長倉洋海よりアフガニスタン情勢に関するメッセージ 2023.8.15
8月15日、日本では「終戦記念日」だが、アフガニスタンではタリバンのカブール制圧から2年という日に当たる。2年とひと口に言ってしまうが、この間、抑圧され続けたタジクやハザラの人、そして、アフガニスタンの現況を悲しんでいる心あるパシュトゥーンの人々、彼らにとって、苦しく、そして堪え難い日々だったに違いない。
日本でも毎日新聞など大手メディアが、「制圧後2年」を謳った特集記事を掲載している。毎日新聞は「アフガニスタンの抑圧状況は何も変わっていない」と国外に逃れた人や旧政府軍関係者の声を伝え、さらには川上珠美特派員が抵抗の象徴だったパンシール渓谷を訪れる現地ルポを掲載している。そのリードの「支配盤石」。盤石という見出しには疑問を覚えるが、ここに書かれていることはほぼ真実だろう。
川上特派員を含め、世界のジャーナリストたちは、世界から認知されていないタリバンがここまで支配を続けていることに驚きを覚えているだろうし、私も武力と暴力の支配がここまで長続きするはずがないと思っていた。
では、タリバンが統治して、アフガニスタンは平和な国になったのか、というと全く違うと思う。ACLED(独立調査機関)データが作成した『この2年間のアフガニスタンにおける抑圧状況地図』を見れば、その答えは一目瞭然だ。民間人を対象とした暴力事件(殺害や拘留など)は1000件を超え、暴力の加害国家としてはミャンマーに次いでトップだと述べられている。
国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の22年7月の報告書によると、前政権の軍や政府職員160人が裁判などを経ずに殺害され、178人が恣意的に逮捕・拘束された。UNAMAは、「今年に入ってからも前政権関係者の殺害や拘束が続いているとしている」という。
メディアへの抑圧も強化され、ジャーナリストは迫害を受けている。仕事を持った女性、学校で学びたい女生徒たち、音楽家やスポーツ選手、詩人や文学者、弾圧の対象となっていない職種の人を探すのが難しいくらいだ。人々はタリバンを恐れ、口を噤んでいるに過ぎないが、こうした抑圧の背後にはタリバンの明確な意思がある。
中でもタジクやハザラ人が住む地域(北部と中央部)で家屋を破壊、土地を没収、人々を先祖伝来の地から追い出している。その後にパシュトゥーン人を入れ、時には過激派のTTP(パキスタン・タリバン運動)戦闘員を入植させたりしている。それはタジク・ハザラに限らずウズベキ、トルクメンなどにも及んでおり、昨日は「13歳の少女をタリバンに嫁がせるように脅されているトルクメンの家族」の映像が投稿されていた。土地や財産を奪うために、「反タリバン勢力とつながっている」と難癖をつけるケースもある。
ウェブサイト「ウエッブ・アフガン」の「Hashut e Subh Dailyの『この10日間の出来事』」を見ると、「女性が斬首」「結婚式の太鼓を押収」「ラジオ局を閉鎖」「手榴弾で2人の子供が死亡」「妊婦を殺害。遺体を切断」「拷問で死亡」「若い女性が自殺」と、見ているだけで胸が苦しくなる事件が並ぶ。これらの残酷な行為は、人々への見せしめと考えているのかもしれない。
メディアを封殺し、国民を、言うことを聞く従順な存在、静かな羊のようにすることがタリバンの狙いなのだろう。女学生から教育の現場を奪うのはその延長線上にある。これらが達成されていれば、特段、国際的認知がなくてもいいと考えているようだ。それでも国際的な人道支援も届くし、米国は毎週ドル現金を送ってくれる。麻薬の販売で幹部たちの懐も潤っている。ヨーロッパ各国はウクライナ支援に追われ、アフガニスタンに干渉しようとしていない。すべてが、タリバンにとって、好都合なのだ。だから、主導権争いを内包しながらも、タリバンは国内支配を維持できている。
こうした現状に強い危機感を表した人がいる。アブダリ駐日アフガニスタン大使だ。日本政府がタリバンを認知していないので、タリバンは新たな大使を送り込めずにいる。大使は旧政権を支持し、大使館を退去せずにとどまり続けている。もちろん本国からの送金はなく、建物の維持費や給与の支払いも大変だと思うが、自らの意志を曲げることなく、アフガニスタンの未来へ声をあげている。
大使の「国の再建に向けたロードマップ作りを主導して欲しい」という声に、岸田政権はどう応えるのか。本気で世界の平和に取り組むつもりがあるなら、日本が果たせることは必ずある。そして、それが日本とアフガニスタンとの本当の友好関係を作り上げるはずだ。
私は見続けていく。変革の日まで。
それが人々の支えになると信じるから。
見守ることは、見守られること。
励ますことは、励まされること。
人が古から大切にしてきたものを逃すな。
「永遠」につながるものの尻尾を掴み、離すな。
2023年8月15日 長倉洋海