「今日のメッセージ 2022/5/1」
私はまもなく東南アジアの取材に出かけます。20日ほど留守になるため、その間、メッセージを書くことができないことをお許しください。
最近、最も悲しく感じられた映像は、トラックから投げられたナン(パン)に殺到する人々の姿でした。その姿に胸をえぐられるような痛みを覚えるのは私ばかりではありません。これを投稿した人が映像に流している音楽からも、深い悲しみや憤りが伝わってきます。(ツイートを表示)
カブールではテロが続いています。金曜礼拝のモスクで爆発があり、50人以上が死亡。北部のマザリシャリフではハザラ人の乗るバスが爆発、少なくとも9人が死亡しました。
(時事ニュース)(ツイートを表示)
〈爆破されたマザリシャリフのバスと人々。ツイッターから〉
モスクのテロはIS-Kによる犯行と思われていますが、このメンバーの多くは元タリバンです。今もって、テロ攻撃を「神も喜ばれるだろう」と礼賛するタリバン指導部は、IS-Kのテロをどう諌めることができるのでしょうか。双方が「神」を語り、お互いへの攻撃を正当化しているという矛盾。そこには正義も信仰も見られません。
ロシアのプーチン大統領は「ロシアそのものを破壊した」と亡命ロシア人に非難されていますが、タリバンは「アフガニスタンの人々の心」を壊しています。
生活に窮した人々が物乞いになっていますが、いまのカブールでは施しもほとんど見られないと言います。「貧者への喜捨」は、イスラム教徒の大切な徳目の一つです。アフガニスタンでは買い物の釣り銭や持っている小銭を物乞いに渡すのが当たり前で、困った人を助けることは、相手を助けるというより神への信仰の証であり、いつか自分も助けられるかもしれないという相互補助の精神なのです。ですから、もらう方も与える方も、肩肘張らずに自然に振舞うのです。その振る舞いの美しさに私も影響を受け、できるだけお金を彼らに渡すように務めたものです。
北部のアンダローブで、5歳の子が拷問されたという映像が投稿されていました。幼子、老人にまで暴力を加えるのも信仰心の薄いタリバンの特徴かもしれません。厳しい映像です。閲覧にはご注意ください。
(ツイートを表示)
タリバンが断食明けのイードを祝って空に銃を撃ち、そのせいで家が炎上したという映像。空砲をあげる行為は上層部が「禁止」と命じていますがお構い無しです。(ツイートを表示)
また、イスラムでは本来、禁じられている麻薬の売買が南西部ヘルマンド州の市場で日中、堂々と売買されている姿が投稿されていました。(ツイートを表示)
こうした国の現状を変えようと、必死の抵抗をしているのが、国民抵抗戦線(NRF)です。北部バダフシャンで撮られたと思われる国民抵抗戦線指導者のアフマッド・マスードの姿が、ツイッターに上がっています。この中で、上級幹部のヤフタリ将軍は「イスラムの道から外れたタリバンのせいで、自由ばかりか家と土地を失い、食べるものもなく、苦しんでいる人々のために新たな戦いを始める」と宣言しています。 (ツイートを表示)
つらいニュースや映像が多いツイッターの中にも、フッと心を慰めてくれる映像や往時のアフガニスタンを懐かしく思い出せてくれる美しい映像もあります。
ある女性が「ああ、私の祖国。我が家に勝るものはありません」という言葉とともに投稿した映像です。
(このツイートを表示)
マスード廟のあるサリチャの丘から見たパンシール渓谷の景色もありました。
アフガニスタン、ハザラ族の装身具を撮った写真も投稿されています。
その装身具に勝るとも劣らないのは、アフガニスタンの葡萄ではないでしょうか。北インドか中央アジアが葡萄の原産地と言われていますから、ここで生まれた葡萄、その美しさには目を見張ります。
〈アフガニスタンの葡萄。ツイッターから〉
〈南部カンダハールの路地裏に垂れたザクロの実。ツイッターから〉
〈カブールの書店。ツイッターから〉
装身具も葡萄も素晴らしいですが、路地に垂れたザクロの実、本屋さんで本を読む人の姿はいま、アフガニスタンの人々が一番に望んでいる平和の姿ではないでしょうか。
苦しみの中にいる人々が心から寛ぐことができる日が、一刻も早く来ることを願うばかりです。
2022年5月1日 長倉洋海
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