アフガン情勢に関するメッセージ
2021年12月4日


「今日のメッセージ 2021/12/4」

 最近、奇妙な言説を目にした。その主張は、見方によってはタリバンの罪を減じ擁護するかのようなものだ。報道記者の方のツイートで、国際人権組織の「タリバンによって、100名以上の旧政権関係者が殺された」という告発のニュースに関連し、「北部同盟も米軍もタリバン兵を激しく拷問し殺害したことを忘れてはならない」と追記している。しかし、過去に戦闘員間でそうした事実があったとして、そのことと、現在、タリバンが「恩赦を与える」と約束しながら実際には無抵抗の非戦闘員である一般市民を殺していることを、「大問題」としながらも、並べて論じることはできないだろう。
拷問や虐殺は、過去も今も、許されないことであるのは当然だ。過去の過ちは、今ならばますます許されることではないはずだ。ましてや、タリバンは敵兵ではなく守るべき自国の民にそれを行なっているのだ。


記者のツイート

 
 私が長く取材した抵抗運動の指導者マスードは、1996年、自分たちが首都でタリバンと戦えば、首都がますます破壊され人々が巻き込まれることを危惧し、首都から撤退した。反タリバン連合である北部同盟の他の主だった指導者達は国外に逃れ、マスードだけが故郷パンシールに立て篭り抵抗を続けた。彼は前社会主義政権の残したスカッドミサイルを持っていたが、それを首都に撃ち込むことはなかった。首都を制圧してタリバンが5年間、首都の平和を維持できたのは、マスードが権力奪取を狙っての首都攻撃をしなかったからだともいえる。
 一方のタリバンは、首都に迫った95年、カブール市内に無差別ロケット弾を放った。私が市場にいた時、すぐそばにいたタバコ売りの少年2人が落ちてきたロケット弾で死んだ。2001年に首都から敗走して20年が経つが、タリバンは、現在に至るまでずっと自爆テロと路肩爆弾を多用してきた。国民を不安に陥れ、政府への信頼を奪うためだ。
タリバンがテロや銃による威圧をやめない限り、国民は彼らを信用することはできないだろう。

 マスードの息子アフマドは、現在もパンシールでタリバンに対しゲリラ戦を展開しているが、父親と同じく、政権の不安定化を狙った首都カブールへの攻撃やテロを行うことはしていない。
それをいま頻繁に行なっているのは、タリバンの分派ともいえるIS-Kだ。このメッセージを見てくださっている方々は、タリバン内のハッカニネットワークとIS-Kの関係もご存知だろう。
アフマドをリーダーとする国民抵抗戦線(NRF)は、全ての勢力を交えた包括政権を求めており、そのためならいつでも対話に応じると声明で述べているが、タリバンは国民の声を聞く姿勢も、各勢力を交えた政権樹立への話し合いに応じる気配も微塵も見せていない。

 それでも国際承認を求めるタリバンに、世界各国も応じていない。国連にも独自の大使を送り込もうとしているが、当面拒否された。

★国連がタリバンの国連大使を当面認めないと報じた読売新聞(記事へのリンクはここ


アラブ諸国、中国、パキスタンを含め、まだ一カ国も国家承認をしないことに焦りを感じたのか、最近、教育について以前よりもまともな姿勢を見せ始めた。まだ一部でしかないが、中高校に女子が通い始めたという報道もある。


この記事へのリンクはここ

また、タリバンの最高指導者アクンザダ師は3日、女性を意思に反し結婚させないことなどを国民に指示する声明を出した。

この記事へのリンクはここ

しかし、この声明でも教育、仕事、政治参加に対する女性の権利については何も述べていないと、アフガンインターナショナルニュースが伝えている。

 現在、世界銀行には凍結されているアフガニスタン復興信託資金があり、それを渡すようにタリバンは要求しているが、世銀理事会は人道危機に対応するため、その資金を国連の支援機関に移管する計画を承認したようだ。

この記事へのリンクはここ)

 一方のアフガニスタン国内では未だ暴力と蛮行が続いている。
★タリバンによる見せしめ行為を伝えるツイート。クレーンで死体を吊るす。
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※厳しい写真です。閲覧にご注意ください。※

★あらゆる場所で拷問が行われている。※閲覧にご注意ください※
このツイートを表示する)

 暴力やリンチが止まないタリバンだが、彼らの味方が現れた。それはカルザイ元大統領。ガニ前大統領の前の大統領だ。BBCのインタビューで、「私はタリバンを兄弟と呼ぶ。国内の全ての民族が兄弟だ。国外に逃れた人たちも戻って、一緒に国家再建に尽くそう。タリバンはこの国の政府だ」と述べた。(この記事を読む

★インタビューをしたBBC記者のツイート(Yalda Hakim氏のツイート

 私は彼の言説に驚きを禁じ得ない。「皆兄弟だ。国外に逃れた人も戻って」とアピールする前に、まずタリバンに「兄弟よ。暴力での支配をやめ、武器を置こう。そして話し合おう。そうすれば国民も戻ってくるし再建もできるはずだ」と言うべきではないか。残念ながら彼がそう説得を試みた報道に触れていない。また、「タリバンを政府として認めるべきだ」と述べるなら、その前に閣内にいる国際手配のテロリストを排し、兵士たちのリンチのような暴力を即刻辞めさせる政府にするべきだ、と助言すべきではないか。
 冒頭でも触れた国際人権団体の報告で「前政府関係者が殺害されている」ということは、旧カルザイ政権から務めていた人たちも多いのではないだろうか。自分のもとで働いていた職員を、彼は救おうとしたのだろうか。ガニ前大統領が政権を投げ出し、国外に大量のドルを持って逃れたことはよく知られているが、それはカルザイ政権から引き続いた汚職体質の象徴ではないのか。カルザイ自身も弟が経営するゼネコンとの不透明な関わりが指摘されていた。そうした腐敗がガニに引き継がれたと私は思っている。
 確かにハザラもタジクもトルクメンもウズベクも全て等しくアフガニスタン国民のはずだが、パシュトゥーン人優位の現状の中で土地を奪われ、家を破壊されている彼らに、「兄弟たちよ」とパシュトゥーン人であるカルザイは真摯に呼びかけていると言えるのだろうか。
 アフガニスタンを建国したのはパシュトゥーン人だったが、私はこの国は全ての民族、国民のものだと言いたい。だからこそ、数の優位さなどで傲慢になるのではなく、女性、少数派のシーア派、国民抵抗戦線、全ての人の声を聞く政府ができて欲しいと強く願っている。

  2021年12月4日 長倉洋海


**先ほど、国民抵抗戦線(NRF)のプレスリリースが発表された。原文は写真を参照とし、内容の日本語訳を掲載したい。**

**以下、和訳**
NRF(国民抵抗戦線)プレスリリース(声明)  2021年12月4日

<アフガニスタンに関するOIC閣僚会議を歓迎>

アフガニスタン抵抗戦線は、OIC(イスラム協力機構)首脳会議の議長国であるサウジアラビア王国が、アフガニスタンの状況を議論し、適切な人道的対応をするために、OIC外相理事会の臨時会合を招集したことを歓迎し、感謝します。
アフガニスタンはOICの創立メンバーでありますが、慢性的な紛争、干ばつ、新型コロナパンデミックの結果、最悪の人道的大惨事に見舞われおり、イスラムの連帯と全てのOICメンバーによるイスラム的共同アクションを緊急に必要としています。
N R Fは、このような重要な会議は、アフガニスタンの悲劇と人々の苦しみと関わろうとしないパキスタンではない場所で行われるべきだと考えています。また、このイベントとその人道的対応が、いかなる国や国際機関からも認められていない残忍なタリバン政権を支援したり、正当化するものではないことも重要です。
NRFはアフガニスタンの人々の苦しみを和らげるために、国際社会と協力・調整する用意があります。


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