長倉洋海よりアフガニスタン情勢に関するメッセージ 23.07.12
タリバンの最高指導者アクンザタ師が「イスラムに基づく統治でも、女性は『自由で尊厳のある人間』としても地位を回復し、『伝統的な抑圧』から解放される」と述べた、とAFP通信が伝えた。同師の死亡説も根強いことから、この声明が本当に同氏のものか疑わしいが、いずれにしてもタリバン指導部の内部で「国際世論を考えてこうした方がいい」と判断があったのは間違いないだろう。
しかし、その一方で、タリバンは国民、特に女性を締め付ける政策を次々に打ち出している。中東の衛星テレビ局ALJAZEERAは「タリバンが、女性向け美容院を禁止、女性を公の場からさらに締め出すための最新の規制により、サロンに対し、1ヶ月以内の閉鎖を求める命令を出した」と伝えている。
これに対し、美容院の女性たちが「仕事を創出せず、私たちの仕事を奪うことは許せない」と強い抗議の声を上げている。
元ウォールストリートジャーナル誌記者でジャーナリストのハビブ・ハーンは、「タリバン当局者のアマン師は、クンドゥズ州の既婚女性に強制結婚を強要した。女性の合法的な夫は告訴状を提出したが、タリバンは夫に黙秘を強要した」とツイッターに投稿、「これは特別なケースではなく、タリバン当局者の間では強制結婚がトレンドとなっている」とも伝えている。
また、Panjshir Provinceは、Kabulnow.comが「タリバンのラブマン州知事ザヌール・アビディン(60歳)が3万ドルと土地を結納金として支払い、16歳の少女を娶った。彼女の両親には家を贈呈し、兄弟には麻薬の密輸で得たお金を贈呈することも約束した」と報道したことを伝えている。
タリバンの元報道官でハッカニグループのカリ・サイード・コスティにレイプされ、結婚を強要された、口を封じるために投獄され拷問されたという女性の証言もある。
こうした女性への抑圧と迫害を最高指導者アクンザダ師はなんと説明するのだろうか。タリバン内部では主導権争いが激しく、また麻薬の利権をめぐっての抗争も伝えられる。
そのタリバンが唱えるのが「聖戦(ジハード)」だ。全国の学校は普通教育から「ジハード学校」に改められ、若者たちに「聖戦思想」を吹き込んでいる。タリバンはタジク人やハザラ人を弾圧し、それも聖戦だと強弁しているが、イスラムでは本来、「自分の内の欲望や愚かさと闘うのが最大のジハード」と教える。自分と戦うことなく欲に走る姿は本来のイスラムから程遠い。
このようなタリバンの統治が固定化することに、多くの国民が苛立ち、落胆している。そして、それでも未来に希望を託し、こうした現状を変革しようとする人たちがいる。だが、現時点では全国的な展開を見せていない。反タリバン運動の一本化を妨げているのも、やはり内部での権力抗争、主導権争いだ。
世界からの支援もない中で、国民のためにと闘う人たちは、故アフマッド・シャー・マスードの言葉を噛み締め闘いを続ける。その一人である国民抵抗戦線の外交部長アリ・ナザリーが、「独立、自由、統一、民主的なアフガニスタン。そこでは、政府の正統性は国民の意志によって決まる」と話すマスードの映像をツイッターに投稿していた。それは自らを励ますものであり、人々を鼓舞するものだからであろう。
マスードが一番心を砕いたのは、ソ連軍に対する統一戦線作りだった。そのくらい、〝人々をまとめ上げる”ということは難しかったと、当時を思い起こしながら思う。「マスードのような人物が現れてくれたら」と思うことがあるが、人に期待すべきではない。闘いは自らが行うべきものであるからだ。
聖コーランの29章6節にこんな言葉がある。
『奮闘努力する者は、
己の魂のために努力するのだ。
なぜなら、アッラーはすべての創造物からの何をも必要とせぬ』
マスードは「自分のために闘うことは、ひいては国民のためになる。そして、何より神が喜んでくれる」と話していた。私もそうありたいと心から願っている。それが心の中にマスードが生きている証となるから。
晴れの日が続いた6月の釧路。実家の庭に伸びたフキを見て、山の学校の子どもたちが頭にソーイ(山菜)の葉を頭に乗せていた姿を撮ったことを思い出した。「また、ポーランデに行って、子どもたちを撮るぞ」とそんな思いでフキを持ってみた。
2023年7月12日 長倉洋海