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長倉洋海より

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長倉洋海よりアフガニスタン情勢に関するメッセージ 23.06.25

 採れたばかりのトゥート(桑の実)を清らかな水で洗う映像をPanjshir Provinceが投稿していた。ポーランデ川の清流で冷やしたトゥートを、みんなで車座になって食べたことを思い出した。北海道の実家の庭に山葡萄の実がなったのを見て、やはり小さな実をつけ始めた頃のパンシールの葡萄の記憶が蘇ってきた。あの時、葡萄やトゥートの木の下で日差しを避け憩っていた人々は、今どこにいるのだろうと思うと胸が締め付けられた。
 
そうした懐かしい故郷から切り離され、パンシールの人々は、カブールなどの離れた場所で望郷の思いで胸を焦がしているに違いない。一刻も早く帰りたい。でも、帰れない。胸は千々に切り裂かれる思いではないだろうか。

〈実家で、実をつけ始めた山葡萄。撮影:長倉洋海〉

 しかし、この間にも、タリバンはパンシールやアンダローブ、バグラン、タハール、バダフシャンなど、抵抗の強い北部の諸州に万を超える軍を送り込み、人々の家を焼き、住民を追い出し、パシュトゥーン人の入植者に土地を分け与えてきた。最近はパキスタン人やTTP(パキスタン・タリバン運動)を移住させる計画も進んでいるという。アルカイダなどのテロ組織も北部に拠点を構え、周辺国への過激思想の拡大を図っている。

 そうした折り、アムネスティーインターナショナルが、パンシール州で行われている無法な懲罰的行為を検証する報告書を出した。この報告者を紹介したTVホストのアブドラ・アザダは、タリバンを暗黙に認め、結果的にタリバンへの便宜を図っている米国や国連の態度に警鐘を鳴らし、「そうした行為がアフガン国民に落胆を与えないことを願っている」とツイートした。

 タリバンが行なっていることはまさに強制移住などのエスニッククレンジング(民族浄化)政策であり、現代社会で決して許されることではない。いや、どんな時代でも、どんな場所でも、そうした非人間的行為は許されるはずがない。そうした行為を過去には非難してきた欧米が、アフガニスタンの状況に大きな声を上げないことを、良心的な人々は不思議に思っている。
 前述のアブドラ・アザダはテレビ番組の中で、アフガニスタンで過激派テロ組織が勢力を伸ばしていることに世界が無反応でいることにも疑問を投げかけている。タリバンに抵抗を続ける国民抵抗戦線は、「この戦いはテロとの戦いなのだ」と世界に訴えているが、ウクライナ支援に精一杯の欧米は大きな関心を払っていない。さらには隣国のイランは米国に対抗する戦略としてタリバン支援を続け、やはり隣国のパキスタンは国際社会の中で、いまもタリバンを支えようとしている。そうした国際情勢の元で、パンシールを始めとする北部地域の住民が塗炭の苦しみを味わっている。

 私が代表を務める「アフガニスタン 山の学校支援の会」は2004年から毎年のように公式訪問を続けてきたが、タリバンが地域を制圧してからの2年間、現地を訪れることが叶っていない。住民と子どもたちが戻れば、すぐにでもポーランデに向かいたいという気持ちは強いが、緊張した状況はそれを許さない。
現地からは流れてくるニュースは重く、つらいものが多い。現地の状況を見守ることしかできないことが歯がゆいが、いまは好転することを念じ、祈ることしかできないのが現実だ。

 それでも私たちは希望を捨てない。それは、山の子どもたちも住民も同じ気持ちだろう。みな、心の中で、いつか故郷に帰る日を夢見ている。私は「人々のそうした夢と希望は、地中に埋まった種のように、じっと芽を出す機会を待っているのではないだろうか」と思う。それがいつか芽吹いた時、私たちは成長の手助けができるはずだ。その時まで何年でも待ち続けようと思っている。
 そんな気持ちと決意を2024年の「アフガニスタン 山の学校支援の会」カレンダー制作に込めた(9月12日以降、発売開始)。例年制作している壁掛けタイプのタイトルは『地球に謳う』。このたび復活する卓上タイプのタイトルは『この学校が好き!』で、子どもたちの写真13枚を使っている。山の子どもたちを忘れないで欲しいと、切り離してポストカードとしても使える形にした。

〈「アフガニスタン 山の学校支援の会」卓上カレンダーの表紙。教室でのうれしそうな表情〉
〈学校に向かう。カレンダーの6月のページ〉

 子どもたちのこの笑顔は希望の種。その種は地中深く眠っているかもしれないが、必ず芽を出す。
私たちはその笑顔をわすれないことで、心に希望を持ち続けることができる。

  2023年6月25日 長倉洋海

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