「今日のメッセージ 2022/3/1」
ウクライナでは、ロシア軍相手に人々が果敢に戦い続けています。祖国と自由、そして家族のために劣勢をものともせずに戦う姿は、世界に深い共感を広げているように思います。
〈「アフガン人はウクライナの人々とともにある」とプラカードを掲げる少女。ツイッターより〉
しかし、共感の輪に加わることなく、世界の目がアフガニスタンから逸れていることをいいことに、タリバンはカブールやカピサ州などで大規模な不法家宅捜索を行っています。家探し捜査の理由も令状も示さず、扉を蹴破って侵入し、暴力を振るい、女性の衣類を切り裂き、家具や電気機器を破壊し、スマートフォンを奪い取り、本を破る蛮行です。タジク人が標的のようですが、それだけにとどまらないようです。国民抵抗戦線の攻勢に連動した動きを警戒しているのかもしれません。
★ドアを執拗に蹴りこじ開けるタリバン(ツイートを表示)
★捜索後の家の様子 (ツイートを表示)
★カブールの寄贈図書センターが荒らされた様子 (ツイートを表示)
常軌を逸した蛮行に、フォンブラントEU駐アフガン大使が「脅迫、家宅捜索、暴力は犯罪であり、直ちにやめなければならない。プーチン大統領の戦争があろうが、われわれはあなたがたを見ている」とツイートした。
が、タリバン当局者のムハンマド・ジャラルは「プーチン氏から欧州を守ることに集中しろ」と返した(AFP通信)という。
そして、マスードの墓が再び破壊されたという。その写真から、生きている者ばかりか死者への冒涜を行なっても、タリバンは全く心が痛まないのだと知ることができる。
一事が万事なのだ。ひとつひとつの行いから、彼らの本質が如実に見えてくる。先ほどのAFP記事では「タリバンが再び国民の出国を禁止した」ことも伝えているが、それに関するタリバンの言い草は笑止千万だ。「政府には国民を保護する責任がある。国民の命が危険にさらされないという保証が得られるまで出国を制限する」とムジャヒド報道官が述べたという。
タリバンの言説はウクライナ侵攻に強弁するロシアのプーチン大統領と同じだ。どちらも「裸の王様」という生やさしい表現では足りず、まともな精神状態にないとしか私には思えない。
そればかりか、タリバンはパンシール州への住民の出入りを11日間にわたって禁止しており、これも認められることではない。
一方で、欧米に向けて約束した女子教育については少し改善されたようだ。公立大学は再開され、授業が再開されたのだ。
★公立大学の授業再を報じるNHK WEB
★公務員に満足に給与を支払っていないタリバンを通すことなく、ユニセフ(国際児童基金)が全国19万4千人の教員に直接現金支給を始めたというニュース
子どもたちの笑顔の写真に接するとホッとするが、昨夜、私のもとに悲しいニュースが届いた。山の学校の生徒バシラが亡くなったというのだ。
カブールでの避難生活で小児性糖尿病が悪化したらしい。彼女と出会ったのは彼女が1年生か2年生の時、顔色が優れず目の周りは黒く窪んでいた「毎日、自分で薬を注射している」と話すバシラは、すぐに疲れてしまうようで、すぐ近くの学校への通学も大変そうだった。父親の頼みで薬代を支援、欠席が多く進学できない年もあったが少しずつ快方に向かった。会うたびに「バシラ、大丈夫?元気?」と声をかけると、はにかみながら笑顔を浮かべた。
〈2015年撮影〉
〈2018年、妹のサダフと羊を家畜小屋に入れるバシラ〉
避難生活の中で薬を満足に入手できなかったのかもしれない。せめて会うことができていれば、と悔やまれた。将来、もっとやりたいことがあっただろう。ひっそりと逝ったバシラが不憫でならない。遺体はパンシールに運ばれるという。故郷パンシールに葬られることが、唯一の救いだ。それにしても、どうしてアフガニスタンがこうなってしまったのかと思うと心が沈む。
アフガニスタンのニュースに触れるたびに、何もできない自分が歯がゆい。それでも、こんなニュースを見ると、希望が生まれてくる。
国外に逃れていたひとりの女性が、6ヶ月を経て帰国した、というツイートだ。遠くから国の苦難や人々の苦しみを見ているだけでなく、政治の悪、道義的な悪にも立ち向かうという強い決意を披露している。
(ツイートより)
Facebookで彼女の気持ちが詳しく綴られていたので紹介したい。
『祖国に帰ってきました。
殉教した父の希望、
傷ついた祖国のため息、
飢えた母親、孤児たちの叫び
蹂躙される人権、
それらが私を帰国させることになりました。
アフガニスタンの娘として、国外から
人々の苦難を見ることに耐えられなくなったからです。
私のような孤児になってほしくない。
兄弟の胸を弾丸が貫いてほしくない。
平和、団結、繁栄、芸術、ペン、本を通してアフガニスタンの人々の声を反映させたいと願う。』
祖国の窮状を見かねて帰ってきた女性がいる。
自由のために戦い続ける人がいる。
ひっそりと命を閉じた少女がいる。
〈雪の中を移動する国民抵抗戦線の戦士〉
誰もが「自分の生」を生き抜くことを願っている。
私はそんな人々にエールを送り続けたい。
アフガニスタンが平和で自由な国になるまで。
そして、一人一人が「人間として認められる日」まで。
2022年3月1日 長倉洋海
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