アフガン情勢に関するメッセージ
2022年4月11日


「今日のメッセージ 2022/4/11」

 テレビでウクライナ等のニュースを見ている人の間に「共感疲労」という現象が広がっているという。生々しい戦争の映像、人々の悲しみや嘆きに触れ、自分が何もできないことに苛立ち、ストレスを覚える現象のようだ。私の元にも知人から「ウクライナの現状に、居ても立ってもいられない」という文章が寄せられた。
 その気持ちは私にもよくわかる。しかし、悲しいことだがニュースは消耗品、いつか下火になった時まで、その気持ちをどう持続させられるか、がより重要だ。時が経つにつれ、自分の心や関心も消耗品のように下火になってしまっては、一過性のものになってしまう。
 アフガニスタンの場合も、ひところと比べると報道量はめっきり減ってしまった。しかし、報じられないからといって、タリバンが引き起こした問題が解決された訳でも、過酷な人権状況が好転した訳でもない。アフガニスタンに限らず、小さなニュースの欠片から、その裏にどんなことが起きているのかと、想像力を働かせることが求められているのだろう。それなくしては「いまの世界の本当の姿」が私たちの前に立ち現れることはないに違いない。今、圧倒的なニュース量に心を動かすのは当たり前だが、ニュースが減った時に一緒に忘れてしまってはいけないと、自戒を込めながら思う。 

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 アフガニスタン中部のバーミヤン大学。そこで、「あっ」と思うようなことがあった。大学の講堂でタリバンのイベントが開かれたが、参加させられた女子学生数人が壇上に上がり、タリバンのスローガンが書かれた横断幕を破りだしたのだ。その決然とした行動に、会場の学生たちは拍手を送り、次々とその場を後にした。


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 過酷な処罰があることを恐れず、果敢にもそうした行動に出た背景には、権利が次々に奪われていくことへの危機感があったに違いない。大学の教授会でも、前には参加していた女性教員が参加を許されず、科目や授業内容もタリバンの考えに沿ったものに変えられようとしている。いま、それに立ち向かおうとしている女学生たちの悲壮な覚悟を感じ取ることができた。

★かつて女性教員も参加していた大学の教員会議の様子(ツイートを表示

 教育を自分たちの思い通りに変えようとするタリバンだが、その考えは常人には全く理解不能だ。先日のツイッターで、「2018年にアフガニスタンでコンチネンタルホテルを襲撃し、14人の外国人を含む40人を殺害したセラジュディン・ハッカニが、『攻撃は預言者ムハンマドによって率いられたもの。預言者がモスクで自爆テロ犯に天国に行けるようにサインしている夢を見た』と話した」と、ジャーナリストのナテック・マリクザダが投稿していた。



自分のテロ行為を預言者を持ち出して正当化しているのだ。残虐な行為も預言者を持ち出せば許されると考えているのだろうか。このような思考経路を持つ人たちが国を動かそうとしていることに恐れを抱く。

 タリバンが破壊しているのは教育だけでない。「アフガニスタンの男性は女性に敬意を払ってきた」というツイートがあった。そこには女性議員が地域の人たちと交流する写真があった。


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 封建的な因習を持つタリバンが権力を握るようになり、それまでの女性への敬意を大切にしてきた伝統を無視して、独断的な価値観を他の地域にも押し付けるようになった。女学生たち、女性たちは、そうした独善に命懸けで抗議をしているのだ。
 多くの人たちの価値観を受け入れる政府ができない限り、アフガニスタンに平穏は訪れないだろう。しかし、タリバンは変革を受け入れる気など全くなく、異議を唱える人たちを次々と逮捕、拘留していく。カブール拘置所の前に、収監された家族に面会しようとするたくさんの人々の長い列ができている映像が、ツイッターに投稿されていた。(ツイートを表示

 そんなアフガニスタンで、「ギャラップの世論調査で、53%のアフガン人が国外に逃れたいと思っているという調査結果が出 た」とアフガン・インターナショナルニュースが伝えた。多くの人がタリバン支配の現状に絶望している証左だと思うのだが、タリバン報道官はそれに対して何の反応も示していない。
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 世界が目を向けることはなくても、自国に踏みとどまり、抑圧からの解放を目指して戦い続ける人たちがいる。国民抵抗戦線の戦いはアフガニスタンの人々の希望であり光となっている。しかし、日本の大手メディアでは、その存在が報じられることは全くと言っていいほどない。それは、タリバンが行っている犯罪—女性へのレイプ、老人や子供への暴力、一般男性の投獄や殺害—への暗黙の承認となると思わないのだろうか。私の大手メディアへの不信は深まる一方だが、アフガニスタンで犠牲者が何百、何千という数字になれば、彼らは一気に報じ始める。だが、その時では遅い、と私は思う。
 世界の支援を待つまでもなく、国民抵抗戦線(NRF)がアフガニスタン各地で戦いを始めている。パンシール州の北部アンダローブでは、8日間の激しい戦闘で、タリバンとパキスタンの秘密部隊、国際テロ組織アルカイダの攻勢を跳ね返した。パンシールの入口に当たる拠点ゴルバハール、カブールから北部に続く幹線道路の要衝ジャバルサラージでも激戦が続いた。パルワン州、バクラン州、北のバダフシャン州、サマンガン州、タハール州、バーミヤン州、ファリヤーブ州、南のカンダハール州、西部のファラー州と各州に戦いが拡大し始めている。


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★アンダローブでの戦いを、「Panjshirprovince」がツイッターで伝えている。(ツイートを表示

★アルカイダの戦闘参加を伝えるツイート


〈抵抗戦線側の殉教者を偲ぶ投稿〉


〈カブールで破壊されたタリバンの車両。ツイッターより〉




 昨日、タリバンを軍事的に後押しし、アフガニスタンの露骨な介入を続けてきたパキスタンのイムラン・ハーン首相が議会での不信任案の可決により失脚したというニュースが流れた。経済対策の不手際を糾弾されたようだが、タリバン・パキスタン運動(『神学生』ということで「タリバン」という名称が付いているが、アフガニスタンのタリバンとは別組織)がパキスタン国軍への攻撃を開始、西部バルチスタンでも独立運動を抱えている。アフガニスタンとの国境では、現在の国境線を認めないカンダハールのタリバン勢力(カブールを握りパキスタン軍と緊密なハッカニ強硬派グループとは異なる)との衝突があり、パキスタン軍に多数の死傷者が出た模様だ。国家財政が破綻しかけている上に、米国からの圧力が加わり首相退陣が早まったようだ。

新たな指導者がどのような外交政策をとるのかで、アフガニスタンの状況も大きく変わる。パキスタンの今後を注意深く見守りたい。


 2001年、マスードのもとで記録を担当していた旧知のカメラマン、ユスフに、「アフガニスタンはいつ平和になると思うか」と尋ねたことがある。彼が撮ったマスードの葬儀の映像を見終わった後だった。私の問いに、彼は「パキスタンが介入をやめたときだ」と答えた。大国や周辺国の介入、中でもパキスタンの介入がアフガニスタンを苦しめ、戦いを長引かせてきた。「アフガニスタンのことは自分たちで決めたい」というのが、マスードの夢であり、人々の想いだった。
今回のウクライナ侵攻をとっても、周辺国のさまざまな思惑が透けて見える。武器支援をする側も、仲介を買って出る国々も皆、自国のこと、ひいては自分のことが第一で、ウクライナの人々のことを考え、身を挺しても戦いをやめさせようとする気持ちが感じられない。政治や権益ではなく、人間としての愛を持って事に臨まない限り、人々の命は失われ続けていくばかりだ。それでは「民主主義」も「平和(共存)」も成り立たない、ということを、今回のウクライナ紛争は教えているのではないだろうか。

 ウクライナだけでなく、アフガニスタン、シリア、クルディスタン、ミャンマーなど、メディアが報じない真実、日の当たらない場所にいる人々の思いに触れ、その声を聞こうとすることでしか、本当の世界の姿は見えてこないと私は思う。

    2022年4月11日 長倉洋海



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