アフガン情勢に関するメッセージ
2022年3月21日


「今日のメッセージ 2022/3/21」

 今、世界はどこに行こうとしているのか。そして、私たちはどんな時代に生きているのだろうか。第二次大戦後欧米が作り上げた「平和と民主主義」という世界秩序が、ウクライナ侵攻で音を立てて崩れ落ちている。戦争、核、自然災害・・・今日ほど、世界が不透明性を増し、人々が不安に駆られている時はないように思う。

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世界がウクライナに目を奪われている間にも、アフガニスタンではタリバンが地歩を固めようと着々と手を打っている。国民のためにではなく、自分たちのために、だ。
EUや国連に要求されて公立大学を再開して国際社会への体裁を取り繕ったものの、中高の女子教育は未だ再開されていない。それは3月以降というのだが、現時点での教員の給与も自分たちで払うことができずEUが払っている状況で、全ての学校を始めるための教員の給与をどう払っていくつもりなのか。それについて何の見通しも語られていない。それも欧米が払うべきだと思っているのだろうか。

戦火のキエフを訪問したポーランド首相が「(訪問の目的は)我々のためではない。専制政治のない世界に生きる価値のある、我々の子どもたちの未来のためだ」と話したことに心を打たれた。
一方のタリバンは、比べ得るものすら持っていない。彼らが国家や教育の未来へのビジョンを持ち合わせていないのは明白だ。代表団を作りジュネーブを訪れたりトルコに招かれたりして、国家の代表として振る舞おうとしているが、その指導者たちは今もって一般兵士たちの蛮行を止めさせることもできていない。カブールと北部一帯での令状なしの家宅捜索、その際の金品の強奪、暴力、家具の破壊が行われている。各地でのタジクやハザラへの暴行や処刑もひっきりなしに続いている。この半年間、そうした映像に連日のように触れながら、「早くこの状況が止んで欲しい」と願ってきたが、それは止みそうにない。昨日も、石打の刑に処せられる男性の映像を見たが、見る側が苦しくなるだろうと思い、ここにアップすることは控えた。
自由と教育、雇用を求め、声をあげた女性たちへの弾圧も収まらない。先月ここで記事を紹介したジャーナリストの舟越美夏さんの、3/18付の記事『私たちには夢があった』(AERA.dot)の中でも、「女性が拘留中にレイプされた」という話が紹介されている。タリバンは暴力を振るうだけでなく、女性たちの夢、子どもたちの未来を壊している。

タリバンはメディアへの統制も進めている。アフガニスタンの主要テレビであるトロニュースのキャスター、バーラム・アマン氏をはじめとするスタッフ数人が逮捕されたという。英国難民担当大臣アドバイザーのシャブナム・ナシミは「アフガニスタンのメディアは崩壊しつつあります。報道がなされなくなることを、大変危惧しています」と述べている。

★逮捕されたトロニュースの新任キャスター(Twitterより


同時に、タリバンは大使館を含む在外公館に、アフガニスタンの三色旗(黒は外国軍侵略の抑圧の暗黒、赤は独立で流された血、緑は自由と平和、未来への希望を象徴し、中央にイスラムの説教台が描かれている)を取り外し、タリバンの旗(白地の中央に五行のひとつシャハーダ信仰告白”「アッラーの他に神はなく、ムハンマドは神の使徒」と書かれ、下には「アフガニスタン・イスラム首長国」とパシュトゥーン語で書かれている)に架け替えるよう通達を出したという。在日本大使館は今もタリバンを政府として認めていないが、本国からの給与が届かず、政治的、財政的に苦難に見舞われている。

★新しい国旗についての通達書(ツイッターより



タリバンが権力を握る以前のアフガニスタンでは、憲法では教育や雇用の男女平等が謳われ、国会議員の4分の1が女性だったが、現在のタリバンは国の指針である憲法を停止したままで、新たに作る構想も持っていないようだ。昨年8月のタリバンの首都制圧以前に撮影された、アフガン国旗(三色旗)と会議に参加した女性議員の写真が「国民が選んだ旗。パキスタンのISI(軍統合情報局)が作ったものではありません」というコメントとともにツイッターに投稿されていた。


ここで、旧ソ連軍のアフガニスタン侵攻(1979-1989)と、タリバンの全国制圧に最後まで抵抗を続けたマスード司令官の言葉を紹介したい。

『誰も戦争の中に身を置きたいなどと望まない。それが長い消耗戦なら尚のことだ。しかし、自分の国が外国軍に侵略され、あるいはタリバンのような勢力が国を支配しようとしたら、抵抗するしか方法は残されていない。望むと望まないにかかわらず、勝利を掴み取り、平和を実現できる日まで抵抗を続けなければならない。』


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私たちが支援を続けている「アフガニスタン山の学校」の故サフダル校長の遺児バーゼットから、「半年間閉鎖されていた大学が再開したので、マザリシャリフに向かう」と連絡が来た。彼はバルフ大学で考古学を勉強していたが、大学が閉鎖され、「自分たちの大学がなくなってマドラサ(神学校)のようなものになるかもしれない」という不安のメールで送ってきたことがあった。大学再開を知ってホッとしたのも束の間、ツイッターにバルフ大学の看板がダリ語からパシュトゥーン語に置き換えられる写真が投稿されたのを見て、バーゼットが無事に卒業できるのか心配になってきた。国民の70パーセントが話すダリ語を外し、自分たちのパシュトゥーン語を打ち出しているタリバンは、いずれ授業でもパシュトゥーン語の使用を強要する可能性がある。タリバンは文化や芸能音楽の軽視、メディアへの統制、そして教育現場をも自分たちの都合のいいものに改変し、徐々に自分たちのスタイルを浸透させ、強要していこうとする姿勢を感じる。

★ツイッターにアップされたゴール州の文化財Shahiモスク

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★ツイッターにアップされていた、11世紀に作られたミナレット(礼拝呼びかけ塔)の写真—ガズニ州

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歴史的な文化財も、タリバンの元ではいずれ姿を消すことになるかもしれない。文化財の価値を理解し、それを守ろうとする気など全くないからだ。タリバンは先日、ナウルーズ(ペルシャ暦の新年)の祝いを禁じたが、各地に伝統的な祝いの慣習がある。アフガニスタンで最も辺境の地バダフシャンの「アフガン・パミール」で、新年を祝って食べる伝統的デザート「サマナック」を作る映像を見つけた。サマナックは若い小麦から作る甘いペーストで、伝統歌を歌いながら、一晩中、火にかけて調理するという。(ツイートを表示

一方、トルコやイランからの激しい弾圧を受けているクルド独立運動の地でも人々が新年を祝っていた。伝統を大切に持ち続けることで、人々は団結し、「自分たちの道」を自らで照らし出そうとしているのかもしれない。その情熱的な踊りに圧倒された。

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クルドの人々は、苛烈な弾圧の中でも自らのアイデンティティを捨てていない。

メディアは民間人への無慈悲な殺戮が続くウクライナからの報道一色だが、ロシアの破壊と暴力は今に始まったことではない。チェチェン、シリア、ジョージア、クリミアと、プーチンが始めた戦争を欧米が強く制止しなかったことでプーチンに「大丈夫なのだ」という錯覚を与え、そのためにウクライナ侵攻に至ったと思う。世界、中でも欧米がもっと早くに対処していれば、動いていれば、今日のウクライナの悲劇を生むことはなかったかもしれない。
翻って、アフガニスタン。タリバンはイスラムの偏った解釈で人々を抑圧し、国民の幸せを蔑ろにしている。彼らの暴走を許せば、いずれ、この身勝手な考えは中央アジアのタジキスタンやウズベキスタン、カザフスタンなどに輸出され、各地で人々を苦しめることになるだろう。隣国パキスタンの兄弟組織「パキスタン・タリバン運動(TPP)」がもしパキスタンの核兵器を手にするようなことになったら、世界を相手に身勝手な恫喝を行うだろう。
そうなってからでは遅いのだ。


〈ロシア軍に徹底的に破壊されたチェチェン。デジタル「クーリエ・ジャポン」より転載〉


自国を第一に考え、経済関係を重視し、内向きになった欧米各国。難民を受け入れるだけで終わるのではなく、難民たちが戻ることができる祖国になるよう、前向きにもっと強力に関与していくことが世界の平和のために必要なのだと思う。
アフガニスタンとそこに生きる人々を見続けていくこと、それも平和への一歩だと私は思う。


2022年3月21日 長倉洋海


昨日、カブールから桃の花の便りが届いた。
きっとパンシール州でもこれから咲くだろう。そのあとにアンズの花が咲きだす。






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