アフガン情勢に関するメッセージ
2021年11月26日


「今日のメッセージ 2021/11/26」

 前回のメッセージを書いた後に、イスタンブール共同発のこんな記事を見つけた。ガニが逃げ出したことがタリバンのカブール制圧につながったと前にも触れたが、この記事はそのことを確信させてくれた。

実権掌握前に権力分配を合意 タリバン、米国と非公式に (Yahoo - 共同通信)


駐日大使のアブダリ大使も「市民を残して大統領が去ったことは正当化できることではない。残って国民を団結させて欲しかった」と語っている。駐日大使館の職員に本国からの給与は届いていないが、大使は「日本にいるアフガン人に奉仕するのが使命ですから」と懸命に踏みとどまっている。

「大使館はタリバン政権の出先機関ではない」本国から送金なし…スタッフ7割削減…それでも無給で働くアフガン駐日大使の思い (TBS NEWS 報道特集)
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 話は先ほどの共同の記事に戻るが、権力を分配した政権を作ることを合意していたということが本当なら、タリバンが首都に入った後にも、米国はどうしてその履行をタリバンに迫らなかったのだろうか。ガニの逃亡と並んで、米国の逃げ腰が今の事態を招いた大きな要因の1つだろう。

  日本でたまに目にする理解不能な論調が、昨日の毎日新聞のインタビュー記事にもあった。「タリバンだけが悪ではない」「彼らの価値観に寄り添って」というリードの特集記事だ。(この後の写真参照)
「タリバン以前から家父長制が女性を苦しめてきた」と述べていて、それは事実だが、今のアフガニスタンで起きている問題の本質を逸らしている。
記事は、タリバンが受け入れられたのは、古くからの地域の慣習があるからだとも書いているが、そうした擁護は全く的外れだ。私が最初に訪れた1975年にも既に、アフガニスタンには封建的ともいえる古くからの因習があった。しかし、ソ連軍との戦いやタリバンの弾圧の中で、少しずつだが変わってきた。特に2001年、タリバン政権が崩壊した後、女性が大臣や検事になり、ジャーナリストになって、自らの声を上げ始めた。教育の機会を得て、自由を学び、仕事を得ることで自立を手にしたのだ。昔から続く家庭内暴力や児童婚などの悪習は簡単にはなくならないが、少しずつ確実に変わり出していた。現タリバンはそうした女性への教育を認めていないが、毎日新聞の記事には「女性を大切に思っていることがタリバンの思想の根底にある」とも述べていて言葉を失った。
女性を大切に思うなら、女性から携帯や車の免許を取り上げ、妊娠中の元婦人警官の顔をグシャグシャにして家族の前で殺したり(ゴール州)、ベールを羽織っていないと殺したり(タハール州)、女性の目をえぐる(ガズニ州)ということがあり得るだろうか。
彼らは預言者ムハンマドの最初の妻ハディージャのことを知っているのだろうか。裕福な商人だった彼女が品物を遠くまできちんと送り届けたムハンマドを信用し、迫害の対象だった預言者を守り支えた。25歳の貧しい青年だったムハンマドがイスラム教を広めることができたのも、彼女の存在が大きかった。
きっと、ハディージャがイスラム教最初の信者だったことも知らないのだろうと思う。知っていたなら、現在のタリバンの女性への悪行はないはずだ。

 毎日新聞の記事は「私たちに突きつけられた重い課題だ」と結んでいるが、現地の悪習を変えていくのは私たちでなく、アフガニスタンの女性たちだ。
彼女たちは外の人間に『古くからの因習を変えてくれ』と言っているのではなく、暴力と不正義を行うタリバンを承認せず、就業と教育の機会を取り戻したいと願っているだけなのだ。

 また、毎日の記事では一言も触れられていないが、アフガン全土で唯一タリバンに抵抗を続けているパンシール州では、タリバンが全ての学校を宿舎にしていて、「出ていって欲しかったら、代わりの住居を寄越せ」と言っていると聞いた。住民が逃げ出した家屋はパキスタン・タリバンやアラブの過激派が不法占拠して住んでいるともいう。各地でのタジク人やハザラ人に対する暴力や殺人も収まっていない。こうした現実も、彼らの価値観だから「寄り添って」とでもいうのだろうか。現実を知らない記者が、現地にいた日本人の言葉だからと鵜呑みにしてできた記事に思えてならない。


              (毎日新聞の有料記事を読める方はこちらから

 マスードは「地域に残る慣習は本来のイスラムとは違います」と話していた。彼が教育を懸命に進めたのも、教育がそうした悪習を変えていく力になると知っていたからだと思う。

タリバン政権下で学校に行く少女たち (BBCニュース)

 ツイッターで「今日は女性に対する暴力撤廃の国際デーです。 『21年前、マスードが、女性の根源的(必要不可欠な)権利宣言に署名しました』という投稿を見つけた。彼は「時代に合わせたイスラムの解釈が必要だ」とも話していた。

 寛容と平和を求める本来のイスラム思想こそが、いま最も求められている。イスラム教の開祖、預言者ムハンマドの言行録には「学者のインクは殉教者の血より重い」とあるという。敵に対するジハード(聖戦)ではなく、自分自身の愚かさや弱さと戦うジハードにこそ一番の価値がある、との言葉も。
本来のイスラムの精神から逸脱したタリバンに、私はどんな弁護の言葉も与えるつもりはない。

  2021年11月26日  長倉洋海


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