「今日のメッセージ 2021/12/13」
いま、アフガニスタンの人々はどんな思いで、この冬を過ごしているのだろうか。カブールは海抜1800メートルを超え、盆地のため冬の寒さは厳しい。その北に位置するパンシール渓谷はさらに厳しく降雪も多い。パンシールにある「山の学校」は雪で通学が難しく、長い冬休みに入る。学校があるポーランデに通っていた3月末、道路脇には3メートル近くほどの雪の壁ができていた。
冬の間は牛や羊の家畜の放牧ができないので、1階に入れている家畜に飼い葉を与え、たまに日光浴させるぐらいであとはのんびりとした時間を過ごす。家族でコタツに入り、お茶を飲む。お茶受けは夏に作った干し杏や干しぶどう、クルミだ。窓辺から冬の淡い日光が差し込む中で、幼い子どもたちが絨毯の上を駆けまわる。その様子を見る父と母、おじいちゃんとおばあちゃんもいる。
そんな光景を、ツイッターに投稿された一枚の写真から思い出した。それは平和だった時代、慎ましい生活だがささやかな幸せが人々を包み込んでいた日の朝食の写真だ。
手前にはコタキ(チーズを挟んだ揚げパン)、左上にはバター(固形と溶けたもの)右端にはトマトとゆで卵のサラダ、ガラス製カップにはミルクティがたっぷりと入っている。北部パンシールの伝統的な朝食だ。
アフガン人はこの朝食に幸せを感じていた。私もこんな朝食が出されるととても嬉しく幸せな気持ちになった。普段はナンと紅茶だけの質素な朝食が多いから、この朝食はちょっと贅沢な方だろう。
今のアフガニスタンで満足な朝食を取れる人は少ないだろうと想像する。しかし、英国デイリーメール紙が伝えたニュースを見て怒りが湧いた。困窮者に配布予定だった豪州からの食糧支援をタリバンが奪ったというのだ。
現在の状況下ではタリバン兵とて満足な食料配給を受けていないに違いない。しかし、しかし、だ。権力を握った集団が銃の力で困窮者への食料を奪うことが許されていいはずがない。他にもツイッター投稿に、タリバンだと名指しされた屈強な男性が支援物資をもらっている写真もあった。これらが真実なら、民よりも自分たちの空腹を第一に考える輩に国を統治する資格があるはずもない。
一方で、コロナでメッカ巡礼に行くことができなかった母子が、そのために蓄えていたお金で食料を買い人々に配った、という投稿記事を見つけ、少し救われた気持ちになった。
アフガニスタンの民の苦境に、何ら効果的な手を打てないタリバンが最近打ち出した布告に唖然とした。人材の国外脱出を食い止めるよう、関係当局と法学者に「脱出を望む人々と会って問題を聞き、解決策を見つけるように」と命じたというのだ(イスラマバード発共同)。国外脱出が始まって4ヶ月。何を今さら、とため息が出た。
(「国外脱出食い止めでタリバン命令 当局者や学者に」 - 共同ニュース)
どうして人々が国外に逃れようとするのか。それは現在のアフガニスタンに希望がないからだ。いや、タリバン統治下では未来への光が見えないからだ。タリバンの存在自体が人々の希望を奪っているということに、本人たちが気づいていないことが悲劇なのではないだろうか。
無策により加速される食料危機に、送金の禁止を打ち出していた米国が個人送金を認めるという。
(「米 アフガニスタンへ個人送金認める指針 深刻な食料不足などで」 NHK Web)
また、今年8月から凍結されていた世界銀行のアフガニスタン復興信託基金から2億8000万ドルを、国連世界食糧計画(WFP)と国連児童基金(UNICEF、ユニセフ)に移管することを関係各国など出資当事者が合意した。
(「アフガニスタンへの支援解禁、人道危機対応で=世銀」 - BBC News)
しかし、当の暫定政権は。
★自分たちの問題点を顧みることなく、タリバンはカブールの街頭で懲罰の鞭打ちを続けている。(ツイート)
★マザリシャリフの学校で生徒を殴りつける姿も投稿された。(ツイート)
★学校に行くことができず悲観、落胆する少女たちをBBCがレポートしている。
(記事へのリンク)
かつて国会議員を務めていた女性たちの多くが国外に逃れた。彼女たちの苦悩と決断を伝えるBBCのレポートもあった。
(「アフガニスタンの女性議員、今はどこに? 権利のためになお闘う」 BBC News)
今日も女性たちが自分たちの権利を求めて声を上げている。
「国家としての“死”を訴え、世界にこの犯罪を止めるように」と訴える女性たち(ツイッターから)
世界に自分たちの声が届いて欲しいと各国の国旗を掲げる。
厳しい山岳地帯で、自由を求め戦いを続ける国民抵抗戦線(NRF)の戦士たち。彼らも、満足な食料も武器弾薬もないはずだが、歌で自分たちを励ましている。(ツイート)
人々の必死な声を私たちは聞き漏らしてはいけない。耳を傾けなければいけない。そして、忘れてはいけない。人々が世界に届けと願い続けるものがある限り。
12月13日 長倉洋海
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