「今日のメッセージ 2022/2/21」
タリバンがアフガニスタンを力で支配するようになって半年が経ちます。その間、現地からのさまざまな情報や映像に接して気づいたのは、タリバンは「正義」とか「公正」という言葉や概念を持ち合わせていないということです。
今日、まず、お伝えするのは悲しいニュースです。支援を続けてきたパンシール渓谷ポーランデ地区にある「山の学校」の卒業生からSNSで「従兄弟の夫が殺された」という連絡が入りました。
「タリバンに、パンシールの人間だからという理由で家を占拠され、取り戻したかったら家の権利書を持ってこいと言われ、それを持って出向いたら背後から撃たれ、病院で死亡した」というのです。彼の仕事は大工で、目の見えない叔父を気遣い、その傍にいつも付き添っていました。家族全員がその死を信じられません。この不条理を広く伝えてください」とありました。
連絡をくれた卒業生の家は何度も訪れたことがあります。7人の子どもたち全員、山の学校の生徒や卒業生で、「支援のお礼に」とポーランデ川のほとりの家に招かれ、毎回、心づくしのご馳走を振る舞ってもらっていました。
撃たれたナイームは今まで何度も尋問を受けていたと言うことでした。叔父思い、家族思いの若者の死。その死を受け入れられないという家族の悲しみを思う時、私はパンシール中の人々の慟哭が聞こえてくるような気がします。
しかし、パンシールの人々だけが不条理を被っているわけではありません。3日前にはパンシールの北隣のアンダローブで医師が殺害されました。遺体は耳を削がれていたということです。昨日はカブールの交差点で同じく医師が撃たれ、病院に運び込まれましたが死亡したということです。
★アンダローブの医師のニュース(ツイートを表示)
★カブールで撃たれた医師が病院に運び込まれる映像(ツイートを表示)
ツイートによると、アンダローブの医師は「国民抵抗戦線に協力した罪で殺害された」と書かれています。しかし、カブールの医師をはじめとして、なぜ殺されるのか、裁判があったわけでも逮捕状があるわけでもない、誰も容疑すらわからずにたくさんの一般市民が殺されています。
ただ、間違いないことは、「タリバンが自分たちの判断で殺害に及んだ」ということです。
衝撃的な拷問の映像もあります。タジク人の男性に巨大な石を乗せていくものです。こうした場面をどうして映像に捉え、流布させることができるのか。その心理的な背景が理解できません。反対者に恐怖心を呼び起こすためでしょうが、彼らはそれをなんとも思っていないということだけはわかります。(ツイートを表示)
女性活動家への弾圧も一向に止みません。以前お伝えしていた、拘束に批判が集まっていた数人の女性活動家たちは解放されたものの、20日間の拘留期間中、ひどい拷問が加えられたようです。釈放後、彼女たちはメディアによるインタビューには一切応じていません。何も話さないことが釈放の条件だったようです。
それでもタリバンによる脅迫に屈することなく女性たちは抗議活動を続けています。
★タリバンからの脅しを告発するツイート。
〈抗議を続ける女性たち アフガニスタン・インターナショナルニュースのツイートより〉
★「タリバンはさらに2名の女性活動家を拘束した」とのツイート。
誰かを釈放しても、また別の誰かを拘束する。
タリバンの拠点都市カンダハールからは、女性がタリバンに撃たれたことに抗議するパシュトゥーン人の映像が投稿されています。ツイートには、
「親愛なるアフガニスタン人、
すべての民族がターゲットです。次はあなたの民族です。
タリバンには、宗教も民族性も、人類への慈悲もありません。
抑圧、不公正、専制政治に立ち向かう時が来ました...
民族の違いを脇に置いてください。
NRFの下で、私たちは団結することができます。」と書かれています。
(ツイートを表示)
北東部バダフシャンからは石打ちの処刑が行われたというツイートが上がっています。タリバン関係者がドイツ通信社のインタビューでその事実を認めた、ということです。婚外関係を持った二人を処したということですが、証拠があったのかなかったのか、それもわからないままです。ツイートには、
「人権団体アムネスティ・インターナショナルの関係者は、この問題はフォローアップされるとアフガニスタン・インターナショナルに語った。」と書かれています。(ツイートを表示)
暴力と脅しで人々を沈黙させようとするタリバンですが、その一方で国際テロリストたちが次々と入国しているようです。国民抵抗戦線(NRF)外交部長のアリ・ナザリーは、8月15日以降、北アフリカ、中央アジア、南アジア、そして中東から外国の戦闘員たちが続々とタリバンに加わっているとツイートしています。彼は同時にニュース・マックスの「タリバンが国際認知を受ければ国際過激派グループを利することになる」という記事も紹介しています。
(ツイートを表示)(NewsMaxの記事を表示)
国際世論の心配をよそに海外からの過激派を受け入れているタリバンが、いま強く求めているのが、米国が行っている資産凍結の解除です。2月11日、米国は「資産の半分35億ドルを人道支援に、残り半分は米同時多発テロの犠牲者の家族が起こしている損害請求の対象として米国に保管する」と発表しました。
★日経新聞記事
それに対してタリバン報道官は、「凍結資産を盗んだ。(米国の)道徳心は地に落ちた」と非難しました。
先日は「基本的人権の侵害」と述べたかと思うと、今度は「道義心」という言葉を使っています。その身勝手さに呆れるのは私だけでしょうか。
★NHK記事
本来はアフガニスタンの人々のために使われる資金がどうして米国同時テロの犠牲者たちに充てられるのか、とタリバンは非難を向け、米国はビンラディンをかくまったタリバンの責任を理由にあげていますが、少しでもお金が欲しいタリバンは納得がいかないようです。
しかし、「そうした資金や援助がタリバンに流れれば、テロリストグループに届く可能性が高い」とカタールの外相が話している、とアフガニスタン・インターナショナルが投稿しました。タリバンに同情的なカタールの外相がそういうのですから、間違いないと思います。ツイートには、「彼はBBCに対し、タリバンが過去20年間のアフガニスタンの業績を損なうことのないように望んでいると語った。」と書かれています。(ツイートを表示)
国民抵抗戦線のアリ・ナザリー外交部長は「正当な政府ができるまでそれらのお金は保管されるべきで、そこから賠償金を払うとしたら、タリバンのスポンサー(9.11のテロ犯19人中、15人を送り出したサウジアラビアとビンラディンを匿ったパキスタン)が払うべきだと思います」と述べています。(ツイートを表示)
タリバンは資金不足に喘いでいますが、世界が注目する手前、流石にヘロイン輸出は控えているかと思っていたのですが、そうではないようです。
隣国タジキスタンへの輸出は69%増というニュースが流れています。(ツイートを表示)
今まで資金の大半をヘロインの麻薬販売で賄ってきたタリバンですが、彼らが支配者の側にまわって、国内の麻薬患者への対応に悩まされているようです。アフガニスタンの薬物依存症患者は300万人、人口の8%に当たるそうです。
〈Googleニュースから転載〉
2/15に「世界のトップニュース」(NHKBS)で紹介されたスペインTVの報告では、橋の下や路地裏で薬物を吸引する人々が目立ち、タリバンはそうした患者を矯正所に送り込んだり、目立たない場所に追いやることに躍起だとも述べられています。このことは、昨年このメッセージでもお伝えしているとおりで、それが今も続いているということでしょう。(2/15のこの番組を紹介する記事を表示)
それでも、タリバンは今までヘロイン販売を促進してきた責任を決して認めないでしょう。それどころか、「放置していた前政権の責任だ」と言い出しかねません。以前のメッセージで、自爆テロの犠牲になった子どもたちへの責任を問われた際「それは親たちが聖戦を行わなかったからで、親に責任がある」と驚くべき発言をしたことを紹介したのを覚えておられると思います。責任転嫁は彼らの常套手段です。
〈路上で薬物を吸引する人たち。CNNより〉
今まで「現実を認め、タリバンと交渉すべきだ」と話していたアフガニスタン元大統領のハーミド・カルザイが「タリバンは国民の声を聞くべき国民議会かロヤ・ジルガ(国民大会議)を開くべきだ」と初めて真っ当な意見を述べました(トロニュースのツイートを表示)。多くの国民が望んでいることにやっと気づいたのか、それともタリバンの唯我独尊ぶりに呆れたのか・・・。タリバンを「兄弟」と呼ぶなど今までタリバン擁護とも思える発言を繰り返してきた、そのカルザイ元大統領でさえ、国外での国際会議に出ることは許されていないそうです。軟禁状態ともいえる元国家和解高等評議会議長 Dr.アブドラーアブドラーも同様に海外には出られません。
自分たちは国際会議に嬉々として出かけ、他の人には認めないという二律相反のタリバン。自分たちのことしか考えないタリバンはアフガニスタンを統治する資格も能力もありません。彼らが権力の座に留まれば留まるほど、アフガニスタンの悲劇は続くことになります。
どんなに渓谷に清らかな水が流れても、大空が澄み渡り小鳥たちが美しくさえずっても、人々はそれを謳歌することができないでしょう。一刻も早く、平和で安穏とした日々が戻ってくることを願うばかりです。
最上流の町パリヤンを流れるパンシール川の映像を紹介して、今日のメッセージを終わります。
2022年2月21日 長倉洋海
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