アフガン情勢に関するメッセージ
2022年7月8日


「今日のメッセージ 2022/7/8」

 安倍元首相が銃で撃たれたというニュースが飛び込んで来た。各党党首、各界の代表者たちはこぞって「あってはならないこと。これは言論封殺だ」と非難の声を上げている。どんな思想的背景があっても、暴力や武器で他の主張を抑え込むことは許されない、と私も思う。
 しかし、現在のアフガニスタン。タリバン暫定政権下、彼らと合致しない考えを持っているだけで、いや、そう疑われただけで、連行・拘置され、拷問ののち惨殺されてしまうケースもある。それが国の全域で日常的に行われていることを想像すれば、アフガニスタンがいかに大変な事態なのかがわかると思う。他者を力や武器で抑え込むことは、「民主主義」とか「イスラム」とかいう個別の問題以前の、「人としてどうあるべきか」という根源的な問題ではないかと思えてならない。

 アフガニスタンの首都カブールで、タリバンがイスラム教の指導者や部族長3千人を集めた全国会議を3日間に渡って開催し、そこで11の決議が採択されたが、国内全域で女生徒たちが待ち望んでいる中等教育の復活は話題にならなかったとNHKが伝えている。(NHKニュースWeb)


 昨年8月から、制服や校舎などさまざまな理由をあげ、中高等学校の女生徒の復学を認めようとしなかったタリバン。そのまま、まもなく一年が経とうとしている。この間、女生徒たちはどんな思いだったのか。計らずも、ツイッターに投稿された一枚のイラストが、彼女たちの心境を伝えているような気がした。

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そこには「女性の可能性を抑え、国民の半数の貢献を奪う国は、真に繁栄することはできません」という言葉があった。 

ペンパスの女性ボランティアたちも、プラカードを掲げ、学校の再開を求めて抗議している。
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 学校は「勉学の場」だが、同時に「出会いの場」でもある。同年代の子たちと、家のこと、家族や友人のこと、楽しいことや辛いこと、なんでも語り合える場。新しい生き方を提示してくれる先生との出会いもあるかもしれない。オンラインではない対面による出会いは、今この時間、この瞬間にしか経験できないもの。テレビ映像のようにリプレイ(再現)はできないからこそ価値がある。そんな大切なものを、タリバンは1年近くも奪い続けてきた。

 子どもたちが学校をどんなに大切に思っているか。それがツイッターに投稿された映像によく現れている。ユニセフのザックを背負った女の子は、ロバを操るお兄ちゃんの背中にしがみついている。その表情の嬉しそうなこと。傍を走る男の子の表情もイキイキとしている。
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 私もこれまで毎年、パンシール州ポーランデ地区の「山の学校」を訪れ、子どもたちのこんな表情と出会ってきた。しかし、昨年タリバンが同地域を制圧。せっかく整備し子どもたちが楽しみにしていた図書館の本を破り、コンピューターを破壊した。現在もタリバンが校舎を宿舎として使っているため、子どもたちは勉学を再開できていない。私は学校再開を願っているが、一番願っているのは山の学校の子どもたちだろう。早く、このような表情に再会したいと願うばかりだ。

 もう一つ、ユニセフのスタッフがカブール郊外で、地域コミュニティが作った学校を訪れた映像も素晴らしかった。子どもたちの快活な姿にアフガニスタンの現実への心配事も消えていくような気持ちになった。

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動画の子どもたちを見ながら、山の学校の子どもたち、一人ひとりのことを思い出した。

〈山の学校の子どもたち 撮影:長倉洋海〉

子どもたちの表情を見ているだけで、心が軽やかに、晴れ晴れとした気持ちになってくる。全ての大人がこの輪の中に入って一緒に遊ぶことができれば、自分たちのことだけしか考えないような身勝手なことはできなくなると思うのだが・・・。
「素直になること」ー。それが、子どもたちとの出会いから私が学んだことだ。

パンシール州の北隣り、バグラン州アンダローブ地方のホストからは、抵抗戦線の兵士が自分たちの地域を取り戻し、タリバンの旗を降ろす映像があった。
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パンシール州でも、最上流部のパリヤン地区、中心部のバザラック地区などで戦闘が行われている。カブールのハイリハナ地区では、タリバン基地が攻撃され炎上する映像がアップされていた。
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 戦闘があれば、避難民が生まれる。先月お伝えした北部サーレポル州のハザラ人とタリバンの戦闘は今も続いており、27,000人以上の住民が山に逃れて、国連人道問題調整事務所が緊急支援を準備している、とアフガニスタンインターナショナルニュースが報じている。
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 人心を得ず、恐怖で人々を従わせようとするタリバン。家族や友人、家や畑、財産を失った人々の痛みも感じることなく、喜びや幸せを求める気持ちもわかろうとしない。そんな勢力が力を持つ時代は、必ず終焉を迎える。
 私がかつて取材したマスード司令官は「タリバンはとても心の狭い人たちです」とインタビューの中で語っている。穏やかで満ち足りたマスードの表情と、タリバン指導者たちの表情を比べて見て欲しい。その違いに必ず気づくはずだ。その人の思想や生き方は、必ず顔に出るはずだからだ。

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アフガニスタンの人々が、苦境の中でも国の未来と子どもたちの笑顔に思いを馳せた時、新しい一歩が生まれる。

        2022年7月8日  長倉洋海


「北部の果物」 (ツイートを表示

最初の果物が桑の実(トゥート)、次の赤い実がラズベリー(ショートゥート)。動画の最後に篭に盛られて出てくるのは、右上がラズベリー(ショートゥート)、時計回りに桃(シェフタリ)、杏(ザルダル)、さくらんぼ(アルバル)。籠の外にあるのはマンゴー(アム。おそらくパキスタン産)。冷たい清流で洗って食べるのが北部流です。



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