アフガン情勢に関するメッセージ
2022年8月7日


「今日のメッセージ 2022/8/7」

 9.11の同時多発テロを起こし世界を震撼させ、その後もテロ活動を続けていた過激派組織アルカイダの最高指導者ザワヒリが、7月31日、米CIA(中央情報局)のドローン攻撃で殺害された。



★殺害を報じる時事通信社のワシントン電

★BBCニュースは、 アフガン報道のベテラン記者リズ・ドストが現地からレポートしている(添付動画の音声は英語です)。(ツイートを表示

リズ・ドストは、「今回の事件が米国とタリバンの関係をさらに複雑にするかもしれない。彼を匿っていたのはタリバンで最大の力を持ち、自身も懸賞金をかけられている人物だ。これは米国とタリバンのドーハ合意を破る行為だ」と伝えている。
アフガニスタン人フリージャーナリストのモハンマド・ナキクは、
「ザワヒリに住居を与えていたシラジュディン・ハッカーニ内務相代行は、国防相代行のヤコブ(タリバンのリーダーだったオマル師の息子)がドーハで情報を米国に漏らしたと考えている」と投稿した。
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 内務相代行のシラジュディン・ハッカーニは、ここ数日、公の場に現れていないとも報じられており、自分も米国から狙われると思って姿を消したのではないかと私は思う。
いずれにしても、今回の事件がタリバン内のハッカーニ率いる強硬派と、パキスタンやアルカイダから距離を置きたいと考える穏健派の間にさらに大きな亀裂をもたらしたのは間違いない。   
 だからといって、米国が再びアフガニスタンに介入するということにはならないだろう。情報を漏らしたのではないかと疑われている当のヤコブ国防相代行は、最近の演説で「米国民はアフガニスタンの資産凍結解除を自国政府に呼びかけてほしい」と訴えている。アフガニスタン総資産の50%が凍結されたままでは経済も政治も立ち行かないと考え、米国との関係修復を願う幹部もいるのだ。
 米国は、軍事的関与はしたくないが、タリバンをロシアと中国、イラン側に追いやるのではなく、自分たちの側に置いておきたいと考えている。タリバン政権の国際支配テロリストを取り除くことで、包括政権を認める可能性のあるタリバン側と提携していきたいと思っているようだ。そこに軸足を置いているからこそ、国民抵抗戦線への支援をしないし、アフガン国内での人権侵害や暴力にも口先だけの非難に止めているのだろう。

 つい最近まで1年ほどアフガニスタンに滞在し、タリバンの暗殺リストに載せられ、危険を感じて母国に戻った外交ジャーナリストのリン・オドネルと、ニュージーランド在のアフガン人フォト・ジャーナリストのマスード・ホサインの2人が、ニュージーランドのラジオ番組に出演してザワヒリ殺害と現代のアフガニスタンについて語っている。

RNZ(ラジオ・ニュージーランド)のWebニュースを表示

 外交に詳しいオドネルは、「今回の殺害にタリバンと米国の連携があったのは間違いない」と断言し、「背景にタリバン内部の対立抗争がある」とも話した。
もう1人のゲスト、ホッサニ・マスードは「私が過ごしたカブールでは、多くの若者、数十万の若者たちが民主主義を望んでいる。かつてカブールは様々な学校が開かれ、自由があり、多様な活動が行われた場所だった。その民主主義の伝道者だった欧米は、せっかく生まれたその文化を育てることなく途中で投げ出し、逃げ出してしまった。民主主義が育っていくのを見守るべきだったし、その責任もある」とし、「欧米が残していった大量の武器を使って、タリバンは人々を弾圧し、特に少数派ハザラ人を迫害している。彼らの聖なるアシュラの日も、ペルシャ式の正月もカレンダーから削ってしまった。タリバンは密告ネットワークを作り、人々は恐れて話すこともしなくなった」と話していた。

 そんな中、6日と7日、カブールのハザラ人地区で爆発が起こり、18人が死亡、50人以上が負傷したと地元の病院関係者が話している。(ツイートを表示

★テロの犠牲になった子を抱え、「ああ神様、どこへ行けばいいのでしょう」と叫びながら通りをいく女性。
ツイッターより。(このツイートを表示


★「欧州連合特別代表のトーマス・ニコルソンもこの事件を非難、この攻撃の加害者に対する処罰を要求している」とのアフガニスタン・インターナショナルのツイッター投稿。
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 しかし、タリバンはシーア派地区でのテロはもう一つの過激派組織ISIがやった、と発表することが多く、再発防止に力を入れないことが常態化している。そうしたタリバンの統治に希望を失って国外に逃れる人が今も後を絶たない。しかし、それも苦難の道のりなのだ。
イランからヨーロッパを目指していたアフガン難民たちが、トルコとの国境で盗賊に捕まり、ナイフで耳を削がれるという映像がツイッターにアップされていた。(ツイートを表示
この映像を家族の元に送りつけ、身代金を奪うのが目的らしい。そのおぞましさに声を失った。


 先日、米国の下院議長ペロシ氏が台湾訪問を果たし、日本にも立ち寄ったが、「私は台湾の民主主義と人権を守る」と台北で高らかに宣言する姿がテレビで流されていた。そのこと自体は意義あることと思う。米国にとって日本、台湾、フィリピンなどの国々は米国の生命線でもあるという認識なのだろう。西方では、専制国家ロシアからウクライナを守ろうと多大な軍事支援を続けている。
 しかし、その中間にある中央アジアのアフガニスタン、シリア、クルドの人々の自由と民主主義を、米国は守ろうとしているだろうか?ペロシ氏の訪台についても、「米国内でも一致して賛同している訳ではない」というような発言が見られる。米国全体が一致して「民主主義と人権を守る」という立場なら意味あることと思うのだが、現実には、米国のいう民主主義とは「自分たちの域内」「仲間内の話」であり、それを「世界」に広げるものでもなく、守っていくつもりもないというように感じ取れる。
 前述のアフガン人フォトジャーナリスト、ホサインは「米国はパキスタンを信用し引き入れたが、そのパキスタンが(タリバンを使って)アフガニスタンを思うがままにしようとしている。米国のもう一つの間違いは、アフガニスタンの人々の声を聞こうとしなかったことだ」とも番組で話していた。
 オバマ政権は、カルザイ、ガニ大統領を支え、不正選挙や汚職に目をつむった。その前に遡ると、対ソ戦の最中にはソビエトを追い込むためにイスラム過激派を招き入れ、その力を拡大させてきた。そうした米国の姿勢が、現在の世界の混乱の一因にもなっているのではないかと私は思う。


 BBCペルシャ語放送によるインタビュー(7月16日のメッセージで紹介)で、国民抵抗戦線のリーダー、アフマッド・マスードが語っている箇所を再度、見ていただきたい。

(動画掲載のツイートを表示。動画は英語の字幕入り)

「世界の助けがなくても、地域の助けがなくても、私たちの抵抗がいかに困難でも、この世紀を生きる市民として、正義のために戦うことが私の決意です。2022年現在、アフガニスタン、中でも若い人々は新しいアフガニスタン、新しいシステム、未来を選べる公正で民主的な政府を望んでいるのです。今、テロリストが一部の国のためにアフガニスタンの国土を利用しようとしています。私はアフガニスタンを地域、そして世界から受け入れられる国にしたいのです。」

 彼の戦いは困難なものに違いないが、彼は父親の「不屈の精神」を心に刻んでいる。簡単には敗れないと信じている。
 父親のマスードがソ連軍相手に戦った当時の映像が、ツイッターに投稿されていたのでみなさんに紹介したい。きっとアフマッドも何度も見たことだろう。

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 世界のどんな国も、大国の勢力圏の草刈り場になることはあってはならない。「民主主義や自由」が一部の人のためだけにある世界は、変えなければならないと思う。私はその志を持つ人々と肩を組みたい、声をあげたいと願う。

     2022年8月7日   長倉洋海







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