アフガン情勢に関するメッセージ
2022年8月12日


「今日のメッセージ 2022/8/12」

 タリバンが昨年8月15日にカブールに入ってから一年が経とうとしている。先日のメッセージでも朝日新聞の記事を紹介したが、毎日新聞や東京新聞もタリバン暫定政権1年として記事を掲載している。

毎日新聞記事

東京新聞記事

しかし、各社記事共にパンシール州やタハール州、バクラン、バダフシャンなどの州ではタリバンと抵抗戦線との戦闘が続いているということに全く触れていない。
そして、民族浄化とも言えるハザラ人虐殺についても、これだけ継続されているにも関わらず触れられていない。
一般市民は、自分に関わるかどうかで「治安が改善した・悪化した」に回答するだろうが、それが国としての安定とイコールではないはずだ。

★「ハザラ人虐殺をやめろ」と訴えたポスター。自爆テロで倒れた息子を抱きかかえた母親の実際の写真をフォトコラージュしたもの。ツイッターより


国民抵抗戦線(NRF)の外交部長アリ・ナザリーは「タリバン支配に抵抗を示した地域から、数百人が連れ去られ行方不明になっている」とフォーリンポリシー誌に語っている。(ツイートを表示

2001年、政権を握ったタリバンが囚われる狭隘なイスラム観とパキスタン軍との関係、ヘロイン売買や他国過激派との結びつきなどを記し、世界的なベストセラーとなった『タリバン』(講談社)の著者アハメド・ラシッドが、「タリバンは2001年と比べ、極端な宗教的信念に従うことに、より暴力的になっている」と警鐘を鳴らしている。(ツイートを表示


これらのことが海外各メディアで報じられている中で、国内紙の「アフガニスタンの争いはやんだように見える」というような記事を見ると、私たちが日々触れているメディアの情報が正しいのか、制限されているのか等の疑問が浮かぶ。

タリバンは暴力的なだけでなく、嘘をつくのも平気なようだ。前回、アルカイダの最高指導者ザワヒリがCIAのドローンで殺害されたことをお知らせしたが、タリバン報道担当のカリミは、「遺体はなかった。私たちは(テロリストを匿わないという)ドーハ合意を破ってもいない。アルカイダは2001年以降、国から出ていった。私たちは政権承認の条件を満たしている」と述べ、国際世論や欧米各国のメディアを呆れさせている。
毎日新聞の記事

そんな中、2001年から2014年までアフガニスタン・イスラム共和国大統領だったハミッド・カルザイ氏が、ドイツの有力雑誌「シュピーゲル」誌で、「タリバンが女子を中高に通わせないのは、パキスタンがそう命じているからだ」と述べた。「もちろん、タリバンの中にも女子を学校に行かせるべきと考える人はいるが」と付け加えているものの、彼の発言にタリバンの二転三転する女子教育政策の背景が明らかになった気がする。ザワヒリを匿っていたと疑われる内相代行のシラジュディン・ハッカーニも、女子教育に消極的だった。彼がカブールから姿を消したのも、ザワヒリをカブールで生活させることを命じたパキスタンに説明に出向いたのではないか、という噂が立つほど、両者は濃密な関係だ。
その関係は二者だけでなく、実はアルカイダも加わっていたことが、今回、より明らかになったのではないか。
パキスタン、ハッカニネットワーク、アルカイダ。三者は一本の糸で繋がれている。 

なぜ、パキスタンは女子教育を認めないのか。カルザイ氏は「アフガニスタンが非力で無能、貧しいままであることがパキスタンにとっての利益になると思っているからだ」と述べている。かつて国連人道問題調整事務所でカブールに滞在していたことがあるマイケル・バリー教授(米国)は、「パキスタンの目的はアフガニスタン国家の破綻。医療や教育、行政のあらゆるシステムの破壊であり、教養ある女性を繁殖のための動物に貶め、アフガニスタンを無力化する。国民を意思のない野蛮人に見せかけ、国そのものをパキスタンの保護領にしてしまう策略だ」(マルセラ・グラッド『マスード 伝説的司令官の素顔』出版:アニカ より)と明確に述べている。


 パキスタンの意図がどうであれ、人々はそれに唯々諾々と従うわけではない。パシュトゥーン人が多く保守的とも言われるホスト、パクティア、パクチカ州などの女性学校がない地域をNGOが回り、設立を働きかけている動画がツイッターに投稿されていた。部屋には多くの男性が集まって職員の話に耳を傾けている。その真剣な姿から「自分の娘たちを学校に送りたい」と願っている様子が感じられた。

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★「教えることと学ぶことはイスラムの権利であり、私たちはそれを望んでいます。昼夜を問わず戦い、権利を手に入れましょう」とNGOのボランティアたちがプラカードを掲げている。

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しかし、11日には、親タリバンの宗教指導者ラヒムラー・ハッカニ師(タリバンのハッカニネットワークとは無関係)が、タリバンと敵対する立場であるIS「イスラム国」の自爆テロで爆死した。彼は親タリバンではあったが、宗教指導者の立場で女性教育を推進していた。
勢力間の複雑な関係を表しているようだ。 (BBCニュース


 最近、山の学校の先生からの連絡で、タリバン兵が学校から出ていったことがわかった。ただ、出ていったのは2度目で、また戻ってこないとも言えない。彼らは依然、ポーランデ地区に留まっている。机と椅子は20人分ほどが残っているそうだが、先生が教室を掃除し、学校再開を目指しているそうだ。首都での生活が苦しく地区に戻ってきた家族もいるが、ここでの戦闘が激しくなればまた避難しなければならないだろう。まだまだ先は読めないが、子供達や地域の人々が一刻も早く故郷に戻れる日を祈るばかりだ。


(撮影:長倉洋海、2021年)


 イランの登山家が世界第2の高峰K2の頂上にアフガニスタン・イスラム共和国の三色旗を広げた。登山途中でなくなり、願いが叶わなかったアフガニスタン登山家アリ・アクバルを偲んでの行為だったそうだ。


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国は無くなっても心の中に残る。
友は斃れても、心の中で生き続ける。
学業への思い、将来の夢は決して消えることはない。
時が経とうが、メディアが報じなくなろうが、
アフガニスタンの人々は生きているし、生きてゆく。

     2022年8月12日   長倉洋海







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