「今日のメッセージ 2022/5/26」
5月22日、取材から戻りました。マレーシア・ボルネオの海の民「バジャウ」と山の民「クラビット」を訪ねる旅でした。
30年ほど前に、フィリピン・スールー海のバジャウを取材したことがありますが、彼らの生活が当時とあまり変わっていないことに驚きました。海は陸と比べるとさほど細分化されていないので、バジャウをおおらかに受け入れ、今も恵みを与えてくれているのだと思いました。しかし、その海も、魚の乱獲とプラスチックゴミで苦しんでいるように思えました。
〈父親が魚を捌く小舟の横で泳ぐ、マスダリとカメリナ。長倉洋海撮影〉
〈取ってきた魚を売るために、家船を船着場に寄せる少女リアナ。長倉洋海撮影〉
熱帯雨林に暮らす山の民クラビットは、子供たちを大学に送り出すことを励みにしていました。過疎化が進んだため、祖先伝来の稲作はかつての森の移動民族ペナンの労働力を頼りにするようになっていました。世界第3の大きな島、ボルネオ。そこには現代社会が色濃く反映されている、ということを痛感する旅でした。
〈一日の農作業を終え、山に帰っていくペナンの親子。ペナンは山の麓の仮住居に住んでおり、山の向こう、2日ほど歩くと彼らの村がある。彼らは土地を持っていないため村に住むことが許されない。長倉洋海撮影〉
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さて、肝心のアフガニスタン情勢です。
ボルネオにいる間も、Wi-Fiがつながるところではツイッター等でアフガン情報を収集していました。
しかし、アフガニスタン情報は好転しておらず、逆にタリバンの抑圧度合いがさらに増しているようです。が、それはタリバンが自壊に向かって進んでいることの証左であり、その裏返しの焦りではないかと私は考えています。それでも、アフガニスタンに生きている人々は「一刻も早くこの地獄が終わって欲しい」と願っているに違いなく、心が切なくなります。
最初にお知らせしたいのは、パンシール渓谷での戦闘が激化していることです。これまでのメッセージでも繰り返しお伝えしているとおり、パンシール(パンジシールとの表記もあります)州はかつてのアフガニスタン抵抗運動の指導者マスード司令官の本拠地であり、現在では昨年8月にタリバンが首都カブールを陥落した後も抵抗を続けているNRF(国民抵抗戦線)の本拠地です。タリバンは、全国から集めた万を超える増援部隊をパンシール渓谷に送り込んでいます。(ツイートを表示)
国民抵抗戦線側の攻撃でパンシールを失えば、反乱がさらに飛び火すると考えているからでしょう。抵抗戦線との戦闘で、タリバン側の司令官が何人も死んでいます。その反動からか、民間人の虐殺も顕著になり、地域によっては、女性や子供を含め十人を超える単位で惨殺されているという情報が多数あります。
山間部にも次々と増援部隊が送りこまれ、山の学校のあるポーランデでも戦いが報告されています。
〈タリバンの車列。ツイッターより〉
〈渓谷の各拠点で、攻勢を続ける国民抵抗戦線。ツイッターより〉
しかし、抵抗戦線側の補給は十分ではないようです。食糧も不足する中、山中で石をフライパン代わりにナン(パン)を焼き戦い続けている姿が報告されています。(ツイートを表示)
世界の国々から認知されることなく、国際社会で孤立を深めるタリバンですが、「それならば」と開き直ったかのように、偏向した時代錯誤の価値観で国民が受け入れられないような偏狭な政策を押し出してきています。
まず、女性や子供の人権状況を監視していた人権委員会の廃止です。タリバン暫定政権は「必要性がないと見なされた」と説明していますが、それはタリバンの判断であって、押し付け以外の何物でもないことは自明です。(共同通信ニュース)
次に、女性を見下したような政策の発表があります。女性に全身を覆うブルカの着用を命じ、西部のヘラートでは男女が一緒に会食すること、公園を散歩すること(夫婦であっても)も禁じられました。
(時事通信ニュース)
また「反抗的な女性には外出を認めない」と暫定内務大臣のシラジュディン・ハッカニはCNNのインタビューで答えています。(CNNニュース)
なお、これも何度もお伝えしていますが、シラジュディン・ハッカニは米国務省が「国際テロリスト」に指定し、米連邦捜査局(FBI)が指名手配しており、その首には1000万ドル(約13億円)の賞金がかけられている人物です。
女性たちは「私たちは閉じ込められた動物としてはなく、人間として生きたい」と抗議の声をあげています。
(AFP時事ニュース)
〈顔を隠さず抗議の声を上げる女性たち。AFP時事より〉
「テレビの女性キャスターも顔を覆うように」という布告に、同僚の男性キャスターたちも顔に黒マスクをつけ、抗議と女性たちへの連帯の意を示しているといいます。
〈顔を覆うことを強制される女性キャスターへの連帯を示す、テレビ局の男性職員たち。ツイッターより〉
多くのタリバンの出身地である南部。そこでタリバンに追われて衣装入れに隠れていた音楽家が、見つかって連行されるという映像が投稿されています。音楽や芸術を認めない「タリバン化」が進行しています。
(ツイートを表示)
生活苦から子供を売るケースも増え、3歳の子を50歳の男性に嫁がせるケースも報告されていました。
(クーリエ・ジャポン-ワシントンポスト記事)
タリバンは「自分たち以外は人間ではない」と思っているようですが、そう思うこと自体が、「自分たちが真っ当でない」と言っているようなものです。ツイッターに投稿されたインタビュー動画でのタリバンの答えが、そのことを証明しています。(このツイートを表示)
ジャーナリスト:「女性は裁判官になることができますか?」
タリブ:「女性は裁判官になることはできません。」
ジャーナリスト:「なぜ?」
タリブ:「女性は[男性に比べて]脳が少なく、[女性]は良い信者ではありません」
「タリバンが行なっているのはタジクやハザラに対してだけでなく、人間そのものへの犯罪であり、戦争犯罪だ」と抗議するパシュトゥーン人の声を、抵抗戦線の文化部長アリ・ナザリーが紹介しています。タリバンの多くはパシュトゥーン人ですが、パシュトゥーン人の中にも反タリバンの人々はいるのです。
(ツイートを表示)
是非とも紹介したい写真があります。「えっ、最近のものなの?」と疑いながら日付を確認したのですが、最近撮られたもののようです。マスードの壁画の前で、本を売る女性の姿です。投稿には「パワフルな写真」との言葉が添えられていました。
マスードも書物もタリバンが目の敵にしているものですが、タリバンが目の敵にしているものこそが、アフガニスタンを変えていくものになると私は思います。
(ツイートを表示)
目をアフガニスタン国外に転じると、フランスでは、国民抵抗戦線を描いた書物が出版され、マスードのドキュメンタリー映画が公開されるようです。アフガニスタンから離れた場所でも、こうした活動がアフガニスタンを変えていく一助になると私は信じています。そして、私もその列に連なることができるようにと願っています。
2022年5月26日 長倉洋海
〈ダニエル・サルヴァトーレ・シファー教授がフランスで、NRFとアフガニスタンの解放と正義のための闘いについての本を出版。ツイートより〉
〈英題「Massoud's Legacy」は、大多数の審査員から「モントリオール歴史映画祭」で最優秀映画賞を受賞した新作ドキュメンタリー映画。フランスのニコラス・ジャロット監督の作品。ツイ―トより〉
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