h.nagakura

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ブラジル写真展報告

※ホームページの不具合により、公開が遅れましたことを深くお詫び申し上げます。※

 2023年10月24日からブラジル・サンパウロで始まった写真展『長倉洋海 アユトン・クレナックとアマゾンを行く』展のオープニングのために、10月21日に現地に向かいました。

空港で20年ぶりに喜びの再会を果たしたアユトンとともに会場であるTomie Othake 文化センターに着くと、3展示室を使った大掛かりな展示に驚き、喜びがこみ上げてきました。また、そこで並べられていた写真展図録を見て、その厚さに驚きました。ハードカバーでページ数は294ページもあります。中にはアユトン、文化人類学者、ジャーナリストや友人たちが寄せてくれた文章もふんだんに挟まれていて、主催者側の意気込みが伝わってきました。

空港に迎えに来てくれたアユトンと。
空港に迎えに来てくれたアユトンと。
写真展図録。ポルトガル語と英語での表記。
写真展図録。ポルトガル語と英語での表記。

 会場でのイベント・シンポジュウムにはかつて取材した5つの先住民グループがブラジル各地から集まってくれ、これまた嬉しい再会でした。
アシャニンカ族のシャースィは私が訪れた頃は12歳の少女でしたが、15歳の娘シイナを同行してペルー国境から三日もかけてやってきてくれました。写真展の様子やインタビューはテレビニュースや新聞の特集記事でも大きく取り上げられ、会場には大学生や高校生、中学生の姿もありました。

会場にてアユトンと。
会場にてアユトンと。
イベントには懐かしい先住民の友人たちが集まってくれた。(アユトンの左は、会場館長のオオタケ氏)
イベントには懐かしい先住民の
友人たちが集まってくれた。
(アユトンの左は、会場館長のオオタケ氏)

 みなさんにお伝えしたいのは、私の写真がなぜいま展示されたのか、ということです。怪訝に思う方もおられるでしょう。4年前には一度、スポンサーが見つからず企画が没になったのですが、再び光があたり、大手銀行がスポンサーについて実現しました。その陰には、国立文学アカデミー会員(定員40名)に先住民として初めて選出されたアユトンや友人たちの尽力が大きかったと思いますが、ブラジルでの先住民への関心と敬意の念が高まっていることが時代的な要因だったと思います。歴代の政府が進めてきた「開発」と「森の破壊」への見直しが始まっているのです。昨年来、狩猟民族ヤノマミの居住区へ押しかけた1万を超える金掘り人たちによって、地域が汚染され、狩りの獲物が激減したことで、ヤノマミの子どもたちが病気や飢餓に追い込まれたことも連日報道され、世間の耳目を集めました。森を守る先住民に心を寄せる人も増えているのです。今年2月のリオのカーニバルのテーマが「ヤノマミ」に決まったことも今までにない変化だと思います。

 しかし、先住民を取り巻く環境は依然、厳しいままです。アユトンたちがかつてインディオ連合を結成、運動を進めることで先住民の土地確定が進んできました。しかし、ブラジル人たちは森に侵入し、金を掘り、先住民を虐待してきました。イベント会場で話を始めたクリカチ族のプルイは、「何度も命の危機があり、いまも不安を覚えています。土地を守るために神経も使っています。私たちはまるで籠の鳥のようです。自由に空を飛びたいのです。対立を求めているのではなく、相手を同じ人間として尊重したいのです」と悲痛に訴えました。それでもアユトンに伝統歌を歌うことを促されると、マイクも使わず、吹き抜けの大ホールに集まった300人以上の人々の前で堂々と歌声を披露しました。私は、村の大きな木の前で、毎晩、彼女たちが歌っていた姿を思い出し胸が熱くなりました。このような祖先からの伝統が彼らを支えてきたに違いありません。同時にアユトンが20年前に語った「私たちは災害で粉々になっても、魂は風に舞いながらも生きていく。決してなくならない」という言葉も私の心に蘇りました。

 

 今回の訪問で、たくさんの新たなことを教わりました。それは、『世界は1つのことで繋がっている』という思いです。

いま、世界では「自分たちだけがよければ地球のことも未来がどうなってもいい」という論理が広がっています。アフガニスタンのタリバンが女性を人間として認めず、パレスチナでは民衆や子どもたちを殺すことをなんとも思わない勢力が跋扈しています。日本でもスリランカ女性の拘置所での虐待やベトナム実習生への差別や暴力などがありました。人間を尊重できない輩が、どうして地球や自然への敬意を払い、未来に心を寄せることができるでしょうか。

 私たちはそんな時代風潮の中で一体、何ができるのでしょうか。

まず自分のまわりや自分が関わっている事柄で以前よりも歩を進め、一歩、前に踏み出すこと。それがいつか世界を変えていく力に繋がると私は信じています。

 希望を探す旅を私はまだ続けていきます。サンパウロでの展示は2月4日まで。そのあとはリオデジャネイロ、ブラジリア、ベロオリゾンテでそれぞれ三ヶ月の会期で開催、一年をかけてブラジルを巡ります。

この展示がブラジルの人たちへ何かの希望をもたらすことができるように願っています。

長倉洋海

たくさんの人が会場に足を運んでくれました。大竹富江研究所Facebookページより
たくさんの人が会場に足を運んでくれました。大竹富江研究所Facebookページより
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