「今日のメッセージ 2022/1/31」
25日まで3日間続いたオスロ国際会議で、欧米各国は「(タリバンに対し)恣意的な拘束やメディア弾圧、超法規的殺人などの人権侵害を防止するための、より多くの努力を求める」との共同声明を採択、発表した。
(共同ニュースより)
国連安保理では、国連アフガニスタン特別代表団の事務局長デボラ・リヨンスが「アフガニスタンでは戦争は終わったが、まだ平和は定着していない。恐怖でではなく、信頼によって統治する時。全てのアフガン人の権利を守り、対話で国民和解を」と語っている。(ツイートを表示)
活動家としてオスロ会議に出席したアフガン女性ホダ・ハモーシュは「世界にタリバンに人権を尊重するルールを促してほしい」と訴えた。
〈ツイッターより〉
彼女ばかりでなく、世界各国から「人権の尊重、女性拘留者の解放」を求められながら、タリバンはそれには具体的な対処策を答えていない。オスロ会議にタリバン代表団として加わった報道官ムジャヒドは、帰国後、ビデオメッセージで「女子教育の改善に向けて努力を続けている」と語った。
しかし、彼らのいう教育とはどんな教育なのか。また「イスラムに則って」と様々に規制を加えるつもりなのだろうか。ただ「教育の再開」を唱えるのではなく、20年前に彼らが禁じていた地理、そして音楽や絵画などの芸術科目が今まで通り行われるのか等、具体的な教育内容を語ってほしい。過激なイスラム思想を教え込むマドラサのようなものにならないように、私たちも国際社会も見守る必要があると思う。
アフガニスタン国内では、女性活動家のパルヴァネ・イブラヒムケルとタマナ・パリアーニが3人の姉妹と共に失踪してから10日が経過したが、所在がわからないままだ。オスロ会議でも追及されたがタリバンは「知らぬ存ぜぬ」を繰り返し、いまだ何ひとつ明らかにしていない。ツイッター上では「拘置所での恐ろしい拷問や暴行を心配する」という声が上がっており、最悪の事態になっていないことを祈るばかりだ。
〈失踪したまま行方不明になっている女性活動家パルヴァネさん(左)とタマナさん(右)〉
タリバンは国外ではソフトなイメージを振りまいているが、問題点は依然、解消しないままだ。現在のタリバンが第一に願っているのは、国際社会からの承認と海外資産の凍結解除だろう。彼らは今までヘロインの輸出によって兵士への給料や活動資金の大半を補ってきたが、テロリスト流入を恐れた周辺国、ウズベキスタン、タジキスタン、イランなどが国境を厳しく監視するようになり、以前のようにヘロインでお金を稼ぐことが難しなっているのではないだろうか。そのため、資産凍結の解除を急ぎ、兵士の給料を国庫や解除された凍結資産から捻出するつもりなのかもしれない。
西欧諸国は国軍に編入された自爆攻撃旅団についてもきちんと問いただしたのだろうか。承認や凍結解除は、自爆旅団をも認め給料資金を流すことにもなる。
国民抵抗戦線外交部長のアリ・ナザリーは、ニューヨークの「THE SUN」紙のインタビューで「欧米はタリバンに擦り寄りすぎだ」と批判している。(記事を表示)
欧米側から言えば「私たちはタリバンの暴虐について、きちんと正義の実践という立場から言うべきことは言いました」ということなのかも知れないが、アフガニスタンの国民からすれば単なるポーズにしか見えないのではないか。なぜなら、欧米側は、拘束者の解放、パンシール等での住民弾圧、学校の占拠などについて、確認以上の「実行」を迫っていないからだ。
それでは、タリバンも教育の再開等見えるところだけを簡単に直せばいいんだと思ってしまうので、ナザリーも批判したのだと思う。
以前にもお伝えした女性活動家マブーバ・セラジさんの言葉を思い出す。
「国連やEUなど世界の関係諸国に、アフガニスタンに対して行なったことに対して、私は、恥を知れと言いたい。アフガニスタンを掌の上でもてあそんでいるのか。私たちはこれまでずっと話しかけ、要求し、懇願し、やれることはすべて行なったが、誰も注意を払わなかった・・・もう、本当にうんざりだ」。
タリバンが国際会議に出て、変わっていくならそれは素晴らしいことだと思うが、私はあまり信じていない。少し前のものだが、タリバンの本質を現れているインタビュー映像があるので見ていただきたい。この中で、タリバン司令官が「自爆攻撃や路上の爆弾攻撃で死ぬ人は、その人たちの責任だ。通学中の子供が死んでも、それは親のせいだ。彼らは外国の侵略に立ち上がらなかった罪がある。そんな外国人勢力の側についたり、そのそばにいたから悪いのだ」と言っている。こんな考えで自爆攻撃を行い、礼賛しているのだろうかと思うと暗澹たる気持ちになる。(ツイートを表示)
そんな論理は許せないと考える国民抵抗戦線は、北部を中心にタリバンへの戦いを続けている。パンシール州最上流のパリオンは解放された模様で、その下流にあるヘンジや、州の中心の町ロハなどでも激しい戦いがあったようだ。
しかし、損害を被ったタリバン側は、地域の家々を一軒一軒しらみつぶしに捜索し「抵抗戦線と関係のない500人以上を連れ去った」という投稿がツイッターに上がっている。
「国際人権団体による調査を要する恐ろしい拷問、虐殺が行われているが、タリバンの元では調査を実施することもできない」との一連の投稿だ。(ツイートを表示)
首都カブールでは、ナン(パン)の店の前に大勢の人が買う順番を待っている。
〈ツイッターより〉
AFP 通信のカメラマンが撮影した写真には、すぐには言葉が出てこない。
「泣いている乳児をあやしながら、通勤で道行く人に施しを乞う少女。」と
書かれていた。(このニュース記事を表示)
非人道的な抑圧・蛮行は続き、さらに経済も大変な状況。主食のナンを買うにもこの有り様だが、小さな子供が食べるものもなく物乞いをしなければならないような食糧危機の中で厳寒の冬を過ごしている。
タリバンが国際会議でいくら良いことを言っても、国内はこの状況が続いているのだ。
それでも、人の温もりがあれば、辛い環境の子供たちにも笑顔が浮かぶと、共同通信の記事が教えてくれる。路上で働く子どもたちに防寒具を配るNGO団体「アフガンの子どもに笑顔を」の活動と子どもたちの様子を紹介する記事だ。(記事を表示)
北部のバダフシャンでも、一人の少女によって闇夜の中に小さな明かりが灯されている。「少女が近所の子どもを集めて数学とペルシャ語を教えている」という投稿をツイッターで見つけた。(ツイートを表示)
各地に、未来の希望を持ち、学ぶことへの情熱を失わない子どもたちがいる。タリバン報道官ムジャヒドはノルウェーから帰国後、「我々の将来は教育にかかっている」と語っているが、その真意は「教育を再開すれば、国家承認とか資産凍結解除があるだろう」ということだろう。
しかし、本当の未来とはそうした打算ではなく「アフガニスタンが世界の国々と仲良く、お互いに尊重しあって生きることができる世界」につながるべきものだと私は思う。
アフガニスタンで、同じように未来を信じて生きている人たちと、これからもつながっていきたいと私は願っている。
2022年1月31日 長倉洋海
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