「今日のメッセージ 2022/2/11」
今まで「今日のメッセージ」を書き続けてきて、未だにわからないことがある。それは、タリバンという人たちは、どのような「心の内」を持っているのだろうか、ということだ。
家族を飢えさせないために結婚させられるという8歳の物乞いの少女、大切にしていた楽器を焼かれ悲しみに暮れる楽器奏者、子供を売ったと話す男性、家族のためにパンを盗んで殺された父親と横で涙を流す少年、病院でやせ細った赤ん坊たち・・・こうした国民の窮状に、タリバンは涙を流したり、申し訳ないという気持ちにならないのだろうか。
今までいろいろな人に出会い、写真を撮ってきて、その人の表情には「心の内」が表れるものだと思っている。しかし、タリバンは大臣にしても報道官にしても、能面のような表情で記者会見に臨み、いつもと変わらない面持ちで国際会議に参加している。その表情だけを見ると、アフガニスタンには特別変事が無いように思えるが、そんなことは無いのは誰もが知っている。
ツイッターにアップされたフォト・コラージュは、2021年の8月15日以降に殺された人々、拘留されたままの人々、家や土地を奪われた人々、拷問と暴力で傷ついたジャーナリストたち、鞭で打たれる女性、そうした人々の写真で構成されていた。中には「今日のメッセージ」で紹介した人たちもいる。が、ここに登場しきれない数多くの人々がいる。その人たちの悲しみでアフガニスタン全土が覆われているのだ。コラージュの作者は『地上の地獄』とコメントしているが、その辛さと悲しみが伝わってくるようだ。
(このツイートを表示)
コラージュにも含まれているが、拘留されたまま、あるいは行方不明になったままの女性活動家たちは、未だ解放に至っていない。これまでもお伝えしているとおり、釈放を求める声が国際機関から上がっていて、国連のグテレス事務総長も懸念を表明、釈放を求めるツイートを投稿した。
〈ツイッターに上がった抗議ポスター〉
国連のアフガニスタン特使デブラ・ラインズもタリバンにこの状況の改善を求めた。ムッタキ外相代行は「この問題は解決される」と述べたという。そう言うのなら一刻も早く、人々を解放するように尽力すべきだ。
(ツイートを表示)
行方不明の女性たちは、生きているのか死んでいるのかさえわからない状況だ。拘束されていたなら、生きていたとしても女性刑務官もいない中での監禁状況は耐え難いものだろうと推測する。タリバン内部の強硬派が実行し、上層部の言うことを聞かないのか。いずれにしてもタリバンの統治能力が疑われる。そんなグループをいくつかの国が国家代表の形で迎え入れたが、自分たちの組織すら統率できていないのでは、一体誰と話せば国際的な「約束事」等が守られ果たされるのかと感じる。
それでも、首都カブールでは女性たちが今日も抗議の声を上げている。
★団地の前で女性の状況改善を求めるプラカードを掲げる女性たち。
「私たちは国民の声であり、政府から女性を排除しないでください」と女性たちはタリバンに語った。運動は、それがいかなる政治的、党派的または民族的派閥とも提携しておらず、アフガニスタンの女性の状況を改善することだけを望んでいると述べています、との投稿。(ツイートを表示)
ツイッターに、アフガニスタン・インターナショナルニュースチャンネルが興味深い記事を投稿していた。
先月、国際会議が行われたノルウェーへのタリバン代表団に国際指名手配犯のアナス・ハッカニが加わっていたが、彼がオスロで逮捕されないように「タリバンがマザリシャリフで人質を取っていた」というものだ。国際的な確認はまだ取れていないが、マザリシャリフにはいまだに脱出できていない米国人がいるので、そうした可能性も否定できない。(ツイートを表示)
NRF(国民抵抗戦線)の外交部長アリ・ナザリーは、「タリバンが国全体をハイジャックすることが認められたため、アフガニスタンに人道危機が起きているのです。自らの目的のためにその状況を利用しようとしています。この危機を終わらせる唯一の解決策は、根本原因であるタリバンを取り除くことです」とツイートしている。
統治能力の欠如があからさまなのに、それでも権力の座に居座ろうとするタリバン。その一方で、アフガニスタンの人々は寒さに震え、空腹に苦しんでいる。カブールでは一斤のパンを求め長蛇の列ができている。
タリバンは人々の苦境に自らの身を切るような支援対策を行っていないが、心ある人々が苦難を何とかしようと頑張っている。
★タリバンの政権奪取に伴う混乱の中、食料を確保できない市民に「命のパン」を無料配布する店主。アフガニスタン伝統の互助意識に基づき、住民の間で「共助」の取り組みも続いている。(時事通信記事)
イスラム教の経典コーランには「己が財産と生命を投げうってアラーの道に奮闘してきた人々、それから避難所に援助を惜しまなかった人々、この人たちこそ、本当の信者、最後の勝利者である」(第9章20節)と書かれている。真のイスラム精神がこの地にあることが大きな救いだ。
人々の上に立つ人は、国民に対し責任を負うている。その責任を全うするには、人への愛が必要だと思っている。私が長く取材を重ねたアフガニスタン抵抗運動の指導者マスードは、人前では決して涙を流さなかったが、1984年、ソ連軍の大規模な空爆の情報を入手しパンシール州の住民9万人に避難命令を出した時、羊を連れ、老いた母や父を抱きかかえるようにして、山の稜線伝いにたくさんの人々が故郷から逃れていく姿を見て涙していた、とアブドル・アナスが話している。心に温情を持ち続けるのが真の指導者だと私は信じている。
アフガニスタンは冬景色。地上の汚れや醜い人工物を覆い隠してくれる雪を私は好きだが、そんな景色の中で必死に生き抜こうする人の姿がある。
〈北部バダフシャンの冬景色 -- ツイッターから〉
〈カブールの雪景色 -- ツイッターから〉
〈カブール。路上の物乞いの少女 -- ツイッターから〉
生き抜こうとする人の姿は美しい。が、助ける人の姿はもっと美しいと私は思う。
2022年2月11日 長倉洋海
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