「今日のメッセージ 2022/2/5」
アフガニスタンの冬。その季節を山で過ごすのは並大抵のことではありません。足の先から、手の先から氷のような冷たさが体の芯まで迫ってきます。ヒンズークシ山脈は、その厳しさから「インド人殺し」と名付けられた山々です。その厳しさに耐えて戦いを続ける国民抵抗戦線に、闘争への強い意志を感じます。
〈雪のヒンズークシ山脈 ツイッターより〉
〈雪の中をラッセルして進む国民抵抗戦線の兵士たち。ツイッターより〉
また、このリンク(←クリック!)で紹介するツイートの『雲海を見下ろして』というタイトル動画には、雲海の上からの大パノラマが映し出されていて圧巻です。
しかし、この雲海の下では、皆さまがご存知のように厳しい現実が続いています。ロイター電では「アフガンで公立大再開、女子学生も復学 国連は評価」というニュースが流れ、それを見て安堵された方もいるのではないでしょうか。(ロイターニュースを表示)
ですが、残念ながらまだ安心するのは早計です。山の学校の卒業生バーゼットは考古学を学んでいましたが、前にもお伝えしたように「先生方が国外に逃れ、学部もこの先どうなるのか」とメールに不安を記していました。
昨日はカブール医科大学のピルサド教授が連行されており、その様子が2/4のアフガニスタン・インターナショナルのツイッターに投稿されています。(ツイートを表示)
先生が授業をできる態勢なのか、給与がきちんと払われるのか、今までの学科が維持されるのかなど、不透明なことが多すぎて、これが本当の第一歩になるのかもう少し見守っていく必要があると思います。
そして、他の問題に目を転じると、タリバンは何も変わっていないと思います。これだけ世界の目が向けられているのに、何も答えていない。それは女性活動家の逮捕、拘禁問題です。
拘束されて16日が経つ活動家タマナさんとパラワニさん、それにタマナさんと共に連れ去られた3人の姉妹が未だ釈放されていません。さらに、以前のメッセージでもお伝えした前政府の軍の将校で、女性刑務所の所長だったハザラ女性アリア・アジジさんは逮捕されて既に5ヶ月が経過しています。
婦人警官や女性刑務官がいない場所でどう扱われているのか、心配です。
それに加えて、さらに2人の女性が新たに拘束されました。国連アフガン・ミッション (UNAMA)は直近にも「すべての失踪した”女性活動家と親戚を釈放するように」と声明を出していますが、タリバンからはまだ何も回答がありません。(UNAMAのツイートを表示)
新たに拘束された1人は、UNAMAの旗の前に立つ矢印の女性、歯科医師のゼラ・モハマディさん。
もう1人はムルサル・アヤールさんと言われています。(写真は2枚ともツイッターより転載)
拘束されたままの女性たちを描いた抗議ポスターもネット上に登場した。
2月4日には、前政権や国軍で働いていたとされる女性が射殺される映像も投稿されました。これがいつの映像なのかわかりませんが、タリバンが行ったことに間違いはないようです。あまりに簡単に無抵抗の人を背後から銃で殺してしまうことが信じられません。
※このリンクは女性がいとも簡単に射殺される映像が添付されています。
閲覧はご注意ください(→ツイートを表示)
パンシール州ヘンジのショッピングモールでタリバンが男性を殴っている映像は、ヘンジ出身の男性から投稿されています。この映像で驚くのは、暴行を他のタリバン兵士は撮影しながら笑って見ていることです。
(ツイートを表示)
国内の経済悪化も最悪な状態で、人々は食べるものにも窮しています。
以前、物乞いをする映像を掲載したことがありますが、その人たちの気持ちを思うといたたまれなくなるので、下記の写真も載せるべきかどうか迷いました。しかし、この写真をアップした記者の文章を読んで、やはり伝えるべきと思ったので転載させていただきます。
〈カブール郊外の道路で物乞いする少女ファティマ(8歳)と母親〉
ファティマはクリスティナ記者に「学校に行って勉強したい」と話したそうですが、「彼女の未来はすでに決まってしまった。家族を飢えからから救うために知らない男性と結婚することになったのだ」とクリスティナ記者。
「私の35年の記者人生で、人口の半数以上が深刻な飢えに直面し、100万人の子供が死ぬかもしれないという惨劇を見たことがない」と、英サンデー・タイムズ紙に投稿しています。(記事を見る)
外には融和姿勢を見せ、中では弾圧を強め、国民の苦難にすぐに手を打とうしないタリバンに、東部のパクティカ州アラゴン地区の商店街と地元の人々がアフガニスタンの三色旗を掲げ抗議の意を示しました。
〈ツイッターより〉
世界での抗議運動も続いています。
先週末(1月29日、30日)、パリ、ワシントン、ロサンゼルスでアフガン女性を支持し、タリバンの弾圧に抗議する市民たちが声をあげました。(ツイートを表示)
★ロサンゼルスでは、「タリバンを承認するな」と道行く人にアピールしました。多くの人が車から「支持」を表しているのが印象的です。(ツイートを表示)
今日1番のトピックスをお知らせしたいと思います。パンシール州で勉強している子どもたちの様子がツイッターに投稿されたのです。
「パンシールではモスクで、あるいは民家で、子どもたちが勉強を続けています」という説明があり、子どもたちが真剣に、時には楽しそうに勉強する様子が映し出されています。先日は州を流れる川の最上流部パリヤンで子ども達が文房具を受け取る映像を紹介しましたが、それに続いて、希望が湧いてくる映像です。
(ツイートを表示して動画を見る←「センシティブな内容が含まれている可能性がある」と出ますが、『表示』を押すと見られます。)
しかし、その映像を見た直後、パンシール州の高まる抵抗に対し、新たにパキスタン軍を含む300人が30両の車で送られたという情報も投稿されていました。子どもたちが巻き込まれないか心配です。
パンシール州でタリバンがいかに過酷な弾圧を繰り返し、住民の人権を奪っているかということは、日本のメディアは一切報じません。ただ、先日のNHKBSの報道番組では「ハザラ人たちの苦難」が紹介され、以前、ツイッター上で見た「故郷を追われるハザラの人たち」の映像が使われていました。パンシールのことが報じられないのは、そこにそのメディアの記者がいないからだとばかり思っていたのですが、ツイッター映像を使って問題ないのなら、『まだ戦いを続けているパンシール』もぜひとも報じて欲しいと私は願います。戦火の中、学校が閉鎖され、家族の収入も絶たれた中でも、子どもたちは「勉強を続ける」ことで希望の火を心に灯しています。なんとか応援したいものです。
これまでもタリバンが貴重な文化財や芸能を破壊しているのは何度か伝えてきましたが、先日、驚くニュースがカブール共同で日本の新聞に伝えられました。タリバンがバーミヤン遺跡を掘窟したというニュースでした。(このニュースを表示)
「そこに宝物があるという情報があったからだが、それは偽情報だった。穴は埋め直す」とバーミヤン州のタリバンの知事が謝っていますが、空いた口がふさがりません。彼らにとっては、まだ地中に眠っている多くの文化財よりもお金になる秘宝が大切なのでしょう。
しかし、文化を奪われても人々は自らを作りあげた文化を捨てることはありません。北部のバダフシャンからはこんな映像が届いています。
★楽器を演奏する少年が糸を引き、羊の人形を操っている姿が微笑ましいです。(ツイートを表示)
★バダフシャン出身の女性は、故郷の美しい踊りを投稿しています。(ツイートを表示)
こんなにも豊かで楽しく美しい芸能が溢れたシルクロードの十字路アフガニスタン。こうした文化を絶やすことなく、様々な民族が自由に生きていくために必要なのは、本当の意味の民主化だと思います。かつての抵抗運動の指導者マスードが「戦いと国民の声」について語る映像がアップされていました。
「この戦争は『課された戦い』で、誰も戦うことなど望んでいない。しかし、人々の声が反映する国を作るために戦っています。『選挙』を行い、国民の声を聞く国にするために」と語っています。(ツイートを表示)
自分や自分たちのことよりも、国民を第一に考えてきたマスード。
いつも「内なる魂の声」に従ったマスード。
彼は終生、ぶれることがありませんでした。そんな彼の思いがいつかアフガニスタンを包み込む日がくると、私は信じています。
2022年2月5日 長倉洋海
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