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MESSAGE

長倉洋海よりアフガニスタン情勢に関するメッセージ 2023.9.9

 9月9日はマスードの命日だ。数日前、オーストラリア・マスード財団が「9月2日はマスードの70回目の誕生日となる」と、私の写真集「MASSOUD」からの写真を使って投稿していた。そうかあ、9月2日が誕生日なのか、でもきっと便宜的な日付なんだろうなあ、と思った。マスードは私が「1952年生まれなのか1953年か」と尋ねても、笑って「どうでもいいよ」と笑っていた。彼の同級生の言に従って、私は「1952年生まれ」としていたが、2019年に息子のアフマッドに確認すると「1953年ということにしている」と言ったので、以来、そちらを採用している。

〈私の写真集「MASSOUD」からの写真を使ったオーストラリア・マスード財団の投稿。Xより〉
〈私の写真集「MASSOUD」からの写真を使った
オーストラリア・マスード財団の投稿。Xより〉

 だが、年齢がそんなに大切なことなのだろうか、と最近よく思う。2022年に取材したスールー海の漂海民に年齢を尋ねたら、「年を数えることにどんな意味があるのか」と言われて、ハッとした。私たちは国に管理され社会で働くために年齢明示を求められるが、実年齢を知らないからと言って、生きることになんの支障もないのだ。人をみれば大体がわかる。その程度でいいのかもしれない。

 人は生まれ、死んでいく。ただ、その限られた「生」をどう生き、いかに未来に繋いでいくのか、それが一番大切なはずだ。マスードは50年に満たない人生だったが、与えられた生を思い切り生き、次代に伝えるべきものを確実に遺した。それは素晴らしい生きざまだったと私は今でも思っている。

 シルクロードのアイハヌム(現在のアフガニスタン北部)遺跡で発見された紀元前2100年前の銘文付き容器に書かれた言葉がある。

「幼き者は行儀良き者となり、青年となれば自制する者となり、壮年となれば正義する者となり、老年となれば良き助言者となれ。されば、良き死を迎えん」。

この言葉を『黄金のアフガニスタン展』(国立博物館)で私は知り、深く心打たれた。4000年以上前から、「人は、いかに生き、そして死するべきかを考えていた」ことを知ったからだ。その言葉をまさに実践するかのように「自らの“生”を生き抜いた」マスードは、次代につながっていくことだけを願い、穏やかに向こう側へ旅立ったのではないだろうか。

 

 話を現在のアフガニスタンに戻す。この2年間、当メッセージで伝えてきたとおり、タリバンの蛮行は収まらず、自分たち本位に政治と経済を動かし、多くの苦しむ民のことを一切考えようとしていないことは変わっていない。それでも、人々は諦めることなく、現状の変革を求めて行動している。

数日前には、「抗議活動を準備していた容疑で、8人の女性たちがタリバンに家に押し込まれ逮捕された」とPanjshirProvin1が伝えている。 別に、家に押し入った状況を隠し撮りした映像の投稿もある。

 タリバンのアフガニスタン支配は、繰り返し伝えているとおり米国が残した900億円もの武器・弾薬と、米国が毎週運搬している4000万ドルの支援金(人道支援という名目で)によって、ますます強固なものになっている。各地で国民抵抗戦線(NRF)をはじめいくつかの武装勢力が闘争を続けており、9月3日の戦況マップでは16の州でタリバンに対して攻撃をかけていると報じているが、タリバンの支配は揺らいでいない。

〈国民抵抗戦線発表の戦況地図〉
〈国民抵抗戦線発表の戦況地図〉
〈ガーディアン紙記事。Xより〉
〈ガーディアン紙記事。Xより〉

女子の高等教育停止、女性の就労禁止など、見通しが立たない中、経済は悪化し未来も展望できない。英国のThe Guardianが「現実に絶望して自殺する」女性が増えていることを詳しくレポートしている。

バルフ州ではマドラサ(イスラム神学校)の女学生たちが銃を掲げ、タリバン支持を行進する映像の投稿。「これがタリバンの望むアフガニスタンだ」との言葉が添えられていた。

〈パンシールで捕虜を射殺するタリバン兵の動画から。Xより〉
〈パンシールで捕虜を射殺する
タリバン兵の動画から。Xより〉
〈バルフ州での神学校女学生たちのタリバン支持行進。Xより〉
〈バルフ州での神学校女学生たちの
タリバン支持行進。Xより〉

 

 山中で、タリバンが禁じた楽器演奏をする国民抵抗戦線の兵士たちの投稿があった。演奏をする動画とともに「私たちは人々の自由のために、国の独立のために、子どもたちの未来のために戦っている」というマスードの言葉が添えられていた。

タリバンに弾圧されるハザラの子どもたちが「私たちは勉強することも仕事することも禁じられ、家庭の経済状況はとても厳しいです。でも、私たちは夢を捨てません」と流暢な英語で訴えている。

 ここには希望がある。それは決して夢を捨てないという決意であり、夢が叶うまで諦めないという意志。

希望こそが、アフガニスタンの未来を切り開いていく。

2023年9月9日
マスードの命日に 長倉洋海

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