「今日のメッセージ 2022/6/11」
アフガニスタン北部、中でもパンシール渓谷で激しい戦闘が続いています。
〈険しい山の中で戦いを続ける国民抵抗戦線の司令官。ツイッターより〉
パンシール川上流部のダラ地区・パリヤン地
区でタリバン側は敗北し、戦闘箇所から撤退したということです。ダラ地区は、本流上流で枝分かれした支流を遡った場所ですが、人口も多く重要拠点の一つです。幹線上にあるパリヤン地区は最上流部に在り、ここを国民抵抗戦線が奪うことになれば、パンシール州解放への大きな一歩となります。どちらも故マスード司令官が重視した場所です。(ツイートを表示)
しかし、タリバンはいまも住民を逮捕・連行し、殺害するなどの蛮行を続けています。添付したツイッターリンクの映像では、撮影者の男性が「民家に火を放ち、聖なるコーランをこのように乱暴に取り扱うのが、イスラム教徒のすることでしょうか」と訴えています。投稿には「彼らはこの代償を払うことになるでしょう」と書かれていました。(ツイートを表示)
タリバンはパンシール州を外部と遮断し、「戦闘など行われていない」と述べていますが、米国ワシントンポスト紙が『タリバンの隠された戦争』と題して報じています。(ツイートを表示)
しかし、アフガニスタンをカバーしているはずの日本の大手新聞社は、どこもこの戦いを報じていません。
この戦いは単なる戦闘ではなく、アフガニスタンの自由と女性の権利、人々の生きる尊厳を守り抜くための闘いです。日本のメディアの記者も、外国の報道やツイッターで、当然、戦闘が続いているのを知っているはずですが、全くそれに触れようとしないのはなぜなのでしょうか。ウクライナのように「侵略・侵攻」「戦争」にならなければ、報じないのでしょうか。
アフガニスタン国内に残っているジャーナリスト達や一般市民は、恐ろしい弾圧の中、まさに命懸けで情報を集め、わずかな隙に発信しています。
このような状況で、他国のメディアだからできることがあるはずです。上記のワシントンポスト紙のように。
アフガニスタン情勢に限らず、日本のメディアは、紛争が大きくなってからではなく、今の時点でもきちんとした記事を書いて警鐘を鳴らし、「日本政府を動かしてでも紛争を止めるぞ」という気概と平和への誠実さを持って報道して欲しいと思います。
世界が目を向けないうちに、タリバンはますます、その本性を明らかにしています。首都の街頭で、ヘアスタイルまで文句をつけ、有無を言わさず力づくで髪の毛にハサミを入れている映像がツイッターに投稿されていました。必要のない平手打ちを何度も繰り返しながら、髪を切ろうとしているのです。タリバン兵士の空虚な精神状態が窺われます。(ツイートを表示)
そうした行為にも驚きますが、指導部は「神がお造りになった自分たちの政権に反旗を翻すものは、殺してもいい」という、とんでもない、神が許すはずもない、恐ろしいお墨付きを与えています。カブール知事がそう発言している動画が投稿されています。(ツイートを表示)
そんな暴力や殺人容認のタリバン圧政下で、テレビ局の女性アナウンサーが勇敢な行動に出ました。顔を覆うブルカを被らずに画面に登場したのです。
弾圧を恐れない姿勢は、銃を持って戦うより勇気のいる決断かもしれません。全く無防備で、反対の意思を表明するのですから。同様に、「職場復帰を求める」女性たちの姿もツイッターに投稿されています。こうした姿に私は勇気をもらいます。
(ツイートを表示)
つらく厳しい状況が続くアフガニスタンですが、時にホッとするニュースや映像に出会うことがあります。自転車でメッカ巡礼をする男性の写真が投稿されていました。白い衣装は巡礼の正装です。イラン経由で聖地を目指しているようです。ラマダン(断食月)が終わるとハッジ(メッカ巡礼)の季節がやってきます。断食も巡礼もイスラム教徒の5大義務に入っています。今年の5月22日、マレーシアの空港でもメッカに向かう大勢の人々と出会いました。メッカ巡礼を果たす日を心の支えに生きているイスラム教徒が世界中にいます。イスラム教徒にとって、神とより近くで出会うことができる巡礼は人生の晴れの舞台。世界に17億人いるといわれるイスラム教徒にとって、メッカ巡礼は生きる究極の目標なのかもしれません。
祈ることで人はより謙虚に、そして共に生きる他者の存在を尊ぶことができるはずです。タリバンにこの心根が少しでもあればと願ってやみません。
〈自転車でメッカ巡礼に向かう男性。ツイッターより〉
中国と国境を接する北部のバダフシャン州ワハン回廊。人口もまばらな辺境の地。そこに暮らす人々によって古風なスタイルでの鷹狩りが行われていることを知り、驚きました。投稿には、4年前に撮影されたという、肩に鷹を乗せて孫と共に馬に跨がるキルギス人のおじいさんと、傍らに孫を気遣うような表情のおばあさんの写真が添付されていました。何ともフォトジェニックな写真です。私にとってアフガニスタンが平和になったら真っ先に行って見たい場所の一つがワハンです。投稿には、「私たちのdiversity(多様性)がなければ、アフガニスタンはこれまでのように美しくなることはできません。」と書かれていました。
(ツイートを表示)
タリバンが一刻も早く表舞台から去って、新しい国づくりが始まる日を心より願いながら、今日のメッセージを終えます。
2022年6月11日 長倉洋海
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