる日が必ず来るはずだ。
マスードの墓が土足で踏みにじられ、写真が破かれ、本が燃やされようとも、決して潰えることのないアフガン人の夢。いつまでも人々の心の中で燃え続ける「永遠の夢」だ。

  2022年9月9日   長倉洋海




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