アフガン情勢に関するメッセージ
2021年11月4日


「今日のメッセージ 2021/11/4」

 タリバンの襲撃と殺人の映像が、今日もツイッターに投稿されている。
最初のものは大手メディアでも報じられているニュース。首都カブールの陸軍病院が襲撃され、タリバンの幹部が死亡。巻き込まれた患者も合わせると35人が亡くなった。この他にも残酷で言葉を失うような事件が、連日、アフガニスタン各所で起きている。女性が鞭打ちされるシーン、捕虜が虐待される映像、市内で対立勢力の車を襲撃す動画・・・。これらにこそ、アフガニスタンの現在が写し出されている。

陸軍病院をISIホラサンが襲撃

女性へのムチ打ち

路上での襲撃

女性の痛ましい写真も投稿されていた。

暴力事件が溢れるツイッターに、目を引く投稿記事があった。「南部のヘルマンド州やカンダハール州で、どうして若者がタリバンに加わり、上層部の許可もなく勝手に殺人を冒してしまうのか」というもので、タリバンに兵士として加わった若者の映像がアップされ、「教育を受けていないせいだ」と記しているものだ(そのツイート)。
(訳文)
「ヘルマンド、カンダハール、ヴァルダクの若者のほとんどがタリバンに加わり、指導者に質問せずに罪のない人々を殺し始める理由の1つは、教育の欠如です。」

私もそう思う。多くの若者たちが戦争やタリバンの支配下で教育を受けられなかったのは事実だから。ただ、それだけでなく、長老や共同体からの教えや教訓が継承されたなくなったことも大きな原因の一つではないだろうか。2016年、東京都国立博物館資料館で見た「黄金のアフガニスタン」展では、北部アイ・ハヌムで発見された銘文付陶器(前147年)の言葉が紹介されていた。

『幼き者は行儀良き者となり、
青年とならば自制する者となり、
壮年となれば正義知る者となり、
老年となればよき助言者となれ。
されば悔いなき死を得ん』

近代的な教育だけでなく祖先から受け継がれてきた伝承や知恵を学ぶこと、実はそうしたものが人間としての芯を形作っていくのではないだろうか。
古来からの文化財を破壊し何の痛痒も感じないタリバン兵士。彼らがアフガニスタンにもたらしているのは教育の破壊と絶望でしかない。

★国立博物館の「黄金のアフガニスタン展」のチラシ。(タリバンの略奪から)命がけで守られた秘宝”と銘打たれ、世界10ヶ国で公開された。

 私が長く取材してきた抵抗運動の指導者マスード。彼が「夫を殺されたので、仇を取るための銃をくれ」と訴えてきた母と息子に、「報復からは何も生まれない。憎悪の応酬になるだけだ。それよりも、その子を学校にやりなさい」と懸命に説得していた姿が忘れられない。
マスードは、戦いの中でもたくさんの学校を作った。「アフガニスタンを再建するのは子どもたちだ」と信じていたからだ。現在のアフガニスタンでタリバンがもたらしている恐怖と飢餓から、どんな未来が生まれるというのだろうか。

ハザラ人の村のモスクを燃やしたタリバン。長老が「ここにもコーランがあったのに」と嘆く

  それぞれの国で、文化を守ってきた人々がいるから、私たちは2千年前の先人の考えや生き方に触れることができる。そして、自分たちの在りようを見つめることができる。「自分たちがどこから来て、どこへいくのか」を問うことのない人間は根なし草のようなもので、早晩、枯れてしまうに違いないと私は思う。


      11月4日   長倉洋海


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