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長倉洋海より

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長倉洋海よりアフガニスタン情勢に関するメッセージ 2024.4.29

 2024年4月11日、イスラムの断食月(ラマダン)が終わり、世界のイスラム教徒がそれぞれの地でイード(断食明けの祭り)を祝う映像がテレビニュースで流されていた。女性が教育と自由を手にできないアフガニスタンでも、爆撃で大勢の人が亡くなり続けているパレスチナでも、人々は断食が明けたことを神に感謝しただろう。断食は、イスラム教徒にとって1日5回の礼拝、喜捨(ザカート)、アラーへの信仰の告白、メッカへの巡礼(ハッジ)と並ぶイスラム教徒の五行の一つ。必ず守らなければならないもので、日の出から日没まで一切の食べ物、水も飲んではいけないという行だ。(妊婦や病人、旅行者、聖戦の戦士は後日に延ばすことができる。)
 日が沈むと、床に敷いたシートの上に、果物や清涼飲料水、肉、炊き込みご飯などを並べ、日没の知らせがラジオから流されると皆一斉に食べ始める。侵攻したソ連軍との戦いの最中でも、イスラム戦士たちは質素な食べ物を分かち合いながら、神への感謝の念を浮かべていた。同じ苦行を共に乗り越えたという事実が連帯感につながる。そんな満ち足りた表情に私も敬虔で清々しい思いにとらわれた。

<2016年、毎年の訪問に感謝して、ポーランデ峡谷の一家が私にご馳走を振る舞ってくれた。サラダ、ほうれん草の煮込みとチキン(手前右)、炊き込みご飯、ヨーグルト、松の実入りの甘いデザートなどが並ぶ。一日の断食明けの食事(イフタール)のように豪華だった。撮影:長倉洋海>

 現在のアフガニスタンでは食料が国民に十分に行き渡らず、通常の食べ物にも事欠く中で、山の学校の子どもたちや山中で抵抗を続ける国民抵抗戦線の兵士たちはどんなイフタールを口にすることができたのだろうか、と世界各地でイードのご馳走を食べる人の姿を見ながら思った。しかし、どんな過酷な状況でも、イスラムの行を行ない抜くことで、人々は自らの精神を満たしているに違いない。「富やモノではなく、敬虔な信仰こそが私たちの支えです」と話したマスードの言葉が蘇る。

<ソ連軍と戦っていた1980年代。仲間たちとパラウ(炊き込みご飯)の夕食をとるマスード。手前はメロン。撮影:長倉洋海>
<カブールの市場で、イフタールの食材を買う人々。『女性の姿はなく男ばかり』と現地のニュースは伝えた。女性は家に閉じ込められたままだ。Xより>

 国民の8割が食糧不足に喘いでいるというアフガニスタン、タリバンには貧者や孤児への喜捨(ザカート)の精神が欠けているようだ。人々の痛みを自分のことと感じられない者に国を統治する資格も権利もない、と私は思う。

 この国にあった美しいイスラム精神はどこへいってしまったのだろうか。しかし、それはアフガニスタンだけの話ではない。私には国民の苦境に平気なタリバンとパレスチナの人を爆撃し殺害するイスラエルの姿が重なって見える。人間というものはかくも残酷に、そして無慈悲になれるものだろうか。人間を信じたいと思う気持ちはあるが、人間は暗愚の側面を晒し続けている。産業革命以来の技術の進歩は「人間の欲望」というパンドラの箱を開けてしまったかのようだ。医学、宇宙開発、AIとすべての事象が「人間」を排した効率化、言い換えれば利益の追及に突き進んでいる。そんな時代の風潮に気持ちが落ち込んだ時、ふっと思い出すのは、指導者マスードの言葉と「山の学校」の子どもたちの姿だ。
 子どもたちの目に映っていたものに思いを馳せる。山、川、畑、アンズ、クルミやブドウ、そして信仰と祈り。全てが人の生活になくてはならないもの。それらに囲まれ、心が満ちていたから、映画「鉛筆と銃」は見た人の心に何かを訴えてくるのではないだろうか。それは言葉にすると「精神の在りどころ」そして、「魂の置き場所」というものなのかもしれない。それはいまの時代に一番、欠けているもののような気がする。

<夜の礼拝をするマスードと戦士たち(1983年)撮影:長倉洋海>

 映画「鉛筆と銃」はいまも全国を巡回中だが、それを見た人たちから多くの感想が寄せられている。島根の若者は「マスードのことを知りませんでした。でも、世界を新たに見直す眸、希望を育てる種が心に植えられたように思います」と書き、「この映画を自分のところでも是非、上映したい」と手紙をくれた兵庫の女性は「宝石のように輝くたくさんの言葉がありました」と手紙に綴った。

 「映画よ、種となれ。芽を出し、新たな種を育み、世界に広がってくれ」と願い、いつか、山の学校の子どもたちに、この映画が見てもらえる日が来ることを心から願っています。

                          2024年4月29日  長倉洋海

<ラマダン明けのイードを祝って踊るウズベキタン・ブハラのタジクの女性たち。Xより>

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