アフガン情勢に関するメッセージ
2022年7月31日


「今日のメッセージ 2022/7/31」

 7月17日付の朝日新聞朝刊に、アフガニスタンの首都カブールからの特派員報告が大きく載っていた。タリバンの首都制圧から一年というタイミングでの特集記事で、1面トップでは「無給タリバン戦闘員—首都に4万人、他に職もなく」というリード。2面では、「漏れる悲鳴」というタイトルで、「停滞する女子教育」や「苦悩する女性キャスター」が紹介され、「戦闘員も困窮。『日本に行きたい』」とタリバンの声も取り上げられ、盛りだくさんの特集だった。
 最初に引っかかったのは、「タリバンの復権で争いはやんだかに見えるが」という箇所。現に私が今までメッセージで触れているように、北部、特にパンシール州で戦いは続いている。一体何を見ているのだろうか。いや、見ていないということだろう。
 また、特集記事でかなりのスペースを割いて報じているが、その記事から見えるのは「疲弊した経済」「展望のない状況」だ。しかし、それは真実だが、それだけでは足りないものがある。それは何だろうかと考えた。


 私は、それは「武力でアフガニスタンを支配するタリバンが破壊したもの。この国の文化や伝統の状況への眼差し」だと気づいた。 イスラムを偏った思考でしか捉えられないタリバンは、音楽や芸能、芸術やスポーツなど、人々が長い時間をかけて育て上げてきたものをズタズタに切り裂き、その担い手たちを国外に追いやった。残された人々もタリバンの迫害を恐れ、息を潜めて生活しているのが現状だ。

 そればかりか、この国の未来を担うはず子どもたちが学校に行けず、路上でものを乞い、家族を支えている。
 あるアフガン人ジャーナリストが、街角に見かけた少年の悲しそうな表情が気になって声をかけたという。
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 少年はパンシールに近いゴルバン地方の学校に通っていたが、学校が閉鎖され、昨年、家族と首都にやって来たという。「路上でお金をもらってパンを買って帰る」のが彼の役割のようだ。「父親は?」と尋ねられた少年は、「仕事が見つけられずに家にいる」と答えた。タジク人は表に出ると反タリバンと疑われ投獄されることが多いから、父親は家にじっと閉じこもっているに違いない。インタビュアーは「パンを買うお金をカンパするから、負けないで強く生きてね」と励まして別れた。

 子どもたちや困窮者に目を向けることなく、自分たちの権力維持しか考えない勢力に、決して未来はないと思う。抑圧的なタリバンに自由と人間の尊厳を求めた戦いを起こした国民抵抗戦線が、パンシール渓谷の一部を解放したという映像がツイッターにアップされた。

〈タリバンの旗を下ろした国民抵抗戦線の兵士たち。ツイッターより〉

解放された地域には三色旗のアフガニスタン国旗とマスードの写真が掲げられている。

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★パンシール州の一部地域を解放した直後の映像(ツイートで映像を観る

 しかし、タリバンは簡単には引き下がらない。各地から増援部隊を次々と送り込むため、国民抵抗戦線側にも犠牲者が増えている。国民抵抗戦線の外交部長アリ・ナザリーが、イランの芸術家エサン・モガリの描いた「殉教した兵士と父親」の絵を紹介していた。


エモンは一枚の写真からイメージしてこの絵を描いたという。それがこの投稿にある。

この投稿写真ととても似ているが、何かが違う。写真では遺体の下は岩場だが、絵では大きな羽のように見える。それは「天国へ向かう天使の翼」なのだろう。
「現実の写真」を同じように描くのではなく、そこから「普遍的なもの」が浮かび上がらせ、それを多くの人の心に届ける。それが芸術の真髄なのかもしれない。一枚の絵から、最愛の息子を失った父親の悲しみが、より深く浮かび上がってくる。
同じように、子どもに街で物乞いをさせてパンを入手する父親の切なさも簡単に言葉では表現できないはずで、だからこそ、古来、人々は音楽や絵画などの表現活動で言葉にならない何かを伝えようとしてきた。その集積がアフガニスタンの歴史の底流にあったはずだが、タリバンは一切の芸術や表現活動を認めず弾圧している。
 また、兵士や芸術家ばかりでなく、自らの抵抗の意思を示そうとし続ける女性たちにも心を打たれる。見つかれば捕まり、投獄される危険があっても「自分の生きる輝きを失うまい」とする必死の行動なのだろう。


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国外でも、旧イスラム共和国の国旗を体に巻いて反タリバンの意思を表す人がいる。(Twitterより)




「国民の日、おめでとう」とアフガン国旗を持ち、踊る在外国のアフガン人の映像もツイッターに投稿されている。

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 ソ連軍侵攻以来、数百万のアフガン人が祖国を離れた。彼らの心の中にはいつもアフガニスタンがある。祖国、そして故郷。それを簡単に忘れることなどできないはずだ。一度は国民を捨て国外に逃亡したあのガニ元大統領でさえ、毎日のようにツイッターに投稿しているのを見ると、例外ではないと思う。

民族衣装を着てバンデアミール湖のほとりに立つ女性がいる。隣国タジキスタンでのイベントでアフガン音楽を披露する人々がいる。心には決して消え去ることのない「祖国への思い」が溢れている。それらの光景を見、聞き入ることで、私たちはアフガニスタンを感じることができる。


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アフガン音楽の演奏にひと時でも耳を傾けてほしい。
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 人々の心に触れること、触れようとすることが、人々と繋がり、アフガニスタンの新しい未来を切り開いて行く力の一助になるはずだ。私はそう思いながら、メッセージを書いている。


            2022年7月31日  長倉洋海






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