「今日のメッセージ 2022/3/27」
タリバンは「23日から中高の女子教育を再開する」と告知していた。しかし、当日、生徒たちが半年ぶりの授業再開に胸躍らせながら登校すると、「再開は延期された」と告げられた。女子生徒たちは落胆し、中には泣き出す子もいた。
★女子生徒たちは、学校に来てから延期を告げられた。(BBCニュースより)
★顔を覆って涙する女子生徒の動画投稿
タリバン系メディアは「服装が反イスラム的だったため」と報じているらしい。延期が納得できず、抗議の声をあげながら、道路いっぱいに広がって歩く女性学生の姿からその憤りぶりが伝わってくる。
★「あなたが私の足を切って私を止めるなら、私は飛ぶために翼を育てます!」という言葉とともに投稿された動画 (このツイートを表示して動画を観る)
早速、国連事務総長のグテレス氏は「女子校閉鎖はアフガニスタンに甚大な損害を与える」と警告する声明を発表した。(時事ニュース)
が、日本のメディアの反応は鈍い。昨日見たNHK BSの『世界のトップニュース』の中で、フランス国営テレビ(2チャンネル)は、「世界の目はウクライナに注がれていますが、アフガニスタンのことも忘れてはいけません」と喚起を促した。そのニュースの中で、涙にくれる少女が「私たちは女性です。でも、人間。勉強をしたいのです」と話す姿が報じられていた。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻以来、日本の報道はウクライナ一色で、アフガニスタンの記事はほとんど見られなくなった。その中で孤軍奮闘しているのは、共同通信の安井浩美さんくらいではないだろうか。
★安井浩美さんによる、アフガニスタンの現状を伝える記事(リンクは連載の2回目)
アフガン関連の記事が日本から見事に姿を消したことは、テレビや大手メディアの国際ニュースへのバランス感覚の欠如、また「世界のニュースの底流を読み解く」力の不足ぶりを表しているのではないだろうか。アフガニスタンを見つめることは世界を知ることであり、世界をしっかり見るならアフガニスタンのことを忘れてはならないと、私は思う。新しいニュースに目を奪われ、一方から一方にニュースが移っていきアフガニスタンをすっかり報じなくなってしまうのは、ウクライナ、アフガニスタン、それぞれのニュースの関連性を見出し、伝えることができないからだと思う。
世界は綿密に繋がり、絡み合って動いている。そのことに目を向けなければ、報道する側も受け取る側も、タイムラインのようにフレッシュなニュースにただ流され、話題を追うだけになってしまう。
授業再開の関連記事の中で、目を引くものがあった。中高の女子教育の再開が延期された翌日、『米、タリバンとの会合キャンセル』というロイターの報道記事を見つけた。
キャンセルの理由は、「タリバンが国際社会との約束を覆したから」というものだが、私が驚いたのは、「25日から予定されていたドーハでの会合には国連や世界銀行の代表者も参加する予定だった」という内容だった。
「えっ、中高の女子教育が23日に再開されていたら、米国を初めとする機関は何らかの形でタリバンを認め交渉をするつもりだったのか?」
それは、実質的なタリバン政権認知につながることではないのか。
アフガニスタンで抑圧を受ける多くの女性たち、パンシール州など北部一帯で弾圧を受けている人々の惨状を差し置いて、よくそんな会合に臨めるものだと思った。さらには、タリバンが行おうとする女子教育の教科や内容の偏向を問うこともしていない。形さえ整えば、内実には目を瞑るという安直さが透けて見えた。
形式的な抗議のポーズや制裁がタリバンの増長を生み、「これでもいけるのだ」と思わせるのではないか。
ウクライナの場合も、クリミア併合やジョージアなどでの欧米の甘い制裁がプーチンを慢心させ、今回の侵攻につながった。
人権や民主主義、平和という概念を、今一度確認して、タリバンに当たって欲しいと私は強く願っている。
パンシール州では、女子高生が「タリバンは私たちの校舎を基地に代え、学校を戦闘の拠点にしています。彼らは学校の椅子と机を燃やしました」と話している(ツイートを表示)。世界は、そして、日本はどこを見ているのか、と私は声を大にして言いたい。それはパンシール州ばかりか首都カブールの、アフガニスタンの、そして世界中の女性たちの声でもあるはずだから。
〈ツイッターに投稿された、アフガニスタンの女子生徒の現状を描いたイラスト〉
下の写真の少女が掲げるプラカードには、「あなたは国を奪った。私の授業を奪わないでください」とある。
教育こそがこの国の希望なのだ。希望を与えるのではなく、タリバンは希望を奪っている。
(ツイートを表示)
下の集合写真は、タリバンがアフガニスタンを制圧する以前の写真だと思うが、少女たちの未来への夢と希望を感じさせる写真だと思って掲載することにした。
★「アフガニスタンの女性と少女-彼らは革命であり、私は彼女たちと共にあります。」という言葉が添えられていたツイートより。
以前、インタビューでカブールの中学生が「国民の半分は女性です」と話すのを聞いて、その堂々とした力強さに心打たれたことがある。女性たちの存在なくしてはアフガニスタンの未来だけでなく、現在も成り立たないはずだ。それがわからず、武力で何事も決めようとする勢力は必ず潰える、と私は確信している。
国旗を地面を刺した少女の写真を見て思った。「希望」は勝手にできあがるものではなく、「未来」は自然に開けるものではない。どちらも自らの意思で植え、育てることで初めて「花ひらく」もののはずだ。
自由と平和も、それを守り育てる気持ちがなければ消え去って行くかもしれない。
そんな覚悟が問われる時代に、私たちはいる。
2022年3月27日 長倉洋海
★「私たちの旗、私たちのアイデンティティー」と文が添えられた投稿写真(ツイートを表示)
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