「今日のメッセージ 2021/12/23」
ロイター通信が「独占スクープ」と銘打って報じた記事を読んで絶句した。国連が自分たちのアフガニスタン支援団の安全確保のために、タリバンに警備等の経費や給与などで600万ドル(約6億8千万円)を払おうとしているというのだ。アフガニスタンで国連職員の安全を脅かすとしたら誰なのか。凶悪な強盗団が跋扈しているわけでもなく、反政府集団が襲ってくるわけでもない。いま、アフガニスタンで最も危険なのは、下部への統制が効いていないタリバンそのものだ。次に安全を脅かしているとしたらタリバンからの分派組織ともいえるISホラサンだろうが、勢力は大きくない。政府を自認し、日本を含む各国大使館を再開してほしいと言うなら、当然タリバンが警備を行うべきだし、それが難しいなら国連軍の派遣や独自に警備員を雇うなどの方法をとるべきだ。
国連の、過激集団から身を守るためにもう一つの暴力集団にお金で守ってもらう、という発想が理解できない。タリバンは人権を抑圧し、女性の就業や通学を認めず、各地で裁判無しに勝手に処刑を行うなど「本来のイスラム」からも外れた集団だ。アフガニスタンの暫定政権は世界の国家から認められていない「武装集団」タリバンでしかなく、食糧支援や経済支援がままならなくなっている現実に、国連はどう対応しようとしているのか。職員の安全を確保できればそれでよしとするのだろうか。(→ロイター記事を見る)
それでも迫り来る人道危機。
★「国連児童基金(UNICEF)によると、アフガニスタンの子供たちは永続的かつますます病気にかかりやすく、早急な措置を講じなければ、多くの子供たちが春まで生き残れないとのことです。」と報じるツイート(↓クリックでツイート表示)。
米国も方針転換したようだ。
★タリバンとの一部取引を認めることとの報道。タリバンの、国民を人質にした戦略に譲歩した形だ。(ロイターニュースより)
パキスタンのイスラマバードでは、アフガン問題のためにOIC(イスラム協力機構)の臨時会議が緊急開催された。(時事ドットコムニュースより)
食糧支援のために基金を作ると決議。
また、女性への抑圧については、事務局長に女性の権利や教育の平等について働きかけるためのイスラム法学者の派遣を要請した。食糧支援基金については、あまりにも遅きに失した感は拭えないし、イスラム法学者ではなく調査団を派遣するくらいの強い態度を見せて欲しかった。タリバンによってイスラム全体の名誉が著しく貶められていることは明らかなのだから。
★会議ではタリバン暫定政権のムッタキ外相も出席し、米国による経済制裁が国民生活に打撃を与えているとして「明確な人権侵害だ」と批判したという。(毎日新聞有料記事)
この会議では、パキスタンのイムラン・カーン首相が「教育も満足に行うことができない部族国家アフガニスタンを私たちが代弁する」という趣旨の発言をした。それに、タリバンを「兄弟」と呼ぶ元大統領のカルザイ氏も、NRF(国民抵抗戦線)のアリ・ナザリー広報官も、元国家和解高等評議会議長 Dr.アブドラーも反発。「歴史を見ればわかる通り、パキスタンこそ私たちの文化の恩恵を受けて来たはずなのに、その物言いは何なのか」と怒りの声を上げている。
タリバンを育て、国民抵抗戦線との戦いが続くパンシール州に軍事顧問を駐在させて軍事介入しているパキスタン。タリバンは、多くの幹部に支援を与えてくれている恩義に報いるためなのか、捕獲した米軍の軍事車両などをパキスタンに移送したりしているが、国境ではタリバン兵が有刺鉄線を張り巡らせるなど緊張が生まれている。
★ タリバン兵がアフガニスタンとパキスタンの国境に沿って有刺鉄線を集めていることを示す写真の投稿。(↓クリックでツイート表示)
しかし一方で、国境を接するパクティア州の知事がパキスタンに向けて支援への感謝を拡声器で伝えたりしている。このちぐはぐさも、タリバン内部にパキスタンへの温度差が存在する証左ではないだろうか。
パキスタンの優れたジャーナリストで名著とも言える『タリバン』を記したアハメド・ラシッドは、その中で「タリバンはパキスタンにとっても両刃の剣となる」と警鐘を鳴らしていた。タリバンの資金源である麻薬生産でパキスタンでも多くの人が中毒となり、国情も落ち着かない。国内のイスラム過激派「パキスタン・タリバン運動」(マララさんを狙撃したことで悪名を馳せた)と政府軍との戦いが続いている。(時事ドットコムニュースより)
アフガニスタンでのタリバンの首都制圧を認めるということは、パキスタンにおいてイスラム過激派が首都イスラマバードを武力制圧しても許されるということになる。もし、そうなれば長い歴史を持つパキスタンの議会民主主義も潰えてしまうだろう。パキスタンは、中央アジアやチェチェン、ウイグル自治区への革命輸出を進めるタリバンに同調することで、自らの首を絞めることになるはずだ。
日本は昨日冬至だったが、アフガニスタン国内では、一昨日冬至を祝う伝統的な儀式「ヤルダー・ナイト」が行われ、それをタリバンへの抗議の場と転じた女性たちの姿がツイッターに投稿されている。こうした美しい伝統をもタリバンは認めず、アフガニスタンを「黒」の単一的な色に染め上げようとしていることへの静かな怒りが伝わって来る。
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★タリバンへの抗議を華麗な詩にして歌う女性たち(↓クリックでツイートを表示)
彼女たちの姿に触れ、私も即興の詩で応えたい。
デモが禁じられるなら、
歌に思いを込めよう。
その歌をSNSで世界に伝えよう。
それもできなくなったら、
心の中に抗議の灯をともそう。
世界に届けと念じながら。
一陽来復。今日からは日一日と陽が差す時間が長くなっていく・・・。
12月23日 長倉洋海
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