「今日のメッセージ 2022/8/29」
アフガニスタン各地ですさまじい洪水が起きている。パンシール州の「山の学校」の先生から、校舎のすぐ横を流れるポーランデ川が氾濫する様子が送られてきた。
恐ろしいほどの濁流で、こんなに荒れ狂ったさまを見るのは初めてだ。戦闘から避難するためにカブールへ出ていた子どもたちが、50名ほど故郷へ戻っていると聞いていたので、子どもたちもさぞや怯えていることだろうと思った。校舎が洪水に流されないかと心配だが、その報はまだ届いていない。ただ、いまは大丈夫でも、地盤が緩み次の洪水が起これば耐えきれないのではないかと、とても心配だ。
★パンシール州だけでなく南西部でも、そして隣国パキスタンでもすさまじい洪水の被害が続いている。
(ツイートを表示)
ジャーナリストのモハマド・ナチークは、洪水で冠水したパンシール州の幹線道路の写真を投稿しながら、「東部で洪水があった時に、タリバンは外国からの援助を得るためにできる限りのことをしたが、パンシールについては何も触れていない」と述べている。(ツイートを表示)
自分たちの出身母体であるパシュトゥーン地域には手厚く、タジクやハザラなどの民族には過酷な処遇を続けてきたタリバン。過去を遡れば、タリバンの前身とも言える原理主義勢力ヒズビ・イスラミ(イスラム党。へクマチャール党首)の時代から、パシュトゥーン民族による他民族への迫害は続いてきた。「この国を作ったのはパシュトゥーン民族だから、国は自分たちのものだ」と思っている人が多いようだ。
1992年、グルブディン・へクマチャール派(イスラム党)はイスラム暫定政権から権力を奪おうとするが、失敗し、マスードたち政府軍に郊外に押し出されるとそこから、パキスタン供与のロケット弾二千発以上を自国の民の住む首都カブール市内に撃ち込んだ。当時のイスラム暫定政権の国防相だったマスードは「市民やイスラム戦士が無駄に血を流すことになる。戦闘をやめ、選挙をして人々の声を聞こう」と訴えかけたが、聞き入れられなかった。
その攻撃で市民が行き場を失い、子どもたちが泣き叫んでいる英国BBC放送の映像が残っている。その中で、ヒズミ・イスラミ(へクマチャール派)の兵士は「パシュトゥーン支配のために戦う。我々以外の民族は国から追い出す」と明言している。(ツイートを表示)
へクマチャール派では勝てないとわかると、パキスタンはタリバンを使うことにした。武器を与え、訓練し、育て上げたタリバンに、アフガニスタンの政権奪取を託すことにしたのだ。
タリバンは、2001年には首都から敗走したが、20年後の2021年、再び、権力を握ることになる。へクマチャールもそうだったが、タリバンも選挙を行なうことへの呼びかけには応じない。「実施すれば負けるのがわかっているからだ」と識者は語る。人口比でも、パシュトゥーンが多数派といわれているが、過半数を超えている訳ではない。正確な人口統計がないのでわからないが、パシュトゥーン人は推定で40%前後、タジク人が25-30%前後、ハザラ人が15-20%程度と言われている。しかし、歴代のパシュトゥーン政権は、他の民族を少なめに見積もってきたと言われる。そうした背景が、今もアフガニスタンの問題を複雑にしている。
パシュトゥーン第一主義の中、最下層に位置付けられたのがハザラ人で、その苦難はいまも途切れることなく続いていることは、これまでのメッセージでも伝えているとおりだ。
★「バルカブ地域の 600 を超えるハザラ族の家族が、タリバンによって山岳地帯への避難を余儀なくされました。タリバンは、人道支援が届くのを妨げています。」という投稿。(ツイートを表示)
〈故郷を追われ、岩棚に疎開したハザラの子どもたち。ツイッターより〉
パキスタンとタリバンの野望を打ち砕いてきた、マスードたちタジク人への迫害も激しい。
★タジク民間人を縛り上げ、車で連行するタリバン。それを喜ぶタリバンの姿がおぞましく感じられる。
(ツイートを表示)
★「北部のクンドゥスでは、援助品をもらうために並んでいた人々に、タリバンが暴行を加える姿を視聴者が撮影した」とアフガニスタン・インターナショナルが投稿。(ツイートを表示)
空港で見かけたタリバンの外務大臣代行に、日本のTBSテレビが突撃インタビューをしたものが放映されている。記者の質問に答え、ムッタキ大臣代行は「治安を維持している政府がなぜ国際的に承認されないのか理解できない。女性の就労?女性は政府の中でもたくさん働いている。夫がいない女性や困っている人には手を差し伸べている。麻薬が流行っている?それは20年間、外国の支配が続いてきた結果だ」と述べている。(TBS NEWS DIGより)
彼らが女性の就労を認めず、女子学生が学校で学ぶことも禁じ、麻薬を売ることで戦闘の資金を得てきたことは明らかなのに、全く逆のことを平気で述べていることに驚く。
アフガニスタン初の女性国会副議長を務めたファウジア・コーフィは、タリバンに逮捕された人々の写真とともに「すべての信念が革命につながる。津波のように静かに始まる革命」とツイートしている。いつか津波のように全てを飲み込む革命が起きると言いたいのだろうか。(ツイートを表示)
〈タリバンに暴行を受け、縛り上げられは人々。ツイッターより〉
国民の声を聞かず、武力でアフガニスタンを支配しようとするタリバン。それに抗して戦っているのは、マスードの息子アフマッドが率いる国民抵抗戦線だ。英国のSky NewsTVの番組の中で、国民抵抗戦線の広報部長アリ・ナザリーが「12州で活動している」と話し、「抵抗戦線の兵士は、高い士気のもとで経験を積み、日々強くなっています。狂信的なイスラム過激派やテロ集団と戦っているのは私たちだけです」とも述べている。(ツイートを表示)
タリバンの横暴が続き、地震や洪水などの災害に見舞われても、アフガニスタンの人々は「神はどこにいるのだ」などとは、決して言わない。なぜならそれは、「神が見ている中で、懸命に生きること」を真剣に考えているからだ。ただ、それができるのは、自分の中に神を宿している人だけだろう。
★雪山を行軍するホスト州の国民抵抗戦線の兵士たち。(ツイートを表示)
アフガニスタンは、これからどうなるのか。どんな歴史が作られるのか。それはまさに、インシャラー(「神のお心のままに」)なのかもしれない。しかし、ただ神の決断を待つだけでなく、希望を捨てず、自らが動いて初めて歴史が変わっていくはずだ。
イスラムの聖書コーランにある
『奮闘努力する者はおのれの魂のために努力するのだ。なぜなら、アラーはすべての創造物からの何をも必要とせぬ』(聖コーラン29章6節)
という言葉を思い出した。
2022年8月29日 長倉洋海
[アフガン情勢に関するメッセージ一覧]へ
[長倉洋海トップページ]へ
|